助成金・補助金等、経営力UPの経営情報が満載!

専門家コラム

専門家コラム
会員登録すると、
新規会員登録はこちら
お気に入りに追加 シェアツイートLINEはてぶ

有事を乗り切る理念経営とは

新型コロナウイルス感染症の波が何度も押し寄せ、先が見通せない状況が続いています。経営者だけでなく社員の間にも不安感が漂っているのではないでしょうか。この状況に右往左往することなく前進していく原動力となるのが経営理念です。経営理念の策定、浸透のポイントとは・・・

(掲載日 2022/02/28)

「有事を乗り切る理念経営のすすめ」

■なぜ有事に経営理念が重要なのか


新型コロナウイルス感染症の拡大により何度も緊急事態宣言が発令され、企業活動に大きな影響が出ています*1。今後も新たな感染の波が押し寄せてくるかもしれませんし、地震や天災など新たな危機が襲ってくるかも分かりません。

このような有事では、不安感や焦燥感から右往左往してしまい、打つ手を誤ってしまうことは珍しくありません。また、中小企業に対する公的支援等を活用し、様々な融資等で資金繰りを凌いできた場合は必ず返済期限が到来します。返済に行き詰まれば、事業を継続できず雇用を守ることもできなくなります。

このような状況でも適切に対応し売上回復を図っていくためには、自社の事業の方向性や戦略を考え、新たな取組みを実施していく必要があります。その際、重要になるのが経営理念です。経営理念には次のような効果があり、有事を乗り切る原動力となるからです。

①社長と社員が同じ方向を向くようになる

②判断軸、判断基準、行動指針が明確になる

③適確で迅速な納得のいく対応ができる

④社員が自立的に動き、成果につながる

⑤社員の自信とモチベーションが高まる

⑥社員が多様であっても一つにまとまる


明確な経営理念で有事に対応した例としてよく取り上げられるのが、ジョンソン・エンド・ジョンソン社です。

1982年にアメリカで同社の主力製品であった鎮痛解熱剤に青酸化合物が混入されるという事件が発生しました。経営陣は事件発生当日にマスコミを集め情報公開を行い、大量のテレビ放送、販売の即時中止、全品回収を即決しました。被害総額は約1億ドルと言われましたが、2カ月後には事件前の売上の80%まで回復し奇跡の復活と言われました。同社には「我が信条」という経営理念があります。経営陣は「我が信条」に基づき対応し、有事を乗り切ったのです*2



■経営理念とは


「経営理念」とはどういうものでしょうか。

研究者、経営者、実務家などから、「経営者の信念」、「組織の価値観や行動規範」、「事業の基本的信条」等々、さまざまな表現で語られています。どれも正しく、唯一の正解はありませんが、ここでは、経営理念を「ミッション、ビジョン、バリューが三位一体となったもので、経営のすべての活動を社内外に伝わるレベルで言語化したもの」とします。ミッション、ビジョン、バリューという言葉についても、これまで耳にしたことがあるでしょう。これらの定義も一つではありませんが、ここでは次のように考えます。

ミッション企業の使命・目的・果たすべき役割。仕事をする理由(Why)。
ビジョン中期的(3~5年)な企業の目標や理想の姿(売上高や店舗数などで表現されることもある)。成し遂げたいこと(What)。
バリュー一人ひとりの仕事に対する価値観やミッション・ビジョン実現のために必要な価値観や行動指針。どのように行動するか(How)。

重要なことは、これらが「伝える」レベルではなく、「伝わる」レベルに言語化されていることです。

社長が「うちはちゃんと経営理念はあるし、額に入れてよく見えるところに掲げている」と言っていても、社員に聞くと「誰も知らない」とか「職場にぴったりこない」と言われることは珍しくありません。それは経営理念が「伝わる」レベルになっていないからです。伝わるレベルになっていないと、人は共感しません。共感しないと、自立的に動きません。社員が自立的に動かないと、成果につながりません。

ちなみに、伝わるレベルになっているかどうかは、社員に「うちの経営理念はどう思う?」と聞いてみればすぐ分かります。すぐさま「いいね!」という反応が返ってこないようであれば、伝わるレベルにはなっていない可能性が大きいと考えるべきです。

また、最近、パーパス経営という言葉がよく使われるようになりましたが、上記の経営理念に基づく経営とほとんど同じものであると筆者は捉えています。


■経営理念策定のポイント


では、成果につながる経営理念(ミッション、ビジョン、バリュー)の策定はどのように進めていけばいいでしょうか。


ミッションは次のような5段階の流れで策定します。通常は社長や経営幹部が策定しますが、第三者と対話をしながら進めていくことがコツです。その方が深掘りでき、言語化しやすくなります。

①自社のステークホルダー(顧客、従業員等の自社を取り巻く関係者)を確認

②描いている事業構想や事業の方向性を確認

③事業を始めたきっかけを振返り

④自分が大切にしている価値観を確認

⑤その価値観がステークホルダーにどのような良い影響を与えたか確認



ビジョンも社長や経営幹部が策定することが多いですが、策定の際には、ステークホルダーにとっての価値などの自社以外の利益を言語化することがコツです。それは、ビジョンはステークホルダーからの応援や協力がなければ実現が難しいからです。
ビジョンが実現したとき、ステークホルダーがどうなっているかを考え言語化していきます。例えば、「○○地域に100店舗出店する」というビジョンであれば、「○○地域の100店舗でお客さま全員に幸せの笑顔を創る」というように、ビジョンが実現したときの顧客の姿を言語化すると共感が得やすくなります。


バリューは社員一人ひとりの行動指針ですが、一例をご紹介します。これはレーザー機器等の専門商社である株式会社日本レーザーのバリューの一部を抜粋したものです。

(株式会社日本レーザーのホームページから抜粋, 参照2022-02-14)
https://www.japanlaser.co.jp/company/philosophy/



このように、望ましい思考や行動を具体的に記載し、自分を主語にした書き方をすることがコツです。

また、ミッションやビジョン実現に向けて行動するためには、その行動を引き起こす思考や感情が極めて大切です。ある出来事が起こったとき、人は必ず自分の持っている価値観や思考、感情でその出来事を認識し、そのあとで行動に移るからです。思考や感情がいかに大切かを理解してもらうため、バリューの策定にあたっては社員研修や個人面談なども行います。さらに、バリューは、社長や経営幹部だけでなく社員全員が考えて策定します。社長や経営幹部のバリュー案、社員全員のバリュー案をミーティングで共有し、キーワードを抽出して肉付けしていきます。
これには大きなエネルギーが必要ですが、このプロセスを経ることで、社員は自分たちの言葉がバリューに反映されていくことを実感します。そのことで経営理念を自分ごととして捉えることができるようになるのです。

策定した経営理念(ミッション、ビジョン、バリュー)は一枚のカードにまとめます。これはクレドカードと呼ばれ、全員がいつも持ち歩きます。何かあればすぐクレドカード見ることで、経営理念は日々の行動に落とし込まれます。



■経営理念浸透のポイント


このように策定した経営理念も浸透しなければ成果に結びつきません。では、浸透しているというのはどういう状態でしょうか?

一口に浸透といっても、次の3段階があることを理解しておく必要があります。

レベル状態意識
レベル1知っている理念があることは知っているが、意識してもできない
レベル2分かっている理念を理解しており、意識すればできる
レベル3共感している理念を理解しており、意識しなくてもできる

先に「伝わる」レベルでないと人は共感しないし自立的に動かないことをお伝えしました。浸透についても、「共感している」レベルでないと、本当に浸透しているとは言えません。「共感している」レベル(レベル3)になって初めて、意識せず行動できるようになるからです。

レベルを1から3まで引き上げていくためには、経営理念を意識する頻度を増やすことが大切です。その具体的施策としては、次のようなことが考えらえます。

①朝礼や定期的ミーティングで、バリューに沿った行動でどのような良いことがあったか、クレームに対してどのバリューをもっと意識すればよかったのか等を発表し、ディスカッションする。

②サンキューカードに「○○さん、今日は~~をしてくれてありがとうございます。とても助かりました」というように、良かったと思う行動を書いて感謝の気持ちを伝える。良い行動は必ずバリューと関連性があるので、バリューの浸透につながる。

③定期的に理念研修を行い、経営理念の意味や目的の理解を深める。

④クレドカードの達成度評価を人事評価の要素に加える。

⑤社長が理念ヒストリー、理念エピソードを社内SNS等で語りかける。

⑥経営理念に関するイベントを社内で行う(経営理念フォーラム、理念表彰等)。




■まとめ


新型コロナウイルス感染症のような有事の際にこそ、経営の判断軸となる経営理念に戻ることが重要です。経営理念があれば、右往左往せず迅速で納得のいく経営判断ができます。経営理念を伝わるレベルで言語化することで、社員は自立的に動き成果につながります。

今の時期だからこそ、経営理念の策定・見直し、浸透に取り組んではいかがでしょうか。

本コラムの内容の一部は、一般社団法人リネジツ代表理事 生岡直人氏(理念実現パートナー®)から学んだ内容をもとにしている。

*1:東京都では2020年4月7日から2021年9月30日までの間に緊急事態宣言が4回発令され、まん延防止等重点措置が2回適用された。

*2:「我が信条」には、第一から第四までの責任が記載されている。例えば、第一の責任について、「我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる患者、医師、看護師、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する」と述べている。
出典:“「我が信条(Our Credo)」 にまつわるエピソード 「我が信条(Our Credo)」とは”. ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社Webサイト, https://www.jnj.co.jp/about-jnj/our-credo, (参照2022-01-28)

著者プロフィール

山内 慎一(やまうち未来経営研究所代表)

非鉄金属メーカーで37年間、人事労務、総務、経営管理等に従事。現在は、ビジョン実現サポーターとして、社長と社員が同じ方向を向いて歩む社会と組織づくりのため、経営理念の策定・浸透、人財育成等を中心に中小企業の経営者と働く一人ひとりを伴走支援している。産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント、キャッシュフローコーチ。

< 専門家コラムTOP

pagetop