VRツールを新たな事業の柱に育て、経営環境の荒波を乗り切る
企業名:株式会社sheep 取材先ご担当者様:代表取締役社長:清水信宏氏

コロナ禍で結婚情報誌への広告出稿量が減少し、多くの事業者が撤退した。さらに、制作に強みがあり利益貢献も見込める海外ウェディングの需要は、円安の影響も重なって激減している。こうした経営環境にあって、当社は金融機関からコロナ融資を受けたが・・・
企業概要

株式会社sheep(代表取締役社長:清水信宏氏)は、東京都新宿区神楽坂にある広告制作プロダクションである。ブライダル業界情報誌やパンフレット等のPRツールの制作を請負うクリエイティブワークと国内・海外リゾートウェディングの知識を強みにする。
代表取締役の清水氏は、大手情報メディア企業の出版部門に勤務した後に、広告代理店勤務を経て35歳で個人開業し、2009年に法人化した。大手企業勤務時代に結婚情報誌の制作を担当し、転職・独立後も継続して制作請負を手掛けている。もう一つの柱には、女性インナーウエアの販売サイトに関する広告制作があり、テレビCMを手掛けた実績もある。
企業の悩み
清水氏は大手企業勤務から26年にわたり結婚情報誌の制作を担当し、独立後も一時期は元勤務先関連の制作請負が売上の9割を占めていた。しかし、雑誌がWEBに置き換わる出版業界の流れを受けて、雑誌媒体の制作業務は次第に縮小しており、主力の結婚情報誌もその影響を受けている。
とりわけウェディング業界では、コロナ禍で結婚情報誌への広告出稿量が減少し、多くの事業者が撤退した。さらに、当社の制作に強みがあり利益貢献も見込める海外ウェディングの需要は、円安の影響も重なって激減している。こうした経営環境にあって、当社は金融機関からコロナ融資を受けたが、今後の借入金の返済原資を確保するためには新たな事業の柱が必要だった。
社内で新事業の検討を重ねた末、事業再構築補助金を利用し、VR技術を活用した接客支援ツールの開発に成功した。VRゴーグルは、視界の360°に渡って、選択した3D映像の世界に没入体験できるのが特徴できる。このため、結婚式場であれば、結婚式の当日さながらに装飾した会場を見学でき、花の装飾もグレード別に確認できるため、成約率向上や単価アップにつなげられる。ウェディングプランナーの労働時間短縮の効果も確認されており、式場の集客を担う結婚情報誌とも競合がなく連携しやすい。既存事業が落ち込む中で業績を維持するためには、VRツールの新サービスをいち早く収益源にすることが至上命題である。新型コロナが5類感染症に移行され、展示会出展等の営業推進策を模索する中で、専門家による経営分析を受けることができる本プロジェクトを紹介された。
導き出された課題
専門家による経営分析の結果、指摘された課題は、①生産性向上に向けたインセンティブ制度の導入、②中途採用に整合した人事評価や登用制度の整備、③新業務の新規顧客に対応する社内体制の確保や業務フローの整理の3点である。
VRツールの営業では、これまでの人脈に頼った広告制作関連の受注だけでなく、結婚式場等への新規アプローチで新たな顧客を開拓していく必要がある。しかし、営業担当として正社員を新規採用したものの成果が上がらない状態が続き、人件費負担が経営を圧迫していた。
新サービスの収益化には、成果を反映した給与体系の導入や現状人員で新業務に対応するための担当職務の見直し、さらには、機能的な体制と効率的な業務フローの確立が求められる。清水氏は、こうした課題解決のため、本プロジェクトのアシストコースを受けることにした。
提案された解決策
アシストコースを利用して、専門家から具体的なアドバイスを受けながら、課題解決に向けて取り組んだ。まずは、経費構造を把握するため、販売管理費を変動費と固定費に分解し、コスト面から改善の方向性を見定めた。また、自社商品の価値を適正に見積価格に反映させるように、新たに営業費の加算等を実施した。
営業推進面では、営業見込み表の活用による管理体制の改善を目指し、ターゲット選定とアプローチ方法の検討、交渉結果から継続営業の要否を判断するというPDCAを行った。しかし、それでも新規取引先の獲得につながらない。清水氏は、今後の活躍を期待したい人情と会社経営との狭間でひとり葛藤していた。そうした悩みに共感してくれた専門家のアドバイスを参考にしつつ、清水氏は、成果報酬型の要素を入れた給与体系への変更を、営業社員本人と相談する苦渋の決断に至る。複数の勤務プランを用意して、本人と対話を重ねたが、最終的に「退社して別の道を歩みたい」との申し出を受けた。
その後の状況
営業推進の成果を上げる課題解決のために別の施策として営業のアウトソーシング化を進めていた当社は、営業代行専門業者に、女子校、保育園、女性向けクリニック等を営業ターゲットとしてテレアポを依頼したところ、実働3か月間で10法人との商談機会が得られた。ブライダル業界でも、最初のターゲットとした20か所のホテルで5つの商談を持てた。商談先は社内スタッフが手分けして成約に向けて継続フォローしている。ある有力な事業者からは代理店契約の問い合わせもある。営業部門をアウトソーシングできれば、スタッフを増員せずにリスクを抑えながら事業の拡大を目指せる。VRツールはユーザーとの直接契約で、高い利益率と安定収入が期待できる。新たな事業の柱を立て、さらに太くしていく取り組みが進んでいる。
企業様の声
経営課題に対する選択に悩む中、専門家に力強く背中を押され、大変勇気づけられました。
今後は、安定した黒字経営を目標において、海外ウェディング案件の取り込みを図りつつ、VR接客支援ツールの販売を促進して業績の安定を目指します。そうして、社内のメンバーが、よりクリエイティブな業務に力を注げる環境を整備します。将来的には、ブライダル関連以外の領域を増やして、独立意向のある社員の活躍の場を提供したいと考えています。
(代表取締役社長:清水信宏氏)
支援者の声
これまで社長の強い意志で事業の拡大やスタッフの拡充等、試行錯誤してこられました。
しかし、コロナ禍を経て事業の見直しや日々変化していく環境への対応策の検討が必要と感じ、アシストコースをお申込いただきました。アシストコースでは新規取引先の発掘、管理体制の見直しと改善をメインに支援を行いました。支援を通して、社内の強み・弱みを明確化し、課題は何かという社長ご自身の気づきにつながり、改善の道筋を立てることができました。事業の見直しとさらなる拡大のため、引き続き支援してまいります。
(東京商工会議所:新井捺紀氏)
企業情報
企業名 | 株式会社sheep |
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代表者 | 代表取締役社長:清水信宏氏 |
創業年 | 2009 |
業種 | サービス業(ブライダルを中心とした広告・ツール制作) |
所在地 | 東京都新宿区袋町5-1 FARO 神楽坂309 |
事業PR | |
URL | https://www.sheep-home.com |
中小企業診断士 小松弘樹