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「試算表」をもっと経営に活かすために

厳しい経営環境が続く中、会社の持続的発展のためには、より早く現状を把握し、必要な施策を実施することが不可欠です。そのような時、「試算表」はとても頼もしい味方となってくれます。そんな「試算表」をより経営に活かすための方法をお伝えします。

(掲載日 2020/11/25)

経営に活かす「試算表」の使い方

■はじめに


 金融機関が会社の業績や財務内容を把握する際はまず「決算書」を確認します。
 前期までの業績を確認する際、決算書はとても役立ちますが、経営者がタイムリーに会社の収益状況や財務内容を確認する場合には「試算表」の確認が欠かせません。

 元々「試算表」は、仕訳帳から総勘定元帳の各勘定科目への転記がきちんとミス無く行われているかを検証するための集計表ですが、その時点での勘定科目毎の残高が確認できることから、タイムリーな現状把握に役立ちます

<試算表の種類>
合計試算表:勘定科目ごとに借方の合計・貸方の合計をまとめた試算表
残高試算表:勘定科目ごとに特定時点の残高を示す試算表
合計残高試算表:合計試算表と残高試算表をひとまとめにした試算表

 税務署に提出する決算書は「制度会計」という枠の中で、一定のルールに従って処理がなされています。一方、経営者が意思決定を行う際に参考とする会計を「管理会計」と言います。
 今回は制度会計との整合性を取りながら、管理会計的な要素を取り入れるための基本的なステップについて確認します。

【1】早く数字を確認するために


① 必要性を認識する
 車を運転する際、時速40キロしかスピードを出していないつもりでも、スピードメーターを見たら60キロ出ていた…。このような体験をしたことがある方は多いと思います。現場を知り尽くしている経営者の皆様も、いざ試算表を確認したら思っていた数字と違っていた…。このような声はよく耳にします。
 タイムリーに現状を把握して次の行動に活かすためには、まず前月の試算表(月次試算表)をできるだけ早く経営者の手許に届けてもらう必要があります。まずこの認識を持つことからスタートしましょう。

② 翌月半ばには試算表を確認する
 月次試算表を翌月10日までに確認できれば、残りの20日間は前月の実績を踏まえた上で、様々な活動が展開できます。前月の試算表は翌月半ばまで、遅くとも翌月後半には、確認できる体制を整えたいところです。


③ 早く試算表を届けてもらうための取り組み
 試算表の作成に時間がかかりすぎるケースでは、遅くなってしまう原因を特定して改善を図りましょう。一般的には次のような原因が考えられます。

<自社で会計ソフトに入力している場合>
・仕訳の数が多く、入力に時間がかかる。
・手書きの資料や重複した書類を作成しているなど、効率の悪いやり方が残っている。
・正確な数字を把握するのに時間がかかる取引がある。

<試算表の作成を会計事務所に依頼している場合>
・会計事務所に資料を送るのが遅いため、結果的に試算表が出てくるのも遅くなる。
・いつまでに試算表が欲しいと明確に伝えていない(約束していない)。

 まず経理担当者に、試算表は経営状態を把握するために非常に重要な資料であることをきちんと伝え、ボトルネックになっている作業を洗い出してもらいましょう。その上で、全社的に取り組むべき内容経理担当者に工夫してもらう内容に分けて対策を検討しましょう。

<全社的に取り組むべき内容の例>
・経費精算の締め日と経理への提出日までの間隔を早める。
・請求書の発行依頼書の提出や取引先から届いた請求書の手続きなど、社内の締め日を徹底する。
(経理担当者まかせにせず、経営者から号令をかけた方が効果的かもしれません。)

<経理担当者ができる工夫の例>
・会計ソフトと銀行口座を連動させ、入力作業を効率化する。
・重複した入力作業(一旦エクセルで資料を作成して、再度会計ソフトに入力するなど)や、慣習的に作成しているがあまり活用されていない資料などがあれば見直す。
・細かすぎる仕訳の入力(摘要の内容など)を見直す。
・正確な数字を把握するのに時間がかかる取引は、一旦概算で計上して、後で正しい数値に修正する。



【2】数字の精度を高めるために


① 決算特有の処理を理解する
 月次試算表の数字が正しければ、それを12か月足したものが決算書になるはずですが、実際はそうならないケースがほとんどです。主な原因は決算特有の経理処理(決算修正仕訳)があるためです。

 「試算表で毎月会社の業績を確認していたが、決算修正仕訳で最後に数字が大きく動いてしまい、予定が変わってしまった…。」ということが無いように、決算特有の処理をあらかじめ見込んでおきましょう。その他、月次試算表の精度を上げるためのポイントを列挙します。
・売上を実現主義(*)で計上する
・原価は可能な限り売上と対応させて計上する
・月次でも棚卸を行う(ある程度概算でも行う方が良い)
・減価償却費を月割りで計上する
・消費税の納税を考慮する(特に税込経理の場合)
・決算賞与を予定している場合は金額を見込んでおく
・仮払金、仮受金などの残高をできるだけ残さないようにする

*実現主義:商品やサービスを提供し、引き換えに貨幣性資産(売掛債権も含む)を受け取った時点で売上を計上すること。出荷基準、引渡基準、検収基準などビジネスの形態に応じた判断が必要。

 経営者の皆さんは経理担当者に、決算修正仕訳で数字が動く場合は、常にその金額を把握しておくように伝えておきましょう。経理担当者の仕事に対する意識が「会計ソフトへの入力」に留まっているならば、「経営者の意思決定に必要な会計資料の作成」に変えてもらうように働きかけたいところです。


② 勘定科目の中身を把握して、必要であれば新たな勘定科目を設定する
 特に経費関係の勘定科目について、具体的に何の支出が含まれているか把握していない経営者の方は多いです。
 科目の名称から内容が想像できるケースがほとんどですが、例えば「支払手数料」の内容や、「福利厚生費」「会議費」「接待交際費」の使い分けなど、あやふやな部分があれば、経理担当者に確認するクセを付けましょう。
 また、売上内容に応じて複数の勘定科目に分ける、重要な費用項目はあえて独立した勘定科目を設けるなどの工夫をすれば、より実態把握が容易になります。

【3】損益は「推移」、貸借は「残高」を確認する


 月次残高試算表を1か月ごと横に並べた形式を「推移表」と呼びます。(市販の会計ソフトでは出力形式で「推移表」形式を選択すれば出力できるケースが多いです。)

 「月次損益計算書」を確認する際は、こちらの帳票(推移表)で勘定科目毎の推移を確認すると良いでしょう。経費は毎月いくら位かかっているか、売上は増加傾向か減少傾向かなどを確認しながら、直近の受注件数、見積件数などを考慮すれば、翌月・翌々月の収支状況に関する予測精度も上がります。

 また、「月次貸借対照表」は、「残高試算表形式」で現預金、売掛金、買掛金、借入金等の月末残高のうち、自社にとって重要な数値を毎月確認するようにしましょう。
 なお、売掛金や買掛金の取引先別や借入金の種類別など、適宜「補助科目(勘定科目の内訳項目)」を設定すれば、設定した単位ごとに残高確認ができるようになります。経理担当者には、経営者に試算表を提出する前に、取引先ごとの残高確認を行う(補助科目ごとに入出金などの動きを確認する)ことを習慣化させ、売掛金の回収もれや買掛金の支払い漏れ、あるいは経理処理や入力ミスの早期発見に繋げたいところです。



【4】経営に活かすための視点


① 必要な売上高を計算し、具体的な取り組みを強化する
 「損益推移表」の見方に慣れると、おおよそ毎月の固定費(売上の増減に関わらず発生する費用)が把握できるようになります。売上、原価、売上総利益は受注動向に左右され、予測が難しい側面がありますが、裏を返せば、毎月これくらいの固定費がかかるから、「今の原価率(粗利率)だとこれ位の売上を獲得しないと赤字になる。(あるいは目標利益を確保できない。)」という数値は計算できるはずです。その上で、必要な売上高を獲得するためにはいかなる取り組みが必要かを考え実行する。これも管理会計的な視点になります。


② 予実管理への展開
 収支計画や予算を月次ベースに落とし込み、計画や予算と月次試算表の数値と比較しながら管理する手法を「予実管理」と言います。
 経営目標を達成するためには計画と実績の差異を分析し、次の具体的な行動に反映させることが大切です。管理会計の次のステップとして、ぜひ導入を検討していただきたい仕組みです。

③ 部門別試算表の活用
 「従業員が成果を出すために、会社はいかなる情報を共有すべきか」は、会社経営において大切なテーマの一つです。
 会計ソフトに入力をする際、同時に部門別のコードを入力し、それを集計すると「部門別試算表」の出力が可能になります。全社で一つの試算表だけでは実態が把握しにくい規模になった場合は、部門別に試算表を作成し、部門長などと情報を共有する仕組みを構築することができれば、試算表の活用範囲がさらに広がります。

【5】最後に


 決算書は税務申告の必要性から半ば強制的に作成させられますが、「試算表」の有効活用は経営者の目的意識と意志しだいです。ぜひ経営判断の基礎資料として最大限有効に活用されることをお勧めします。

著者プロフィール

幡野 康夫(はたの やすお)(ハタノ経営支援サービス 代表)

大手通信企業にて新規事業の立上げ業務に従事、その後複数の会計事務所勤務を経て独立。
「一日一生、お客様の成長発展を通じて、世の中の進歩向上に貢献する」を理念に、経営計画・行動計画を社長と一緒に考え、経営会議や社内会議へ積極的に参加し、会社の成長をサポートしている。

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