中小企業が「最適な人材マッチング」を実現させるための心得
採用の売り手市場が続く中、高い給料を出せなくても人気職種の採用に成功している中小企業も存在します。そのような中小企業はいかなる方法で人材を獲得したのでしょうか。採用に精通する専門家が、自身の考察を交えながら人材のマッチング・定着化に寄与する有効策を紹介します。
(掲載日 2025/02/28)

人材マッチングで会社を活性化
15歳~64歳の生産年齢人口が減少し、若者などの働き手への求人が殺到している現在、企業の人材確保は、最大の経営課題と言って良い。
売り手市場は続き、大手のように高給を出せない中小企業経営者は、なかなか良い人材がとれない悩みがある。ただ、求職者は、給与水準や労働時間などの条件面だけではなく、仕事自体のやりがいや働きやすい職場、良い人間関係を求めていることを忘れてはならない。本稿では、筆者がこれまで支援させて頂いた企業の人材確保を通じ、感じ得たことを共有したい。
1.企業の人材ニーズ(企業訪問からの感想)
中小企業にとって、人材の確保・育成がいかに重要な課題か、2024年度中小企業白書に以下の記述がある。出典:2024年版「中小企業白書」第2部第1章 第1節人材の確保 PⅡ-2(中小企業庁)

出典:2024年版「中小企業白書」第2部第1章 第1節人材の確保 PⅡ-2 第2-1-1図
その人材に関し、「中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン」では、中核人材と業務人材に分けて定義している。
出典:2024年版「中小企業白書」第2部第1章 第1節人材の確保 PⅡ-3注記3を筆者編集
両方の人材とも不足している企業が多く、電気工事や機械装置等の監視業務、IT技術者など、中核人材が採用できないので、未経験の若手社員を採用し、社内で育成しようという動きも目立つ。
中核人材、業務人材を含め、経営者からは、以下のような人材ニーズを聞くことが多い。
①若手の営業担当(管理職や幹部候補)
②総務・経理業務の経験者
③地域を統括する支店長
④工事関係の施工管理技術者
⑤IT技術者
⑥研究開発部門の責任者
これらの人材ニーズの背景には、現職者の高齢化や退職に伴う人事交代や、受注増に伴う業務量の増加、商品開発・販路拡大、業務の効率化など様々な経営課題がある。コロナ禍から回復しつつある企業が、先を見据えた人的体制の強化や戦略の転換を担う人材確保など、新たな打ち手を講じているようだ。
対象の年齢層について、経営者からは、「長年新規採用を控えた結果、中間層が手薄になったので30代から40代の管理職を補強したい」「新卒者・若者を採用して組織の若返りを図りたい」「職場を活性化させたい」などの声が聞かれる。
こういった企業の動きは、下記の東京商工会議所の調査結果からも読み取れると考えられる。
出典:2024年12月 東京商工会議所「中小企業の経営課題に関するアンケート」調査結果 P12を筆者編集

出典:東京商工会議所「中小企業の経営課題に関するアンケート」調査結果 P12
一方、社員に求める能力や特性に関しては、営業、技術など職種に関係なく、チームワークやコミュニケーション能力、主体性を求める経営者が実に多い。

出典:2022年版「中小企業白書」第2部 第2章 第2節 人的資本への投資と組織の柔軟性、外部人材の活用 PⅡ-97 第2-2-17図
企業が、経営方針や課題を理解し、部下やメンバーをまとめていける人材をいかに必要としているかを実感する。概して社員数が少ない中小企業では、社員一人ひとりが即戦力として、やる気になり最大限能力を発揮することが求められる。そのためには、人材と仕事・企業をいかにマッチングさせるかが鍵となる。
2.人材のマッチング・定着化に向けた課題と提言
人材の争奪戦が激しい中、いかに自社の魅力・強みを求職者に伝えるか、企業の手腕が問われている。同時に、求職者側の企業の選別基準、求める働き方、仕事への価値観などをよく理解する必要がある。先日、一例であるが、求人を支援中のシステム開発会社で、二人のシステムエンジニアが採用された。確保が極めて難しい職種なのに採用できた理由について、人材紹介会社から以下の説明があった。
①(求職者から見て)対応してくれた人の印象がよかった。
②会社の将来性がよく伝わった。
③これまでの経験を生かしてスキルアップができる会社だと感じた。
④条件面(処遇)もよかった(決して高い年収ではないとのこと)。
この事例も参考として、人材マッチングに必要な要素を改めて整理してみた。
(1)求める人材像を明確にする
仕事に求められる経験・スキル、人物特性を具体的に示すこと。例えば、同じ営業職でも、既存顧客との取引関係が中心なのか、新規顧客の開拓力を重視するかで、求められる経験、能力、人物特性が異なってくる。総務・人事・経理職の場合、所掌範囲が広いので、どの業務に関するスキル・経験を重視するのか優先順を示すこと。例えば、給与計算を正確に行える、会計作業に精通しているなど個別の業務に熟練度を求めるのか、全体的に目が届き、外部機関や社内の調整能力を重視するのか等に着目する。
(2)自社の強みや魅力をしっかり伝える
いわゆる求人票に書く給与、労働時間、残業の有無、作業環境と言った労働条件以外に、人材育成の仕組み(OJT(実地研修)、資格取得の奨励支援等)や社風、従業員同士の人間関係といった職場環境などのアピールも社員の定着化につながる。社員が早期に辞める原因の大半は、処遇面以外に、職場の人間関係と言われている。白書では、自社に合う人材の採用につながる、学生の意見を知ることができると言う意味で、一定程度インターンシップの有効性をあげているので取組みの参考にされたい。
出典:2024年版「中小企業白書」第2部 第1章 第1節人材の確保 PⅡ-16 第2-1-13図
その他、「顧客基盤が安定している」「仕事の裁量権が広い」「ノルマに追われずじっくり仕事に取組める」「社員の定着率が高い」といった企業の特長点は、求職者にとっても安心して働くことができ、力も発揮しやすくなるのではないだろうか。
(3)求職者の求める働き方、キャリア意識を理解する
昨今、働き方や働き手の就業意識は多様化している。若者が、より良い処遇やスキルアップのために転職することも、以前より一般的になってきた。兼業・副業も徐々に広がりつつある。前述のシステム開発会社では、採用に関し会社側の選別基準だけで求職者を見ることはせず、求職者の経験・能力は、どのような業務なら生かせそうか、社内でかなり検討を行ったと聞く。求職者の持つ経験値や強みを引出すと共に、その人がどのような働き方をしたいのか、目指すキャリア・目標は何かなど、企業側が幅広い視点で理解しようとすることが望まれる。同時に、企業の経営方針やトップの考え、期待する役割などについては、最初にしっかり伝える必要がある。双方のニーズを擦り合わせ、ミスマッチを避けることが肝要である。
(4)入社後のフォローアップ
特に若手社員の場合、入社して最初の3か月は仕事や職場に慣れるのが大変で、何かと不安や悩みを抱えがちになる。誰にも相談できず退職という事態も起きかねない。経営者が目を配れる余裕があればよいのだが、同年代の先輩社員をメンター(相談相手)にすることで、同じ目線で悩みを共有し、相談に乗れる可能性もあるので参考にされたい。また、常に即戦力の人材が採用できるとは限らないので、可能な範囲でOJTや研修体制を作りたい。企業として、人材を大切にしていると言うメッセージにもなり、採用・育成・定着の好循環につながると考えられる。今、真の意味で経営者の人材マネジメントの手腕が問われているように思える。
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