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事例で読み解く「成長する企業」と「衰退する企業」の違い

めまぐるしく変化する現代の経営環境において、現状維持は衰退への第一歩と言われます。はたして、中小企業はどのようにして変化・進化を図るべきなのでしょうか。東京・大田区の複数の中小製造業が取り組むプロジェクトを例に、企業の成長には欠かせない考え方を紹介します。

(掲載日 2025/01/30)

成長企業と衰退傾向企業の差とそれを埋める方法

経営環境が不確実化した現代では、技術や強みだけではなく経営や変革への意識の大きさが各企業の将来を左右します。これまでよりも更に経営者が経営知識を活かすことが求められている事例を紹介します。

2016年に大田区の中小製造業複数社が中心となりビジネスモデル変革に合わせて、デジタル化を推進する取組みが始まりました。その活動は定着化し今も継続しています。このコラムでは大田区中小製造業が取り組んできた大田区の地域全体を視野に入れた改革の取組みを紹介します。また、こうした取組みの中で見えてきた、業績を拡大できる企業と衰退に向かってしまう企業の差から、現在の経営環境で企業を成長させる考え方も説明します。


1.大田区で推進したイノベーション

プロジェクト開始当初は工場数が4229社まで減少し、高度成長期の9177社をピークとすると半分以下に落ち込こんでいました。その背景は大きくはこれまで成長を支えていた下請型加工のビジネスモデルが今の時代に合わなくなってしまったためです。作れば売れる時代から、必要なものを見極め提供する時代への変化が余儀なくされました。この状況を打破するために大田区中小製造業は「ものづくり改革」「デジタル化」「コンソーシアム」の3つの取組みを推進してきました。

※筆者作成


(1)ものづくり改革

ここでは、ものづくりアドバイザリーサービスの立ち上げによる高付加価値化に向けた改革を推進しました。下請け型のものづくりは既存売上を確保する事業として維持しつつ、ものづくり技術を生かした新サービスをベンチャー企業や研究所等に提供し、新しい売上・利益の獲得を図りました。アイデアはあるが設計書作成ができない企業が多いことから、こうしたお客様を対象に企画から設計書の作成までをコンサルティングする高付加価値化の実現が可能になりました。


(2)デジタル化

金属加工を専門にしてきた工場が、新しいサービスを提供するために必要なコミュニケーションツール、図書のデジタル化、営業活動を支援するプラットフォームを構築しました。デジタルツールに慣れる、からはじまり段階的にデジタル化を進め、現在では各社なりのデジタル化を推進出来るようになってきています。


(3)コンソーシアム

ものづくり改革、デジタル化ノウハウを広く大田区内に伝播するグループの構築です。現在では100社が集まるグループに成長し、積極的にノウハウを提供することで「ものづくり改革」と「デジタル化」の取組み及びノウハウを大田区地域に広く展開する活動です。これにより、活動の認知度向上を図るとともに、全国に向けては大田区ものづくりのブランド変革も進めています。

大田区のプロジェクトでは区内の多くの中小製造業が一丸となってイノベーションを推進しています



2.取組みの中で見えてきた各社の差


(1)成長する企業

この取組みは推進力ある企業が中心となり、各社が連携して進めることで実現できています。大田区製造業をもっと良くしたい、皆で会社を良くして活気ある大田区製造業を復活させたいという強い意志で前進してきました。しかも、当初はボランティアで進め、検討会議なども業務時間の終了後に実施していました。時には、メンバー同士で意見をぶつけ合い、飲み会で思いを語る等、紆余曲折を経た取組みです。その結果、協力していただけるIT企業の参画に繋がり、デジタル化も一気に推進し、マネタイズも実現することができました。今では、海外への展開も視野に活動しています。

こうした流れに乗じるように、ものづくり改革、デジタル化の更に上を行く活動を推進する若い経営者たちも現れ始めました。彼らは経営に対する学習意欲が高く、様々な勉強会に参加し、デジタル化も直接ベンチャー企業を巻き込み自社に合わせたデジタル化を推進しています。ベンチャー企業と連携しながらイノベーションを創出する「ベンチャーフレンドリー」の活動を進めています。リスクを背負いながら、新しい事業を立ち上げ、長年続く町工場から売上を大きく拡大し企業規模のステップアップを実現しています。

出典:ベンチャーフレンドリープロジェクト(㈲安久工機 田中宙氏ご提供)



(2)衰退していく企業

しかし、一方では同じ地域で仕事をしていても衰退の方向に向かう企業も目の当たりにしています。補助金を上手く活用できず無理な成長計画を策定し、身の丈に合わない投資、そして増員を重ね、一時的には会社自体は大きくなったものの、想定した売上を実現できずに会社をたたまざるを得なくなった工場。まだ経理システムの導入ができていないから何とかして欲しいと支援に入っては見たものの、結果的にはこれまでの会社の方針や、今までのやり方を踏襲し変化できない企業。更には、先代との折り合いの中で自分の意見が通らないことを理由に、社内を分割させてしまい効率的な経営ができない状況を作ってしまっている企業。こうした企業は数を上げればきりがありません。せっかく良い技術を持っていても、投資リスクへの配慮不足、従来の経営の踏襲、課題解決力の不足が原因で衰退していってしまうことは非常に残念な事象です。


(3)こうした企業のベクトルを変えるためには

多くの工場や社長と接する中で見てきたことは、今までは技術を強みに企業成長が実現できたため「技術者>経営者」という立ち位置が重要でした。しかし、技術がデジタルに置き換わりつつある中で差別化要素になりづらく、技術を工夫する経営が求められるようになりました。つまり、「経営者>技術者」へ技術もわかる経営者へシフトチェンジする時代になったと言えます。今を生きていく経営者は経営知識を活かした企業の成長、企業に携わるステークホルダーの幸せを意識していくことが非常に重要です。

このコラムを読まれている経営者の皆様は意識が高い方が多いと思います。ですが、身の回りにはそこに気が付いていない経営者の方がいるかもしれません。しかし、それは自社内にしか目が届かない、外部からの情報が届かないなど、変化に気が付けないだけというケースが非常に多いです。差がつき始めてきた今は、先に行く経営者が現れた証拠でもあります。意識の高い皆さんが、これから変わろうとする経営者を巻き込み日本の中小企業の差を少なくすることが将来的には自社の成長に繋がります。経営意識を高く持ち、より多くの人を巻き込むことで、日本の中小企業の成長を加速化できると考えています。是非、皆さんで経営知識を蓄え更に企業を成長させましょう。

著者プロフィール

辻村 裕寛(㈱ネクサライズコンサルティング 代表取締役)

IT業界に10年、コンサルティングファームに20年、その傍ら2016年から中小企業診断士を取得し、同年から大田区製造業を中心に現在も中小製造業を数多く支援してきた。得意分野は、製造業・IT業界における経営、事業、現場改善。コンサルティング経験を活かした研修なども提供する。

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