戦略立案から具体的行動へ 今なお進化するBSCの使い方
BSC(バランス・スコアカード)は、4つの視点に沿って戦略の立案から具体的な行動まで落とし込むことができるバランスの取れたフレームワークです。大企業だけでなく中小企業にとっても非常に有効で、多くの企業で活用されています。BSCを活用し企業を成長に導くには・・・
(掲載日 2020/03/11)
BSC(バランス・スコアカード)で経営戦略・戦術を考える
BSC(バランス・スコアカード)という経営用語を、皆さんお聞きになったことがあるのではないでしょうか。上下4つの欄に置かれた項目が矢印で結ばれている図(戦略マップ)を思い浮かべる方も多いと思います。このBSCは、日本では2000年代に入って大企業を中心に採用され定着しましたが、中小企業にとっても経営戦略を考えるうえで非常に有効です。しかも経営ツールとして今も成長しており、多方面で活用されています。今回は、そんなBSCを分かり易くお話しします。
1.BSCは戦略経営のマネジメントシステム
BSC(Balanced Scorecard)は、1992年に ロバート・キャプラン教授と コンサルティング会社のデビッド・ノートン氏によってHarvard Business Review 誌上で発表されました。
その背景には、伝統的な経営管理システムや分析手法が精緻化したにも拘わらず、次第に機能しなくなってきたという事実があります。つまり、企業を取り巻く環境や前提条件がより複雑で厳しくなり、将来が過去の延長線上になく、予測が難しくなってきたのです。併せて、企業に対する評価は財務的データだけでなく非財務的データも重要視されるようになりました。この将来予測が難しい時代に、「戦略の実行」を確実に実現するツールとして、BSCは提示されました。
キャプラン&ノートン 「バランス・スコアカード」 1997 生産性出版 より (一部略)
BSCの特徴を簡単にまとめると次のようになります。
① ビジョンと戦略の明確化
企業が社会的成功を目指して進む方向は、ビジョン(将来構想)と戦略によって決まります。BSCはこのビジョンと戦略の立案と検証をサポートし、より明確にします。そして従業員や株主らステークホルダーが企業の進む方向を理解するのを助けます。
② 戦略の具体的活動への展開
ビジョンや戦略はともすれば抽象的なものになりがちですが、BSCはそれを具体的な戦略目標や施策に展開し、さらに現場のターゲットやアクションプランとして、各従業員が何をすべきかまで落とし込みます。これによって、従業員の行動が戦略を実現する活動に結び付きます。
③バランスのとれた業績評価
BSCはその名のとおり、バランスのとれたスコアカード(評価表)です。次でご説明するように4つの視点でバランスよく戦略を考えますが、さらに、財務と非財務、内部情報と外部情報、過去と現在と将来、短期的視点と長期的視点、ステークホルダーなど、さまざまな意味でバランスのとれた評価を実現します。
④継続的な経営改善
BSCは上記のようにビジョンと経営戦略を立案し、具体的行動にまで落とし込み、業績評価指標として評価します。その結果、立案した戦略が正しかったかどうか見直され、経営資源の再配分も含めて、経営の改善を継続的に図ることになります。
2.4つの視点と因果関係
BSCの大きな特徴は、従来財務計数で表されることの多かった目標と業績評価に対し、戦略目標を4つの視点で捉え、多面的な業績評価指標に落とし込んで評価することです。4つの視点は次の通りです。
①財務の視点 | 財務的に成功するために株主に対してどのように行動すべきか |
②顧客の視点 | 戦略を実現するために顧客に対してどのように行動すべきか |
③内部プロセスの視点 | 株主と顧客を満足させるためにどのようなビジネスプロセスを創るべきか |
④学習と成長の視点 | 戦略実現のために変化・改善する能力をどのように作り維持すべきか |
さて、BSCにおいて戦略目標実現のために重要なことは、各視点における、戦略目標(戦略テーマ) ⇔ 重要成功要因 ⇔ 業績評価指標 ⇔ ターゲット(数値目標) ⇔ 戦略プログラムないしアクションプラン の間の垂直的因果関係を確保することです。つまり、企業全体のビジョンと戦略に沿って個々の戦略目標(戦略テーマ)が決定され、それを成し遂げるための重要成功要因は何かを分析して選び出し、さらに現場の組織または個人レベルでの業績評価指標として具体化します。この指標について具体的なターゲット(数値目標)を設定したうえで、目標達成のための個々の戦略プログラム(アクションプラン)を考えて行動を明確化し、実践します。これによって、全体のビジョン・戦略が、現場の個々のアクションプランに紐づいて全員に共有されます。そして逆の流れで、アクションプラン遂行によるターゲット達成が、最終的に企業のビジョン実現に結び付くことになります。
もう一つ重要なことは、各視点間の戦略目標(戦略テーマ)、重要成功要因、業績評価指標、ターゲット、アクションプランが、相互に水平的な因果関係または相互関係を築く、水平的相互関係を確保することです。現場において、4つの視点に基づいたアクションプランが、相反することなく相互関係を保って整然と遂行されるのが望ましいことは、イメージするだけでよくご理解いただけると思います。
3.戦略マップ
BSCは戦略マップを使って、ビジョンや戦略目標を達成するための道筋を図式化し、戦略プロセスを可視化することができます。戦略マップは、企業がどの方向に進もうとしているのか、そのために何をしなければならないかを、ステークホルダーとりわけ従業員に理解させ、情報だけでなく価値観を共有するのに非常に有効です。戦略マップの例を次に示します。
4.スコアカード
BSCは、4つのバランスのとれた視点に沿って企業の業績を評価し、スコア(評点)としてカードに一覧化します。これによって執行された戦略の妥当性を検証することがより容易になるとともに、経営資源の再配分もサポートします。
参考まで、スコアカードの具体的な例を次に示します。なお、業績評価指標毎のポイントは、
各視点の配点 × 戦略テーマのウェイト × 重要成功要因ウェイト × 業績評価指標の達成度
で計算し、その総合計で当該期間の戦略全体を評価します。
(例) 1行めの業績評価指標「新商品売上高」の実績が55百万円(目標比110%)だった場合のポイントは、
財務の視点40 P × 収益の増大 40% × 新商品売上の増加 60% × 新商品販売高 110%
= 10.56 P
となります。
5.BSC構築のステップ
これまでの説明をもとに、実際にBSCを構築する際のステップと作業の流れをまとめます。
6.成長するBSC
BSCの構造とツールから、利用方法、作り方までご説明してきましたが、BSCは今なお成長しています。非財務情報を重視するバランスのとれた業績評価手法としてだけでなく、戦略を多面的に考えるツールとして評価され、顧客だけでなく他のステークホルダーの視点も積極的に反映するようになりました。その流れで、最近の企業経営で避けて通れないSDGs(持続可能な開発目標)を検討する際にも、大いに活用されています。特に将来あるべき姿から現在を見て、進むべき道を決定し不足能力の獲得を考えるというバックキャスティングの発想は、まさにBSCに求められていたものです。
そして、BSCは大企業だけのものではなく、今や中小企業にとっても経営ツールとして重要になってきました。戦略を構築し戦術をアクションプランまで落とし込み、そのうえで業績をバランスよく評価することが求められているからです。
BSCを上手く活用して、従業員をはじめとしたステークホルダーとビジョンを共有し、長期的な展望に立った経営を推進してください。きっと皆さんの企業の存続・成長に役立ってくれるはずです。