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知っておきたい!ブランディングの誤解と4つのステップ

顧客獲得に向けてブランディングに着手する中小企業や小規模事業者は少なくありません。ところが「ブランディングさえすれば売れる」と誤解していたり、正しいステップを踏まずに頓挫したりするシーンも散見されます。そこでブランディングの専門家が正しい取り組み方を解説します。

(掲載日 2024/01/31)

中小企業こそ取り組みたい!自社と自社商品・サービスのブランディング

1)ブランドとブランディング


そもそもブランドとは?

例えば「好きなスニーカーのブランドは何ですか」と聞かれたとしましょう。たくさんあるスニーカーのブランドの中から、ある一つのブランドを「選んで」答えるのではないでしょうか。スニーカーを提供する側からすると、お客様に「選ばれた」ということです。著名な経営学者のフィリップ・コトラーは著書の中で以下のようにブランドとブランドの目的を説明しています。

『アメリカ・マーケティング協会はブランドを「ある販売者または販売者グループの財やサービスを識別し、競合他社の財やサービスとの差別化を目的とした、ネーム、用語、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらの組み合わせ」と定義している。ブランドの究極の目的は、消費者、企業、および企業協力者のために、提供物である製品やサービスから生み出される価値を超える価値を創造することである。』

引用:『コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント』原書16版(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー、アレクサンダー・チェルネフ著、恩藏直人監訳、丸善出版)


私たちは、ブランドというとまずは商品やサービスの名前そのもの、象徴的なマークやシンボル、デザインなどをイメージするのではないでしょうか。そのブランドをイメージする時、手に入れた時の高揚感や満足感、さらには品質への期待や安心といった何かも併せて感じていると思います。これらの何かは『提供物である製品やサービスから生み出される価値を超える価値』に通じます。

ブランドは売る側・買う側双方にメリットがあります。共通のメリットを一言で表すなら「楽(ラク)」です。買う側は「このブランドを選んでおけば間違いない(他と比較する必要がない)」、売る側は「お客様に選んでいただける」からです。楽のベースにあるのは「信頼」です。信頼があるから楽なのです。ブランドは売る側と買う側の信頼関係が結ばれた状態であるともいえます。

さらに、ブランドは企業にとって資産です。強いブランドがあれば、市場での差別化を可能にし、競合他社との競争で優位に立つことができます。自社のブランドを強くすることは経営上重要な課題です。


内外に向けてのブランディング

ブランディング(Brand+ing)は自社のブランドを強くするためのさまざまな取り組みです。商品やサービスが本来持つべき機能や価値はもちろんのこと、価値を超える価値を生み出し、表現し、伝える活動と言えます。

前述のブランドの説明は企業からお客様(外)に向けたもので、一般的なブランドの意義として捉えられていると思います。しかし、コトラーがブランドの究極の目的として『消費者、企業、企業協力者のために』と説明している通り、ブランドは必ずしも消費者のためだけではありません。社員や社内スタッフなど内側に向けたブランディングも重要です。ブランドが信頼だとしたら、社員やスタッフ自身がそのブランドを信頼し愛着を持つものでなければ、外(お客様)に向けて自信を持って情報発信をしたり、販売することができないからです。外に向けてのブランディングが上手くいかない原因が、内側のブランディングの問題であるケースは少なくありません。

※筆者作成


ブランディングの成功は企業価値や競争力の強化に大いに貢献します。そのためには、内外のブランディングを併せて進めていく必要があります。


2)ブランディングとマーケティング


ブランディングに関わる誤解

それでは、ブランディングに取り組めば企業の業績が上がるかというと、そう簡単ではありません。ブランドやブランディングには以下のような誤解があります。

誤解1 ブランド=ハイブランド?
誰もが知っているような、あるいは高級なブランドだけがブランドではありません。日常的に「ついつい買ってしまうもの、利用するサービス」も信頼関係という点においては立派なブランドです。中小企業も自社の商品やサービスをブランディングすることは十分可能です。

誤解2 ブランディングすれば売れる?
ブランディングを実行すれば必ずしも売れるというわけではありません。その商品やサービスに対する信頼や良いイメージを持っていただいた上で、その商品やサービスをお客様に届け、買っていただける(利用していただける)仕組みがあってようやく売れるからです。


ブランディングはファンづくり、マーケティングは売上づくり

ブランディングとマーケティングは両輪で進める必要があります。「売れる」ということは、リアルであればお店や事業所でお客様と接点を持ち購入や契約にいたるということです。オンラインであれば決済まで完了していただくということです。売れるまでには2つのハードルがあります。

・第1のハードル
 知られていること、知ったうえで良いイメージを持ってもらうこと
 ⇒ファンになってもらう

・第2のハードル
 競合する商品やサービスと比較して選んでもらうこと
 ⇒買ってもらう

ブランディングは第1のハードルを越えてもらうための取り組み、マーケティングは第2のハードルを越えてもらうための取り組みと言えます。ブランディングだけでは実績につながらないですし、知っていただいたうえで良いイメージをもってもらえなければ、買うという行為につながらないのです。

※筆者作成



3)ブランディングの4つのステップ


ブランディングは以下の4つのステップで進めます。

※筆者作成


ステップ1 ターゲットの設定と競合他社の調査

どのようなお客様に届けるか、お客様像を明確にします。また、選んでいただくために競合他社がどのような商品・サービスをどのように売っているのかを調べます。このプロセスはマーケティングにおいても必須です。


ステップ2 ブランドの価値を言語化

ブランドとして最も伝えたい価値は何でしょうか?お客様に刺さるメッセージでしょうか?ステップ4でブランドを表現していくのですが、価値がしっかりと言語化ができていないと、表現するときにぶれてしまいます。


ステップ3 ブランドのパーソナリティを決める

企業や商品・サービスに対して、「どのようなイメージを持つか?」がブランドパーソナリティです。例えば、「ナチュラルで高品質」「自由でおしゃれ」「健康的な上品さ」といったイメージです。ステップ2のブランドの価値とマッチしているはずです。


ステップ4 ブランドの表現

ブランドの価値を「言葉」と「ビジュアル」(目に見えるもの)で表現します。
 
【言葉で表すものの例】
・ブランドネーム
 ブランドの名前。印象に残りやすく、覚えやすいものが良い

・トーンオブボイス
 前出のパーソナリティを踏まえた言葉遣い、言葉選びなど

・ブランドステートメント
 ブランドのミッションやビジョンを言葉にしたもの

・キャッチコピー
 「これが欲しかった!」と思わせるようなメッセージ

【ビジュアルで表すものの例】
・シンボル、ロゴ
 ブランド名称のデザイン化、認知度や印象を向上させる効果がある

・トーンアンドマナー
 全体としての統一感を大切に

・カラー
 色の持つ印象を踏まえて、イメージに合った色を選ぶ

・書体
 文字自体にも柔らかい、硬い、かわいらしいといったイメージがある

・写真
 
ウェブサイトやSNSの活用を鑑みると重要。見せ方次第でプラスにもマイナスにも働く


4)まとめ

人とのつながりにおいてすぐに信頼関係が築けるわけではないのと同様に、ブランドもすぐに形成されるものではありません。またブランドかどうかを決めるのはお客様であり、企業が自らブランドだと言ってもお客様がブランドだと認めない限りブランドではないのです。良い商品やサービスであっても、それだけでは競争に勝つことが難しい時代です。ブランディングのステップを踏まえ、自社そのものや自社の商品やサービスの価値を見つめなおし、言語化してみましょう。

ステップ4のブランドの表現においてはデザイナーなど専門家の力を借りる方が良いかもしれませんが、ステップ1から3までは自社でできます。専門家に依頼する際、ステップ3までがしっかり固まっていれば、より良いアウトプットが期待できるでしょう。

著者プロフィール

井手 美由樹(株式会社Ideal Works 代表取締役 中小企業診断士)

名古屋生まれ、名古屋育ち、東京と長野県の2拠点生活。大学卒業後、小売チェーン店に勤務。平成9年に中小企業診断士登録、経営コンサルタントとして独立。首都圏を中心に全国各地で講演、研修、コンサルティングを行う。専門分野は経営革新支援、ブランディング、中小企業支援策活用支援。

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