お客様のソバに寄り添う「お蕎麦屋さん」
企業名:有限会社そば大村庵 取材先ご担当者様:代表取締役:小久保一宏氏
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お手頃価格で本格的な蕎麦を提供したいという想いはあるが、原材料価格の高騰に危機感を募らせていた。何か手を打たなければと思いつつも、どのような手順で価格を改めていけばよいのかという悩みがあったが・・・
企業概要
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有限会社そば大村庵(代表取締役:小久保一宏氏)は、1978年創業、府中市にある蕎麦屋である。京王線中河原駅から徒歩7分、四谷通り沿いのお店である。
小久保氏は大学卒業後、日本料理屋や懐石料理屋での修行を経て、先代の後を継いだ二代目である。創業当時は出前中心であったが、時代の流れの変化もあり、出前中心からお店中心の運営に切り替えるタイミングで家業へ戻ってくることになった。
当店は、「国産のソバの実」と「自家製粉」に強いこだわりを持っている。そば粉は劣化が早いものなので、ぬき身(ソバの実)を仕入れて、その日に提供する分だけを石臼で挽いて、そば粉にしている。挽いた分だけを打つことで、鮮度が落ちずに、香りと甘みが引き立つ美味しい蕎麦になるという。「本格手打ち蕎麦が食べられるお店」ということで、お昼時は、地元の常連さんたちで常に賑わっている。
企業の悩み
創業以来、積み重ねてきた信頼に加えて、2019 年度に中小企業活力向上プロジェクトネクスト(本プロジェクトの前身事業)で策定した店舗コンセプト「あなたの蕎麦に」を徹底してきたことも奏功し、幸いにも常連さんが支えてくれたこともあり、コロナ禍にありながらも客足が遠のくことはなかった。一方で、お手頃価格で本格的な蕎麦を提供したいという想いはあるが、原材料価格の高騰に危機感を募らせていた。何か手を打たなければと思いつつも、どのような手順で価格を改めていけばよいのかという悩みがあった。今後の利益確保、経営の安定化のために、具体的な価格改定について相談したいと考えていた。
そのような中で、日頃から支援を受けていた、むさし府中商工会議所の経営相談員に相談し、本プロジェクトを活用して専門家による経営分析と実行支援を受けることにした。
導き出された課題
2019年度に支援した専門家が、再度、本プロジェクトでの専門家として選定された。内情を分かっていることもあり、スムーズに支援は進められた。経営分析においては、価格改定に取り組むに当たり、現在の置かれている状況などをヒアリングしながら、課題の共有を図った。
課題としては、①現状の各メニューの原価を正しく把握すること。そのうえで、②適正な原価率となるように各メニューの見直しや価格改定を設定すること。そして、③新価格でのメニューの伝え方を工夫すること、が挙げられた。
提案された解決策
本プロジェクトの「アシストコース」を活用し、課題解決に取り組んだ。具体的な内容は、①各メニューの原価の把握、②各メニューの出数の把握、③季節メニュー・新メニューの考案、④新価格決定、⑤お客様への値上げ告知文作成、⑥新メニュー表制作、⑦インスタグラムでの情報発信強化である。
各メニューの原価の把握や各メニューの出数の把握の際には、データを使って分析するということが初めての取り組みであったため、苦労も多かったが、専門家のアドバイスを聞きながら進めていくことができた。メニュー毎の原価率や売れ筋メニューなどの数値が具体的に表れてくると、普段感覚として持っていたものとのズレを把握することができ、現在の状況がはっきりとわかるよい機会となった。小久保氏は「経営というものを学ぶ機会があまりなかったので、データの見方や分析の方法を教えてもらったことは、大変ありがたかったです。専門家の先生に少しずつ経営のイロハを教わっています」と振り返る。
適正な原価率となるように新価格を設定し、お客様への値上げ告知の準備、新メニュー表の作成を進めていった。並行して、常連のお客様が普段とは違うメニューを楽しんでもらえるように、季節メニューやトッピングメニューの開発も進めていった。2023年5月から取り組みを始め、8月に新価格での販売・新メニューの導入を開始した。
提案した中小企業支援施策
- アシストコース(中小企業活力向上プロジェクトネクスト)
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その後の状況
値上げに対して客足が遠のくのではないかという不安が多少なりともあったが、お客様からの値上げに関する否定的な意見はなく、価格改定後も順調に売上を上げることができている。値上げ分に加えて、メニュー改定効果により客単価が向上したことで、売上高は価格改定前対比120%を達成することができた。新価格での販売・新メニューの導入の2か月前に価格改定の告知文を掲示し、常連のお客様に対しては、ランチタイムに口頭でも説明していた。日頃のお客様への感謝もお伝えする形で誠意を込めて事前に説明したことが理解につながったと考えられる。新たに加えたトッピングメニューの成果として、追加注文によって客単価の向上につなげることができている。その時々に合わせて、自分好みの食事を楽しむことができて、お客様からも大変好評である。
今回の支援の中で、価格改定に対する支援だけではなく、販売データの収集や分析がお店を経営する上でいかに重要であるかに気づくことができたという。これをきっかけに、より効率的に販売データを管理できるようにPOSレジの導入を考えているところである。今回、ランチタイムの売上に関しては手ごたえを掴むことができたので、次のステップとして、改善の余地があるディナータイムの強化にも取り組むことを考えている。今後も引き続き、店舗コンセプト「あなたの蕎麦に」を常に念頭に置いて、お客様の声を聞き、傍に寄り添いながら美味しいお蕎麦を提供していきたいと考えている。
企業様の声
2019年度の中小企業活力向上プロジェクトネクストを活用させていただいた際に、店舗コンセプトである「あなたの蕎麦に」を策定したことでお店の進むべき方向が定まり、お店に軸ができました。今回のプロジェクトでは、その時の専門家の先生と同じ方を選んでいただいたので、店舗コンセプトを踏まえて、価格改定の取り組みを進められたことは、良かったと思っています。お客様にも喜んでいただきながら、価格改定を進めることができて感謝しています。商工会議所や専門家の先生には引き続きご支援をしていただければと思います。
(代表取締役:小久保一宏氏)
支援者の声
府中市は商店街の数が比較的多く、町全体に商店街があります。先代が商店会の会長を務めておられて、大村庵さんとはその時からのご縁になります。二代目になられて新しい体制となったことがきっかけで、2019年度に中小企業活力向上プロジェクトネクストを活用してみたいというお声をいただきました。そのような経緯もありまして、再度、本プロジェクトを活用していただいているところです。支援の成果も見え始めて、一安心というところです。引き続き、府中市の経済を元気づけるためにも継続して支援をしていきたいと思っています。
(むさし府中商工会議所:大塚竜矢氏)
企業情報
企業名 | 有限会社そば大村庵 |
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代表者 | 代表取締役:小久保一宏氏 |
創業年 | 1978 |
業種 | 飲食業(日本そば) |
所在地 | 東京都府中市住吉町4-48-18 |
事業PR | |
URL | https://omuraan.gorp.jp/ |
中小企業診断士 井尾生太