新規事業のアイディアの出し方
環境が変化していく中、企業は変化することなしに生き残ることはできません。「新しいことを始めたいが、どうやって考えればよいかわからない。」思いはあっても、なかなか進まない事業者の方も多いのではないでしょうか。新規事業を考えるには方法があります。その方法とは・・・
(掲載日 2021/03/29)
新規事業のアイディアの出し方
「何か新しいことを始めたい。何をすればよいか?」
まず新規事業のためのアイディアを捻り出すこと、そして捻り出したアイディアを事業化できるのか評価する必要があります。
令和3年3月から募集が開始された事業再構築補助金では、新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す企業・団体等の新たな挑戦を支援しています。申請前の直近6か月間のうち、任意3か月の合計売上高で10%以上売上高が減少している中小企業が、事業の再構築を考える場合に申請ができます(執筆日時点)。
申請時に事業の再構築について考えるためには新規事業のアイディアが必要になります。EC化やテイクアウト用の店舗改装等で申請されるのは良いと思いますが、本当に持続的に利益が出せるのかを具体化した事業計画の作成が必要だと思います。
Ⅰ新規事業のアイディアの捻り出し方
「会社の新規事業をやりたい気持ちがあるけれども、どんな発想を持てばよいのかわからない。」「アイディアはあるが事業化のためにはどうやって考えればよいかわからない。」など、悩みは尽きません。
まずは現状の分析として、顧客分析が必要です。「既存の顧客」が「どのような価値」を感じて当社を利用いただいているのかを分析します。既存の顧客には必要な情報が詰まっています。「誰が」だけでなく「なぜ」購入されているのかも重要です。顧客分析では「セグメンテーション分析」と「顧客へのヒアリング」が有効です。
「セグメンテーション分析」とは顧客の中から、年齢、性別、所得層など属性や特徴などの共通点を見つけ出していきます。これにより当社が向かうべき方向が見えます。顧客に「当社を利用している理由」を聞いてみることもできます。
次に現状分析の2つ目として、ビジネスモデル分析が必要です。ビジネスモデルの分析には、「バリューチェーン分析」を用いて、その分析結果をもとにアイディアを捻り出します。
「バリューチェーン分析」とは、企業がどの業務によって、利益を稼ぎだしているかを、事業活動を機能に応じて仕分け、どの部分で利益を生み出しているのか、自社の強みや弱みを明らかにする考え方です。
会社全体を見て既存事業を改善し新規事業を構築しようといってもなかなかアイディアは出にくいものです。そこで、事業をバリューチェーンで細かく分析します。
製造業であれば、
「調達→製造→セールス→物流→アフターフォロー」で事業を細分化して、アイディアを捻り出します。調達先を見直したり、製造を内製化したり、セールスではサブスクリプション(月額定額料金制)にしたり、商品・サービスが届くまでの業務の流れを分解して把握することで、様々な工夫ができます。
飲食店であれば、
「調達→調理→提供・接客→会計→リピート化」になります。
例えば調理方法に着目すれば、設備を大型化し、他社の移動販売の下ごしらえを受注できないか、などが考えられます。
例えば提供方法に着目すれば、店内だけでなく、テイクアウトや宅配・移動販売の利用ができないか、などが考えられます。
現状を「顧客」と「事業の細分化」で分析すると、新規事業のためにはこの二つのうちどちらかあるいは両方を変えればよいことになります。それには「製品・市場マトリックス」(*)は有効です。
製品・市場マトリックスで、製品と市場(顧客)の観点から新規事業を考えます(下表)。
*製品・市場マトリックス:アンゾフは、企業の成長戦略は基本的に4つあり、それらを「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」「多角化」と呼んでいます(出典:「戦略論 1957-1993 第1章 多角化戦略の本質」 H・イゴール・アンゾフ著 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編・訳 ダイヤモンド社)。このアンゾフ・マトリックスは、製品と市場の二軸からなることから、ここでは「製品・市場マトリックス」と呼んでいます。
ECサイトにより、既存の製品を新たな市場(顧客)に提供する。テイクアウトを開始することで、店舗近隣の顧客以外に商品を提供する。これらは、新市場開拓と言えます。テイクアウト用の製品を開発すれば、新製品開発 になります。
Ⅱアイディアの選別、事業化まで
前述のアイディアは一つである必要ありません。複数ありうると思います。そのうち事業化できるものがあるか選別します。選別にあたっては『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著 山岡洋一 訳 日経BP社マーケティング)を参考に、3つの切り口を紹介します。
(1) 自社が世界一になれる分野で、
(2) 経済的原動力になれる分野で、
(3) 情熱をもって取り組める分野、
という3つの切り口です 。
中小企業の場合、世界一になるというのはハードルが高いかもしれません。
「世界」を「顧客」と読み替えて、顧客から見て1位になれる分野で、顧客にメリットを提供できるものを選定したいものです。
経済的原動力とは、簡単に言えば利益です。利益があれば従業員の給与を上げることもできます。新規事業を行うにあたって十分な利益を確保できるか。そのために販売量、価格は適正か検証します。
特に販売量は重要です。販売量を確保するには仕入れ量や製造量を増やすことになります。アフターフォローが増えることもあり得ます。人員の増加が必要になる場合、販売費が増えることも計画段階で見込んでおく必要があります。
誰よりも情熱をもって経営者、従業員が取り組めるか。新しい取り組みには、必ず障害があります。例えば、業界の慣習や現場の慣例です。法令や許可も新規事業には障害になりえます。経営者だけでなく、従業員の動機付けになる事業かがポイントです。経営理念に基づき従業員を巻き込んだ事業計画が重要です。
持続的に利益を確保できるのか検証するには、PEST分析も使えます。
PEST分析とは、自社を取り巻くマクロの環境要因に注目し、事業の戦略立案などに活かすためのフレームワークのことを言います。「PEST」は、Politics(政治や法律的な観点)、Economy(経済的な観点)、Society(社会・文化・ライフスタイル的な観点)、Technology(技術的な観点)の頭文字を合成したものです。これらを分析することで、ビジネスのニーズや市場の変化(時代の趨勢)と自社に対する影響などを見出します。一般的には、自社の方向性は時代の趨勢に合わせた方が、効果が出しやすいです。
一例をあげれば、時代の趨勢は持続可能な社会に向かっており、グリーン化に向けた事業のシフト、AIやIT化 による生産性向上は、考慮すべき問題です。
まとめ
新規事業を始めるには顧客分析をし、ビジネスモデル分析(業務ごとに価値の分析) を行います。「顧客」と「事業細分化」の視点から捻りだします。そのうえで、アイディアを選別します。勝てる分野で、利益が出て、従業員を巻き込める事業を選定すべきです。
<参考文献>
「戦略論 1957-1993 第1章 多角化戦略の本質」 H・イゴール・アンゾフ著 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編・訳 ダイヤモンド社
「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」 ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著 山岡洋一 訳 日経BP社マーケティング)
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