コロナに負けない、新たな職場づくりの最前線
新型コロナウイルスにより日本中の多くの企業で環境が激変し、様々な対応が求められています。このような危機の中でも環境変化をチャンスと捉え、新しいワークスタイルの構築に取り組む中小企業の事例を交えながら、生産性向上や働く環境づくりにおけるポイントをお伝えします。
(掲載日 2021/02/12)
コロナに負けない、新たな職場づくりの最前線
2021年も年初から新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)による緊急事態宣言が発出され、昨年に引き続きコロナ禍への対応が企業経営に求められています。一年間で2度の緊急事態宣言により、営業時間の短縮や一時休業のみならず、ビジネスモデルの転換を余儀なくされている中小企業も多いと思います。このような時こそ、このピンチを乗り切るために経営者が一番に頼るべきは、これまで苦楽を共にしてきた自社の社員ではないでしょうか。
1.働き方改革の本来の目的
2019年4月から働き方改革関連法が施行され、2020年4月からは残業時間の上限規制が中小企業にも適用されました。時間外労働の削減に加え、有給休暇の取得が義務化されるなど、従業員の労働環境改善に取り組む必要性が高まっています。今後、中小企業では同一労働・同一賃金(2021年4月)、残業時間60時間超の割増率引き上げ(2023年4月)が予定されています。
このように、法律による規制は年々厳しくなっていますが、働き方改革の本来の目的は、労働条件改善による社員の健康維持や、不満解消、モチベーションアップを実現し、安定的に長く定着して会社に貢献してもらうことにあります。
2.働き方改革で導入されている主な制度
現在、中小企業における働き方改革で導入されている制度には以下のようなものがあります。
働き方の改善として、この1年で最も導入が進んだのが、テレワーク制度(在宅勤務制度等)ではないでしょうか。緊急事態宣言でもテレワークが推奨されています。テレワークを今まで活用したことがない企業に向けた補助金(テレワーク導入促進整備補助金(東京しごと財団ホームページ https://www.shigotozaidan.or.jp/koyo-kankyo/joseikin/telework.html))もありますので、「自社では絶対にできない」と決めてかからず、どの業種でも一度は検討してみることをお勧めします。
休み方の改善では、年間5日の有給休暇取得義務化への法令対応が必要となっています。時間単位の年次有給休暇制度は、女性社員からの人気が高い制度の一つです。この制度を利用して月に一度半日有給休暇を取得すれば年間で6日分の有給休暇取得ができることになりますので、導入効果が計算しやすい制度と言えます。但し、年5日の取得義務のカウントには、1時間単位ではなく「半日もしくは1日単位」での取得が必要となりますので注意が必要です。
3.制度導入にあたっての留意点
業種や規模によって、どの制度を導入することが効果的であるかは、各社の業務やワークスタイルによって異なります。このため、自社の現状分析を行った上で取り組む必要がありますが、大事なことは必ず社員の意見を聞き、要望の高いものから導入を検討していくことです。たとえすぐに実現が難しくても、その理由を社員と共有することができますし、意見交換を通じて社員との関係構築を図ることができます。反対に、国や自治体の働き方改革関連助成金をもらうために制度だけ導入して、社員は内容をよく知らず、事実上はほとんど運用されていない、という残念な状況は避けたいものです。
前述2. で取り上げたこれらの制度は、いずれも就業規則に記載することで労使双方の権利が守られ、社員は安心して働くことができます。現在コロナ禍での暫定的な対応や長年慣習的に行っている企業においても、この機会に就業規則を改定することを推奨します。
4.取り組み事例
ここで、コロナ禍の影響を受けながらも、社員とともに業績回復に取り組む企業の具体的な事例を見ていきながら、社員との良好な関係づくり、働きやすい職場作りのポイントを確認していきましょう。
■事例① 製造業A社(正社員5名、パート社員2名)
(状況)
金属加工品や樹脂加工品の企画・デザインから製作までを行っている製造企業です。以前は、突発的な残業がしばしば発生しており、原因を探ったところ、営業担当者と製造担当者の情報共有に課題がありました。納期管理が会社として仕組み化されておらず、納期の直前に誰かが気づいて社員総出で緊急の残業になることや、納期に遅れてクレームにもなっていました。
(取り組み)
一年前に入社した若手社員の提案がきっかけとなって、全社部門共有のデータベースを導入し、毎日の朝礼で部門相互の進捗状況を共有するようにしたところ、業務が改善され大幅に残業が少なくなりました。古い業務慣習を良しとしない若手社員の意見を経営者が受け入れ、業務改善に取り組んだことが成果につながりました。また当社の主な取引先は自動車関連ですが、コロナ禍により受注が大きく減少し、それに伴って業務量も減ったため一時的な休業も行うこととなりました。その後、感染対策の樹脂製品などの新分野の製品開発にも積極的に取り組み、少しずつ売上を挽回しています。
(ポイント)
当社はまだ週1日を休業(雇用調整助成金申請)しながら、週4日(週休3日)で営業しています。今後は、新製品開発などで生産性を高めることによって、できればこの週4日体制のまま以前の売上まで戻したいと考えています。そしてコロナ収束後には、恒久的な週休3日制にするか、もしくはこの1日の余力を活かしてさらに新事業や新製品開発に取り組むか、社員と一緒に考え選択していく予定です。
■事例② 飲食業B社(正社員4名、パート社員5名)
(状況)
当店は素材にこだわった日本料理店です。週6日勤務で日祝しか休日がありませんでしたが、勤続年数の長いベテラン社員が多く、全員がほとんど自分の働き方を意識していませんでした。
(取り組み)
緊急事態宣言で4月上旬から5月中旬までは休業となり、その後も時短営業や弁当のテイクアウトなどを行いながらの営業となり、やはり厳しい状況が続いていました。そのようななかで、7月からは土曜日を隔週で店休日として、年間所定休日を24日増やしました。当然売上が減ることを覚悟していましたが、蓋を開けてみると隔週の営業でもそれまでの売上を超える結果となり、社員は休みが増えて元気になり、顧客へのサービスも明らかに良くなるという二重の成果を得ることに成功しました。
(ポイント)
売上増加要因として、当店は完全予約制でテーブルはほぼ個室に区切ることができたため、顧客同士の密の心配が比較的少なかったことや、平日に来られない常連客がプライベートで土曜日に来店したことなどが挙げられます。働き方の観点では、雇用調整助成金を使った休業補償での店休とせず、社員のために所定休日を増やしたことが、当店の特筆すべき取り組みと言えます。
■事例③ IT業C社(正社員13名)
(状況)
業務系アプリケーション開発(主に社内で開発)の企業です。働き方改革に取り組む以前から、時間外労働は月平均5時間、有給休暇取得率は85%以上という職場環境を実現しており、比較的働きやすい職場でした。
(取り組み)
コロナ禍でほぼ全員が在宅勤務のテレワークに移行しました。これまでは朝礼をやっていませんでしたが、テレワークを機に毎日午前中と夕方に2回オンラインミーティングを開催し、社員全員での情報交換を行うことにしました。その結果、お互いの業務理解が進み、テレワーク以前よりコミュニケーションが促進されています。働き方改革の取り組みでは、記念日休暇などの制度導入で年間所定休日は129日を数え、トラブル時以外は残業もなく、有給休暇も順調に消化されています。
(ポイント)
当社は代表や管理職が率先して定時で退社し、連続休暇などの有給休暇を積極的に取ることで、有給休暇を取りやすい風土が醸成されています。また顧客にはゆとりのある納期にしてもらう交渉ができていることも余裕を持った業務運営の成功要因となっています。
5.まとめ
いずれの事例企業もコロナ禍をきっかけとして、それまでの自社の業務スタイルを見直すことで社員の働く環境を改善し、業績にもよい影響を与えることに成功しています。残念ながらコロナ禍という外部環境は変えることができませんので、社員とともにお互い知恵を出し合って自らが変化していくことが、先の見えないコロナ禍を乗り切るための有力なアクションとなります。
東京都では「TOKYO働き方改革宣言企業制度」を実施しており、これまで数千社に上る企業が宣言を行い、働き方改革に取り組んでいます(2021年1月現在)。この制度は、取り組み内容によって段階的に奨励金や助成金が支給されます。これにより多少の費用はカバーできますので、就業規則の改定や新しい制度導入にあたってのアドバイスを外部専門家からも受けやすい施策となっています。また、連携する東京都の他事業を活用して生産性向上やテレワークなどの業務改善の専門家コンサルティングも無料で受けることが可能です。2021年度以降も実施される場合は、ぜひご利用をお勧めします。(2020年度は受付終了)
(TOKYO働き方改革宣言企業ホームページ https://hatarakikata.metro.tokyo.lg.jp/)