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IoT/ICT(DX)時代の革新的経営カイゼン

TPS(トヨタ生産システム)に代表されるカイゼンは世界的にも有名なシステムですが、IoT/ICT時代のニーズに企業が対応するためには、さらに多くの視点を踏まえる必要があります。いま注目を集めるDXの視点も踏まえながら、新しい経営カイゼンを提案します。

(掲載日 2020/12/18)

IoT/ICT(DX)時代の革新的経営カイゼン

1.初めに


 中小企業の関係者にお会いして最近言われるのは、「最近、IoT/ICT、DX*と言われているが今までやってきたこととの関係が分からなくなった。」「コロナ禍によりどのように経営戦略を作成すれば良いのか難問に直面している。」ということである。中小企業の関係者はこのような状態で会社全体を俯瞰した経営カイゼンを求めている。中小企業の関係者に対する回答として、「革新的経営カイゼン」を提案する。

*DX:デジタル・トランスフォーメーション(デジタルによる変革)
2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる。DXの定義は多数あるが、DXの定義は次の3つの項目に要約される。
①新しいデジタル技術(IoT/ICT等)により人々の生活を豊かにする。
②新しいデジタル技術の活用を通して、新しいサービス、新しいビジネスモデルを創出し、競争上の優位を確保する。
③企業の生き残る鍵は新しいデジタル技術を活用し既存の価値観や枠組みを変革(革新)することである。



2.「革新的経営カイゼン」とは


 革新的経営カイゼンとは、中小企業の経営者等の意見を踏まえ、企業の要求事項(競争力強化、魅力ある商品の提供、グローバル化)を満たすために全社およびSCM*までを俯瞰し、中小企業者に分かりやすく従来のカイゼンを統合し、IoT/ICTで支援する経営革新システムである。

*SCM:サプライチェーンマネジメント
商品が顧客に届くまでの、複数の企業間の物流システムを統合するマネジメント手法のこと



 革新的経営カイゼンは大きく次の二つに分類される。

①従来のカイゼン、固有技術にIoT/ICTで支援する「現場重点型革新的経営カイゼン」
②ビジネスモデル変革を目指し新事業・業務革新を目指す「戦略重点型革新的経営カイゼン」

 詳しくは「5.革新的経営カイゼンの全体像」においてあらためて説明する。



3.革新的経営カイゼンの背景(従来のカイゼンの問題点とICTの現状)


(1)従来のカイゼンの問題点

 従来のカイゼンにおいては、次のような問題がある。

①従来のカイゼンで行われている「巻き尺、ストップウォッチ、ビデオによる計測」は面倒くさいと嫌われ、経営者の理解不足もあり進んでいない。
②従来の経営カイゼンは現場レベルのみである。
③全社的なマネジメントへの踏み込みが不足している。
④利害関係者(顧客、供給者等)、即ちサプライチェーンへの踏み込みが不足している。
⑤新製品、新事業において、経営者の成功への思い込みが強く、コンサルタントが強くリスクを指摘出来ず、結果として失敗する例が多い。

(2)現状のICT

1)我が国のICTの脆弱性
 新型コロナウイルスは我が国のICTの脆弱性を示し、また、「新しい生活様式」のテレワークはインフラとしてのICTの必要性を示した。

2)「2025年の崖」*問題
 企業において過去にICTソフトを購入している場合は、機能が時代遅れになったり、バージョンアップのサポートが打ち切られたりしている。また、対象も請求書発行等部分的である。そのため、ICTによる新規の戦略が打ち出せない状態である。すなわちICTの遅れによる「2025年の崖」問題の解決に迫られており、DXによる変革に取り残される心配に迫られている。

*2025年の崖:経済産業省が2018年9月に公開した「DXレポート」では、「2025年の崖」*の問題点が指摘され、「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025 年までに予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025 年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある」とされている。



4.革新的経営カイゼンのカギとなるカイゼン手法および戦略


(1)革新的経営カイゼンの基盤としてのISO9001

 ISO9001はマネジメントシステムとしてSCMや利害関係者、情報、エネルギーも包含し、自社の経営目標、課題・問題点等の現状把握、特に新事業における自社の資源や能力把握に有用である。なお、ISO9001は多数の企業が採用し、世界的な企業の評価尺度になっている。このような状況において有益なISO9001が経営カイゼンに利用されることが望まれる。


(2)現場重点型革新的経営カイゼン

1)TPS(トヨタ生産方式)
 TPSはムダの排除を目指し経営カイゼンに有益なツールである。
 革新的経営カイゼンでは7つのムダを中心に課題・問題点を洗い出す。
 ●7つのムダ : つくり過ぎ、手待ち、運搬、ムダな加工、在庫、動作、不良

2)TPM(Total Productive Maintenance、総合的設備管理)
 TPMは機械設備を中心とした生産性・品質向上で経営カイゼンに有益なツールである。
革新的経営カイゼンではTPMにて、課題・問題点とカイゼン項目を洗い出す。

3)IoT/ICT(DX)による課題・問題点の解決への支援
 課題・問題点の解決のためにIoT/ICT構築により相乗効果を上げるか検討する。
 IoT/ICTに経営戦略が必要となれば戦略重点型革新的経営カイゼンに移行する。


(3)戦略重点型革新的経営カイゼン

 新事業・業務革新においては、経営戦略は必須である。以下に新事業・業務革新における戦略論と手順を説明する。

5.革新的経営カイゼンの全体像


 革新的経営カイゼンシステムの構成は、下イメージ図に示すようにISO9001により経営、SCM、省エネルギーを俯瞰し企業目標と現状を把握する。次に、「現場重点型革新的経営カイゼン」ならば、「TPS+TPM+IoT/ICT(DX)」(IoT/ICT 支援およびTPSによるムダの排除、TPMによる生産性、品質向上)を選択し、実際のカイゼン手法に進む。「戦略重点型革新的経営カイゼン」の場合は「新事業・業務革新」に進み、経営戦略を立案し、実際のカイゼン手法に進む。実際のカイゼンでは、5S、7QC(QC7つ道具)、IE(生産工学)、自働化・情報化、固有技術/新事業等を選択する。なお、KPI(重要業績評価指標)としてOEE(設備総合効率)を推奨する。

革新的経営カイゼン イメージ図



6.革新的経営カイゼンの具体的事例


(1)東京電力の事例

 革新的経営カイゼンの例として、東京電力の例を挙げる。同社は2014年元トヨタ自動車役員を起用し「改善活動チーム」を組織し、コスト削減に向けた活動を開始した。
 2017年経営カイゼン活動を全社の土台とするために、何が必要かを検討した結果、TPSとIoTを両輪とする経営カイゼンを必須とし、「稼ぐ力創造ユニット」を設置した。すなわち、TPSでムダを見つけ、IoTの支援でカイゼンを実施している。
 2020年デジタル技術やカイゼン等のノウハウを活用することで、従来の業務の延長に留まらない業務プロセスの刷新を行いビジネスモデル変革に対応するために「DXプロジェクト推進室」を設置した。
 同社のカイゼンの歩みは革新的経営カイゼンそのものであり同カイゼンの必要性を表している。


(2)金型メーカ中島工機製作所/(株)シムックスイニシアティブの事例

 同社はIoT/ICT(DX)により次のように企業業績を向上させ、従業員の生活を豊かにした。主な成果は次の通りである。(参考資料:Edgecross 活用セミナー2019夏、NPOアジア金型産業フォーラム2019)

 事例を通じて、革新的経営カイゼンを実現したポイントを下記に記す。

①TPSの基本である、工作機械の非加工時間のムダを徹底的に削減した。
②TPMのカイゼン指標である、工作機械の時間稼働率、性能稼働率、良品率を改善した。
③DCの核である資源不足を東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)に参加し外部資源として活用した。
④DXの3項目を実現した。
 ・従業員に働き方改革を勧め、豊かな生活を提供した。
 ・デジタル化により競争優位を確保した。
 ・古い工作機械や異なるメーカーの工作機械データのIoT化は難しいといった既存概念(価値観)を、センサー、通信等のデジタル技術を駆使し打ち破った。

 こうした特長が評価され、トヨタ自動車の工場をはじめ、トヨタ系列の27工場、その他100社以上の企業が導入している。



7.本稿のまとめ


 従来のカイゼンを統合し、IoT/ICTで支援する経営革新システムを革新的経営カイゼンとしてまとめた。
 東京電力はデジタル技術やカイゼン等のノウハウを活用した業務プロセスの刷新のために「DXプロジェクト推進室」を設置し、TPS、固有技術、IoT、DXを密接に絡めたコスト削減の取り組みをWebサイト上に成果報告している。これは中小企業でも十分に採用可能な活動である。
 トヨタ自動車の工場と関連する中小企業の例も示した。中小企業を含め革新的経営カイゼンが着実な実績を上げている。

 DX(IoT/ICT)への投資も増加している。革新的経営カイゼンは正に将来への投資である。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、IoT/ICTを伴うビジネスモデルの変化が必須であり、それを支援する補助金や融資が実施されている。例えば「小規模事業者持続化補助金」等は、小規模企業でも取り組むことができるその代表的な例である。

 中小企業の成長へ向けた投資として、ぜひ革新的経営カイゼンに取り組んでいただきたい。

著者プロフィール

田中 弘一(田中経営技術士事務所 代表)

中小企業診断士、技術士、高度情報処理技術者
千代田化工建設にて、自動車プロジェクト等で制御、ICTに従事し、FA技術センターにて教育、及び配管企業を立ち上げた。独立後、省エネルギー、ITC、ISO9001の指導、及び海外ではTPS、TPM、IoT/ICT、経営戦略論による経営カイゼンを指導している。

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