数字が苦手でも会社のお金の流れがわかる! 脱・ドンブリ経営
「会社経営で大切なのはよくわかるが、数字を見るのがつらい」「決算書の見方が未だによくわからない」そうした経営者の方はかなり多いようです。そのような会計知識のない方でも「お金のブロックパズル」があれば、「ドンブリ経営」を脱することができます。その方法とは・・・
(掲載日 2020/12/28)
「脱・ドンブリ経営」会社の利益を増やす具体策
【はじめに】
経営の状態をあらわす言葉で「ドンブリ経営」というものがあります。会社のお金に対し「ドンブリ勘定」で経営している状態です。
経営者の皆さんは、人を増やす、広告を打つ、設備を入れるなど常に経営判断を繰り返しています。その判断を正しくするためにも会社のお金の流れはある程度把握しておいたほうが良いのですよね。このある程度というのがポイントです。
今回ご紹介する「お金のブロックパズル」は、難しい経営数字や会計の知識など必要ありません。大事なのはお金の入りと出だけでなく、途中の会社の中のお金の流れを把握することです。この流れを考えるために「お金のブロックパズル」を理解していきましょう。
※「お金のブロックパズル」は西順一郎氏考案のSTRAC表を参考に、和仁達也氏が考案し、著書「超★ドンブリ経営のすすめ」などで紹介しているものです。一般的な会計用語の解釈と異なる箇所もありますが、会計の知識のない人でもお金の流れを理解できるように、本コラムにおいても、そのままの言葉で掲載しています。
【お金のブロックパズルとは】
図1がお金のブロックパズルです。数字を入れた方がイメージしやすいので、各数字は仮で入れています。まずはこの図を描いてみましょう。
①売上高
まず売上高です。仮に100とします。
②変動費
次に②の変動費を考えます。変動費とは売上に連動して増減する費用で、小売業なら商品の仕入れ、製造業なら材料費や外注費、運送業なら燃料代と、業種により異なります。ここは仮に20とします。
③粗利
売上高から変動費を引いたものが粗利です。この粗利は売上高よりも大事な数値です。皆さん普段、売上高を一番大事な数値として意識していませんか?
売上として入るお金のうち、変動費は素通りして他社へ出て行ってしまうので、実際に会社に残るのは粗利です。常に粗利を意識するだけで経営状況が改善した会社もあります。
④粗利率
売上高に対する粗利の割合を粗利率と言います。
この粗利率は変動費に対しどのくらい価値を付けられたかにより増える数値で、付加価値率と言われる場合もあります。一般的な粗利率の平均値は図2の数値くらいだと思います。皆さんの会社と比較してどうでしょうか。
粗利というのは変動費に加えた付加価値なのだというのは覚えておきましょう。
⑤固定費、⑤-1人件費、⑤-2その他固定費
固定費は②変動費の反対で、売上が増えても減っても基本変わらず、固定で出費する費用です。家賃や水道光熱費、広告宣伝費、人件費など、②変動費以外の費用はすべて固定費と考えて良いでしょう。この図では仮に70としています。
ここで、固定費を大きく分けて2つの費用で考えます。それが⑤-1人件費と⑤-2その他固定費です。この図で考える人件費は社長の生活費も含めて考えます。そうすると固定費のおおよそ半分くらいが人件費となることが多いです。この図では人件費を40とし、その他の固定費が30となります。
ちなみに決算書上のルールでは、個人事業の代表者の給料は可処分所得として利益に含めて表示されます。しかしながら、ドンブリ経営から脱出するためには社長の給料と会社の利益は分けて考えることが大事です。よって、ここでは決算書上のルールは忘れて社長の給料も人件費に含めましょう。
⑥労働分配率
粗利(付加価値)からどのくらいの割合を労働者に分配しているのかをあらわす指標です。この図の場合
(⑤-1人件費/③粗利)×100=50%
となります。この比率が低いほど、会社としては生産性が高い、つまり少ない人件費で多くの粗利を生み出していると言えます。
⑦利益
最後に③粗利から⑤固定費を引いたものが利益です。厳密に会社に残る繰越金となると、この利益から税金や返済金などを払い設備投資の費用などを賄い、最後に残るお金となりますが、まずは図で表す⑦利益がいくらなのかを意識することがドンブリ経営から脱却する第一歩です。
経営者の方とお話しすると、利益や利益率について話している際に粗利や粗利率と混同されている方をお見受けします。しかし、利益というのはこのように粗利から固定費を引いたものになりますのでご注意ください。
ここまでが「お金のブロックパズル」の説明です。ここから、まずは固定費も利益も粗利から出ているということを理解しましょう。大事なのは売上高ではなく粗利です。
さらに会社のお金の流れを考えるうえで大事なことは、出ていくお金を「支出」でひとまとめにしないことです。「お金のブロックパズル」では、まず支出を②変動費と⑤固定費に分けています。そしてさらに⑤固定費を⑤-1人件費と⑤-2その他固定費に分けました。このように支出を分解して色分けすることで、具体的にお金の使い方について対策も立てられるし予算も組みやすくなります。
【利益を増やす戦略】
では、「お金のブロックパズル」の概念を利用して利益を増やす方法を考えてみましょう。ブロックごとに分解して、図3のように項目ごとに考えます。
①売上高を上げる
売上高を考える場合さらに分解して、売上高を「客数」と「客単価」と「リピート」とに分解して考えます。客数、客単価、リピートのいずれが増えても売上高は上がります。売上高を上げるために単純に客数を増やそうとだけ考えていませんか。例えば売上高を100から110に増やそう、と考えると大変ですが、客数を4、客単価を3、リピート客数を3それぞれ上げれば計10、と分解して考えます。そして例えば客数を上げるために営業担当が、客単価を上げるために商品企画担当が、リピート数を上げるためにカスタマーサービス担当がそれぞれ少しずつでも改善策を考えるようにして、トータルで売上高アップにつなげます。ここで大事なのは、売上高を上げるのは営業担当だけの仕事ではないということです。色々な担当者がどうしたら売上アップするかを考えることが大事です。
③粗利を増やす(④粗利率を上げる)
粗利を増やすには、粗利率を上げる方法を考えます。粗利率が高いほど会社に残るお金が多いということになります。粗利率を高めるためには、製品のクオリティを上げる、サービスの質を上げる、サービスを追加するなど付加価値を高めるための経営努力が必要です。ちなみに粗利率を下げるのは簡単で、価格競争に巻き込まれたり値引きしたりすると粗利率はあっという間に下がります。売上はあるのにちっとも会社に利益が残らない、という会社は過度な値引きをしたり、キャンペーンなどを必要以上に多く実施したりしていませんか。逆に商品・サービスの単価を上げることができれば粗利率はすぐに上がります。
また、売上高は変わらずとも粗利を増やすには、②変動費を下げるという手があります。変動費を下げるには仕入額を見直すなど仕入れ担当者の業務が重要になります。仕入れ担当者が下げた変動費分は会社の利益になります。仕入れ担当者の頑張りは会社の利益増加に直結していることを意識しましょう。
⑤固定費を下げる
固定費を下げるとなるとまず思いつくのが⑤-1人件費ですが、単純に人件費を下げる施策は社員のやる気にも関わる諸刃の剣ですから注意が必要です。この場合は人件費ではなく⑥労働分配率を下げられないかを考えます。
この労働分配率の適正値は、会社規模や業種、借入金の多少により異なるので正解は無いのですが、あえて目安を示すならば40%台なら優良、50%台で一般的、60%台だと少々利益が出にくいと言えるでしょうか。乱暴な言い方になりますが実際のところは、ちゃんと利益が出て経営が回っているのであれば、その時の労働分配率がその会社の適正な数値だとも言えます。ここでは、現状の自社の労働分配率がどのくらいで、適正な利益を生むには労働分配率を何%以内にしなければいけないかを考えましょう。
そして、労働分配率を下げるには、人件費を維持したまま粗利を増やす、または人件費を増やして粗利をさらに大きくするという手もあります。つまりそこに希望があります。よって人件費ダウンではなく労働分配率のダウンに注目します。
そして、固定費を下げるためにメスを入れるのは人件費ではなく⑤-2その他固定費です。広告宣伝費の効果はどうか。家賃は相場に対して高くないか。接待交際費は本当に必要なのか。研修費は効果があるか。保険料は適正か。ここは分解すれば見直す点が出てくるところです。よく光熱費削減のため事務所の照明が暗い事業所など見かけますが、事務所を暗くして社員の士気を下げるくらいならば、その前に見直すところがあるはずです。
このようにブロックごとに分解し、またブロック内もさらに分解して考えていく。そして各ブロックのサイズが大きくなったり小さくなったり連動して動いてくることを意識すれば、効率よく利益を増やす方法も分かってくるはずです。コンサルタントなど外部の人間にこの図を基にお金の流れを見直す手伝いをしてもらうのも良いでしょう。
この「お金のブロックパズル」を頭に入れて利益と費用を考えられるようになれば、ドンブリ経営から脱却できることは間違いありません。