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働き方改革、正しく理解していますか?

働き方改革関連法が施行され、多くの企業が取り組みを始めています。しかし、理解が不十分なまま表面的な対策をするだけでは、かえって事態を悪化させてしまいます。企業を成長に導く、働き方改革の本質とは・・・

(掲載日 2019/10/10)

働き方改革関連法への対応で企業が陥りやすい罠とそれを回避する考え方

 働き方改革関連法が2019年4月1日に施行され、私は法人企業から様々な働き方に関する相談を受けている。それらの相談の中で、法人企業が、従業員の働き方改革に関して数々の取り組みを行っていたものの、かえって従業員の働く現場の混乱を招いてしまったケースをしばしば見受ける。私は、企業が働き方改革関連法の対応をするにあたり、陥りやすい罠があると考えている。本コラムでは、その罠とそれを回避する考え方をいくつかの事例を元に紹介する。

【事例1】時間外労働の削減に努めてきたが、労働時間の管理が不適切で、実際は時間外労働が多発していたケース

 A社は、食品小売業の会社である。A社は各店舗で早くからタイムレコーダーを導入し、労働時間管理を行うとともに、時間外労働の削減に努めてきた。しかしながら、店舗の従業員は過労から、健康を害する人や休職者が続出し、運営が滞る店舗も出てきた。

[陥りやすい罠]労働時間の管理を従業員の自己申告ベースに行うこと

 A社の従業員は会社から労働時間の順守を厳しく言われており、勤務管理上は、ほとんどの従業員が時間外労働をしていない状況であった。しかし、実態は、時間外労働が多発していた。従業員は必要最低限の人数で店舗業務を行っていたため、多くの業務を片付けようと、早出残業や残業をしていた。その手法は、始業時刻の1時間以上前に出勤し、労働を行い、始業時刻の直前にタイムレコーダーを打刻する、或いは、終業時刻にいったんタイムレコーダーを打刻し、帰社したことにして、それから労働するといったことであった。つまり、記録上の労働時間と実際の労働時間が大きく乖離していたことが常態化していたのである。

[回避する考え方]労働時間の管理は従業員の意思が入らないような方法で行うこと

 労働時間の管理は、従業員の自己申告で行ってはならない。そこには労働時間の管理が不適切となる可能性があるからである。従業員は会社と比べると弱者であるため、従業員が会社の都合の良い行動をとり、それが常態化する可能性が高いのである。

 では、労働時間の管理を従業員の自己申告で行わないようにするにはどうするか? A社の場合は、すべての従業員にICカードを支給し、各店舗の出入口にはICカードリーダーを設置した。こうして、従業員が店舗に入退出する時点で自動的に勤務時刻を記録する仕組みを導入した。これにより、A社の記録上の労働時間と実際の労働時間の乖離は無くなり、過労を訴える従業員も減少していった。

[対策例]ICカードで勤務時刻を自動で記録する仕組みを導入し、客観的に労働時間を把握するようにした。

【事例2】店舗の全従業員の希望を考慮してシフトスケジュールを組んでいたが、それにもかかわらず優秀な従業員が過労で健康を害してしまったケース

 B社はシフト制を採用するエステティックサロンである。シフトスケジュールの作成は、店長が店舗の全従業員の希望を聞き、できるだけその希望に沿うように作成していた。
 B社のある店舗で働くC子さんは、人気のエステティシャンであった。そのC子さんはお客様からの指名も多い上に、ビューティコンテスト等のイベント対応も加わり、最近は時間外労働をしていることがしばしばあった。そんなC子さんはしばらくするとミスが多くなり、お客様からのクレームが発生するようになった。また本人も過労を訴え、精神的・肉体的な疲れから健康を害し、休むことが増えてきた。

[陥りやすい罠]1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間を与えていないこと

 今回の働き方改革関連法の改正の中に勤務間インターバル制度の導入があるのをご存知であろうか?勤務間インターバル制度とは1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みのことである。
この勤務間インターバル制度は企業の努力義務であり、罰則規定は今のところない。しかしながら、これは従業員の健康管理を行う上で非常に重要な制度である。C子さんの場合、翌日が朝からのシフト勤務となっていて、休息時間が少なかったことに問題があった。

[回避する考え方]勤務間インターバル制度を積極的に導入すること

 エステティックサロンなどのサービス業では、優秀な従業員に労働が集中する傾向がある。そして、優秀な従業員でも過労によりミスが発生する可能性が高くなることを忘れてはいけない。特にエステティックサロンは人気商売という面があるだけに、従業員のメンタルや健康次第で、売上が左右されることになる。

 では、シフトスケジュールを作成する上で、何をすれば良いのであろうか?その答えは、勤務間インターバル制度を積極的に導入することである。B社の場合、店舗の全従業員の希望に加え、翌日の勤務までの休息時間を考慮したシフトスケジュールを組むことで、この問題に対応した。これにより、従業員が健康を害することもなくなり、お客様からのクレーム発生も減少していった。

[対策例]翌日の勤務までの休息時間を考慮したシフトスケジュールを組んだ。

【事例3】労働時間の削減に努めてきたが、かえって従業員のモチベーションを低下させてしまい売上が低下してしまったケース

 D社は、人件費圧縮等のコストダウンに努めながらも、売上・利益を伸ばしてきたIT機器販売会社である。D社は、働き方改革関連法の施行に先立って、ノー残業デーの設定や時間外時のオフィス自動消灯等の改革を行い、時間外労働の削減に努めてきた。
 しかしながら、従業員のためを思って実行した改革も策を重ねるごとに、営業部を中心に不満が溜まっていき、営業員のモチベーションも低下していった。そして、ついには営業成績の優秀な人から退職者が出てしまった。D社の営業力は明らかに低下し、売上もダウンする傾向を見せていた。

[陥りやすい罠]働き方改革関連法に対応するにあたり、労働時間の短縮に力点を置くこと

 D社の場合、労働時間の短縮に力点を置いてしまったことが最大の間違いである。実際、D社の営業員の不満は、『人も労働時間も減らされる中で、どうやって、売上予算を達成しろというのか?会社は矛盾したことを押し付けている。』というものであった。

[回避する考え方]働き方改革関連法に対応するにあたっては、労働時間ではなく、業務そのものを見直すこと

 働き方改革関連法は「働き過ぎ」を防ぎながら、「ワークライフバランス」と「多様で柔軟な働き方」を実現するのが目的である。つまり、この法に対応するには、まず業務の見直しをすることが重要なのである。業務の見直しは、その業務の必要性、時間や場所の制約、人的要件などを検討することから始めなければならない。労働時間の削減は、それらを明確にしてから行うべきである。

 D社が業務の見直しをした結果、営業員の時間外労働の主な原因は、顧客訪問後に作成する営業報告書にあった。D社は、営業報告の内容を必須項目だけに絞り、モバイル端末により行う仕組みを導入した。これにより、帰社することなく営業報告ができ、その結果として、時間外労働の削減を実現できた。

[対策例]まずは、業務の見直しを行い、その業務の必要性や非効率な部分を検討し改善する。

 本コラムでは法人企業が働き方改革に関して行った取り組みが、かえって従業員の働く現場の混乱を招いてしまった事例を紹介してきた。これらの事例からわかるように、陥りやすい罠とは、働き方改革関連法やその目的の理解が中途半端で、対応策の検討が不十分であることに起因する。
 そして、事例に見る混乱は、従業員の休職や退職といった事態を引き起こしていた。これは明らかな戦力ダウンである。人手不足と言われる現在においては、従業員確保とその育成に係る労力とコストは年々増加しており、一度ダウンした戦力を取り戻すのは難しい。これからの企業経営は、働き方改革により、「ワークライフバランス」と「多様で柔軟な働き方」を実現し、従業員のメンタルや健康管理を適切に行うことで、従業員にとって働きやすい環境を提供していくことが重要である。企業の経営者には、是非、働き方改革関連法やその目的の正しい理解と十分な対応策の検討をお願いしたい。

 本コラムが働き方改革を行う上で、参考となれば幸いである。

著者プロフィール

石黒 弘之(株式会社鳳凰総研 代表取締役社長)

大手IT会社にて、プロジェクトマネジメント、販売推進、マーケティング、及び、新規事業や新製品の企画・開発に従事する。2017年に『新たな働き方の創造』を経営理念とする(株)鳳凰総研を設立。各種リサーチやマーケティング、人材・組織・働き方に関する経営支援、ITによる生産性向上などのコンサルティングを行っている。

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