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中小企業の成長を加速させる「外注力」の磨き方

外注の活用は中小企業の成長を加速させます。ところが、外注する目的、適切な外注先の選定、発注の方法、発注後の対応などを誤ると、外注コストを上回る効果が得られません。適切な「外注」の活用方法をビジネススーツのオーダーメイドに当てはめて、わかりやすく解説します。

(掲載日 2025/12/18)

業務外注はビジネススーツのオーダーメイド ― 中小企業における賢い外注活用術 ―

中小企業の経営者の皆様、日々の業務、本当にお疲れ様です。
常にヒト・モノ・カネという限られたリソースの中で、自社の成長を最大化する道を探していらっしゃるかと思います。

目の前の業務を「内製」するか、それとも「外注」するか。
この決断は、単なる事務作業の振り分けではなく、企業の未来の形を決める重要な「戦略的投資」です。

この意思決定を、「ビジネススーツのオーダーメイド」にたとえて考察してみましょう。

既製服はすぐに手に入り比較的安価ですが、体型に完璧にフィットすることは稀です。
一方、オーダーメイドは手間と時間がかかりますが、着る人を最も魅力的に見せ、最高のパフォーマンスを引き出します。
外注とはまさに、自社の課題に完璧にフィットする一着を仕立てるプロセスなのです。
この視点を持つことで、あなたの発注力、すなわち経営力が格段に向上するはずです。


第1章:TPOの設定 ― 外注という名の「着用シーン」を決める

オーダーメイドスーツを仕立てる際、まず問われるのは「いつ、どこで、何のために着るのか」というTPO(時・場所・目的)です。
これは外注における「目的の明確化」と完全に一致します。

「緊急の案件だから手が足りない」という理由だけで外注しても、それは場当たり的な衝動買いと同じです。

あなたの外注目的は何でしょうか?

T(Time:納期とスピード)
緊急の業務で即座にプロのスピードが必要か、それとも長期的なルーティン業務の効率化を目指すのか

P(Place:現場とチャネル)
顧客対応の最前線なのか、バックオフィス業務の安定化なのか

O(Occasion:最終目的)
コスト削減が主眼なのか、それとも外注することでしか得られない「新たな技術や知見」の獲得が目的なのか

このTPOが曖昧な「とりあえずの一着」は、結局タンスの肥やしになるか、着心地が悪くてパフォーマンスを落とす結果になります。
目的を明確にすることで、次の章で議論する「生地」と「パートナー」選びの基準が定まります。

TPOで服装を選ぶように、外注目的を明確化することが大切です



第2章:生地選びと採寸 ― パートナー選定と仕様の「詰め」

目的が定まれば、次は「生地選び」と「採寸」、つまり「発注先の選定」と「仕様の詰め」です。


生地選び(発注先の選定)

外注先には、価格を重視する「ポリエステル」のような企業もあれば、高度な技術や質感を持つ「ウール」や「カシミヤ」のような企業もあります。単に安いという理由だけで選ぶと、成果物の品質が低く、結局「手直し」という名のリスクを抱えることになります。あなたの外注目的(TPO)に照らし合わせ、その分野での実績、専門性、そして何より「責任感」という名の耐久性を基準に選ぶ必要があります。

また、「デザインの流行」つまり「最新の技術や市場のトレンド」に精通しているかどうかも重要です。古い型紙しか持たない仕立て屋に未来のビジネスを任せることはできません。



採寸(仕様の詳細化)

採寸こそ、外注成功の命運を分けます。スーツで「だいたい肩幅はこれくらい」では失敗するのと同じで、業務仕様でも「ざっくりこんな感じで」は通用しません。誰が見ても同じ解釈になるレベルまで、成果物のフォーマット、納品までのプロセス、使用するツールなどを明確に定義しなければなりません。「自社で必要な機能(ポケットの仕様や数)やブランドのデザインなど(ネーム刺繍の有無)を決定する(インプットの準備)」と、「発注先に縫製と仕立てを任せる(アウトプットの実行)」の境界線を明確に引くことが重要です。


第3章:仮縫い(フィッティング)の重要性 ― 途中経過での軌道修正力

注文して契約書を交わしたら、あとは完成を待つだけでしょうか?
オーダーメイドの仕立て職人は必ず「仮縫い(フィッティング)」の工程を設けます。
これは、初期の設計図通りに縫い進めたものが、実際に着る人の体型に合っているかを確認する、極めて重要な「途中経過での軌道修正」の機会です。

外注においても、「契約後の放置」は最大の危険行為です。
中間段階で成果物や進捗状況をチェックする「仮縫い」を設けましょう。
この時、経営者自身の「違和感」にアンテナを張るようにしてください。

「なんだか袖丈が長すぎる気がする」「このデザインは私の想像と違う」といった感覚を、遠慮せずに明確なフィードバックとして言語化し、外注先に伝えることが、最終的な成功品を生み出します。
肩幅や袖丈の微調整を重ねることで、外注先との信頼関係も深まり、次からの発注がよりスムーズになります。

外注先の成果物に少しでも違和感を感じたら、すぐに対応することが望まれます



第4章:値札の裏を読む ― コストと時間を「戦略的」に見積もる

スーツのオーダーメイド価格は、生地代だけではありません。そこには、職人の「時間」、長年培った「技術」、そしてその一着に対する「責任」が含まれています。

外注の「値札の裏」を読むとは、「手直しコスト」や「納期遅延リスク」といった見えないコストを正確に試算することです。品質の低い外注は、結局、自社の優秀な社員の「手直し工数」を発生させ、二重のコストを生みます。

さらに重要なのは、外注のROI(投資対効果)をどう計算するかです。外注によってコストが削減できたかどうかだけでなく、それによって「社内のコアメンバーが本来集中すべき業務に専念できた」という選択と集中や、リソース不足による機会損失の回避という、目に見えない効果を最大化できたかどうかを評価すべきです。
短期的な価格ではなく、長期的な戦略効果でコストを判断しましょう。


第5章:自社に残すべきは「着こなしの哲学」 ― コア業務の見極めと資源の集中

では、あなたの会社にとって「絶対に外注してはいけないもの」は何でしょうか。

スーツの仕立てにおいて、職人が最高の技術で縫製し、美しいシルエットを作り上げたとしても、 最後に「これはあなたの望む一着ですか?」と問うのは、その「着こなしの哲学(フィッティングの基準)」を満たしているか、を確認することにあたります。

仕立て屋(外注先)は、あなたの体型という採寸データと、あなたがビジネスシーンに求める基準に基づいて、作業を行います。この「採寸データ」と「基準」こそが、外部に漏らしてはならない、そして外部に決めさせてはならない、自社の核です。

それは、具体的な業務に置き換えれば以下の三点になります。

・顧客の情報:顧客の「生の声」や「行動データ」という、自社独自の採寸データ

・経営ビジョンと理念:これだけは譲れない「着こなし」の哲学

・ブランドの核心(DNA):他社には真似できない、自社の存在意義

この「着こなしの哲学」となるコア業務を徹底的に見極め、そこに経営者の時間、優秀な人材、資金を集中させること。外注は、コア業務への集中力を高めるための手段なのです。経営者が「決断力」を発揮し、従業員が「集中」すべき領域を明確に線引きすることが、中小企業の限られた資源を効率的に活用する鍵となります。

コア業務に専念することで生産性の向上も期待できます



おわりに:発注力は経営力

業務の外注は、もう単なる「雑務の手放し」ではありません。それは、自社のリソースを何に投資し、何を外部のプロフェッショナルに託すかを判断する、極めて高度な「経営判断」そのものです。

オーダーメイドのスーツを極めた人は、自分の体型、着用シーン、素材の特性を熟知しています。同じように、外注を極めた経営者は、自社の強みと弱み、そして外部パートナーの能力を熟知し、自社のビジネスに最もフィットした体制を常に仕立て上げることができます。

外注を恐れず、「発注力」を磨きましょう。TPOを明確にし、パートナーを選定し、仮縫いでのフィードバックを怠らない。この一連のプロセスを徹底することが、リソースの限られた中小企業が大きな成長戦略を描くための、真の経営力に直結するのです。

著者プロフィール

谷川 大致(中小企業診断士)

合同会社AMU経営研究所 統括研究員。専門分野は、製造業の業務効率化、幹部育成。工場診断研究会代表として後進育成にも注力。

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