令和6年11月1月施行「フリーランス新法」 押さえたいポイント
令和6年11月1日に「フリーランス新法」が施行されます。フリーランスや会社を一人で経営する方(一人社長)はもちろん、それらの方々に仕事を依頼する発注元も知っておくべき点が多々あります。一体、どのような法律なのか。留意すべき点は何か。専門家(弁護士)が解説します。
(掲載日 2024/10/30)
フリーランス新法と実務上の留意点
1.フリーランス新法について
令和6年11月1日に、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス新法。以下「新法」といいます。)が施行されます。新法は、フリーランスとの業務委託取引について、取引の適正化と就業環境の整備の観点から発注事業者が守るべき義務や禁止行為を定めた法律です。個人事業主や中小企業も広く適用対象になることが想定されます。中小企業の経営者の方も新法の内容を理解しておくことが大切です。2.新法の適用対象について
新法の適用対象となるフリーランスと発注事業者は、新法2条で定義されています。まずは、自己や取引の相手方が新法の適用対象となるか確認しましょう。
(1)新法の適用対象となるフリーランス(特定受託事業者)について
新法は、業務委託の相手方である事業者のうち、①個人であって従業員を使用しないもの、②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないものを「特定受託事業者」(新法2条1項)と定めて、保護の対象としています。「従業員を使用」しているか否かが重要な判断ポイントですが、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法9条に規定する労働者)を雇用するものと考えられています。短時間・短期間等の一時的に雇用される労働者を雇用する場合や事業に同居親族のみを使用している場合に関しては、「従業員を使用」に含まれません*1。
発注事業者において、業務委託の相手方である事業者(フリーランス)が従業員を使用しているか否かを確認する場合は、聞き違い等で後にトラブルが生じないように、口頭以外に記録が残る電子メール等の方法で確認することが望ましいでしょう。
*1…出典:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」3ページ(令和6年5月31日公表:公正取引委員会・厚生労働省)
(2)新法の適用対象となる発注事業者(業務委託事業者・特定業務委託事業者)について
新法は、特定受託事業者に業務委託する発注事業者を「業務委託事業者」(新法2条5項)と定義しています。注意点は、フリーランスがフリーランスに対して業務委託する場合も含まれることです*2。業務委託事業者のうち、①個人であって、従業員を使用するもの、②法人であって、二以上の役員があり又は従業員を使用するものは「特定業務委託事業者」(新法2条6項)と定義されています。特定業務委託事業者の場合、業務委託事業者よりも新法の規制範囲が広範であり、いずれの類型に該当するかの判断が重要になります。
なお、「従業員を使用」の考え方は、上記(1)の特定受託事業者における場合と同様です。
*2…「フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット」6ページ(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省、令和6年7月公表)
(3)新法の適用対象となる業務委託について
事業のために他の事業者に、①物品の製造(加工を含む)、②情報成果物(例.ソフトウェア、映像コンテンツ、デザイン等)の作成、③役務の提供(委託事業者が自ら用いる役務も含む)を委託することが対象です(新法2条3項)。業務委託の例として、企業がフリーランスに対し、宣材写真の撮影やプログラムの作成を委託する場合が考えられます。3.取引の適正化に関する規定について
(1)取引条件の明示義務(新法3条)について
業務委託事業者(特定業務委託事業者も含みます。)が特定受託事業者に対し業務委託した場合は、直ちに、取引条件を書面又は電磁的方法(電子メール等)により明示しなければなりません(新法3条1項)。また、明示方法として、電磁的方法を選択した場合に、特定受託事業者から取引条件を記載した「書面」の交付を求められたときは、遅滞なく「書面」を交付しなければなりません(新法3条2項)。<明示すべき取引条件(新法3条1項、公正取引委員会規則1条>
① 業務委託事業者及び特定受託事業者の名称 |
② 業務委託した日 |
③ 給付・役務の内容 |
④ 給付・役務提供の期日 |
⑤ 給付・役務提供の場所 |
⑥ 報酬の額及び支払期日 |
⑦(検査する場合は)検査完了日 |
⑧(現金以外の方法で支払う場合)支払方法に関すること |
(2)期日における報酬支払義務(新法4条)
特定委託事業者が特定受託事業者に対して業務を委託した場合、発注した給付(委託の目的物である物品等)を受領した日から起算して60日以内のできるだけ短い期間内で、支払期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければなりません(新法4条1項、5項)。支払期日を定めなかったときは「給付を受領した日」、給付を受領した日から60日を超えて支払期日を定めたときは「給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日 」を支払期日と定めたものとみなされるため、支払遅延に注意が必要です(新法4条2項)。
(3)7つの禁止行為について(新法5条)
特定業務委託事業者が業務受託事業者に対し、「1か月以上」の業務委託をした場合、次表の7つの行為(新法5条1項1号~5号、同条2項1号、2号)が禁止されています。契約更新により、通算して1か月以上継続する場合も本条の対象となります。なお、特定業務委託者が新法5条の禁止行為を行うことについて、特定受託事業者の了承を得ていたとしても、本条違反に該当するため注意が必要です*3。*3…出典:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」28ページ(令和6年5月31日公表:公正取引委員会・厚生労働省)
<特定業務委託事業者の7つの禁止行為>
①受領拒否の禁止 (新法5条1項1号) | 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、注文した物品又は情報成果物の受領を拒むこと |
②報酬の減額の禁止 (新法5条1項2号) | 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、あらかじめ定めた報酬を減額すること |
③返品の禁止 (新法5条1項3号) | 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、受け取った物を返品すること ※給付の内容に、直ちに発見することができない委託内容と適合しないことがある場合は、6か月を超えた後に返品すること |
④買いたたきの禁止 (新法第5条1項4号) | 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること |
⑤購入・利用強制の禁止 (新法第5条1項5号) | 特定業務委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること |
⑥不当な経済上の利益の提供要請の禁止 (新法5条2項1号) | 特定受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること |
⑦不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(新法5条2項2号) | 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること |
4.就業環境の整備に関する規定について
(1)募集情報の的確表示義務(新法12条)
特定業務委託事業者は、広告等を活用して特定受託事業者の募集に関する情報(①業務の内容、②業務に従事する場所・期間・時間に関する事項、③報酬に関する事項、④契約の解除・不更新に関する事項、⑤フリーランスの募集を行う者に関する事項)を提供するときは、当該情報に虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはなりません(新法12条1項)。例えば、実際の報酬額よりも高額であるかのように表示していないか、業務委託にもかかわらず、労働者の募集と混同させる表示をしていないか等に留意が必要です。
(2)育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(新法13条)
特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対して、「6か月以上」の業務委託を行う場合、特定受託事業者からの申出に応じて、育児介護等と業務を両立できるよう必要な配慮をしなければなりません(新法13条1項)。契約更新により、通算して6か月以上継続する場合も本条の対象となりますので注意が必要です。違反する例として、特定受託事業者から上記申出を受けたにもかかわらず、申出内容を無視する、実施可能か検討しない、配慮不実施の理由を説明しない等があります*4。
*4…出典:フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A問93
(3)ハラスメント対策に係る体制整備義務(新法14条)
特定業務委託事業者は、ハラスメント(セクハラ・マタハラ・パワハラ等)により業務受託事業者の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません(新法14条)。講じるべき対応として、大きく4つの大項目(①方針の明確化及びその周知・啓蒙、②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③業務委託におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応、④併せて講じるべき措置)に分類した上で、全10項目の具体的に講じるべき措置の内容が公表されています*5。
*5…出典:「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」問101、フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット23ページ
(4)中途解約等の事前予告・理由開示義務(新法16条)
特定業務委託事業者は、「6か月以上」の業務委託・契約の更新により6か月以上継続して行うこととなる業務委託について、契約の解除または不更新をしようとする場合、例外事由に該当する場合を除いて、「解約日または契約満了日から30日前まで」にその旨の予告をしなければなりません(新法16条)。予告日(当日)から解除日の前日までの期間が30日間確保されている必要があるため、予告期間の計算に注意が必要です。例えば、10月31日に解除する場合は10月1日までに予告をする必要があります。また、上記予告がされた日から契約が満了するまでの間に、契約解除の理由を請求された場合、例外事由(フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合等)に該当する場合を除いて、遅滞なく理由を開示しなければなりません(新法16条2項)。
5.新法に違反した場合の措置等
新法に違反すると思われる行為がある場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣は、報告徴収や立入検査を行ったうえ、指導、助言、勧告、公表、命令をすることができます(新法8条、9条、11条、18条~20条、22条)。命令違反や検査拒否等に対しては50万円以下の罰金の対象となります(新法24条)。「両罰規定」といって、違反した人だけでなく、違反した人の雇い主や法人の代表者も対象となります(新法第25条)。重要な点は、特定受託事業者が所管省庁に違反事実の申出をしたことを理由に、契約解除や今後の取引を行わない等の不利益な取り扱いをすること(報復措置)が禁止されていることです(新法6条3項、新法17条3項)。
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