コンプライアンス遵守のためのマネジメント 3つのポイント
社会性を欠いた経営実態が発覚すると、企業は計り知れないダメージを負います。これは中小企業も同様です。適切なマネジメントが求められる昨今、経営者はどのように立ち回ればよいのか。専門家がわかりやすく解説します。キーワードは「生産性」「人間性」「社会性」です。
(掲載日 2024/01/15)
あなたの会社は大丈夫!?社会的存在価値を高めるためのマネジメントのポイント
2023年7月に発覚した大手中古車販売会社による保険金の不正請求の問題は、世間に大きな衝撃を与えました。その手口の悪質さもさることながら、関連して明らかにされた社内事情等の実態は現代の企業が直面している課題を凝縮した様相を呈していました。過去を遡れば、企業の不祥事など枚挙に暇がありませんが、行政まで巻き込んだ社会問題に発展したケースは極めて稀であったようにも思います。
ワークライフバランスやSDGs(持続可能な開発目標)等に対する意識の高まりによって、人々の企業に対する見る目は一層厳しくなっています。世間の評価に耐え、社会から必要とされる企業であり続けるためにはどんなことに気をつければよいのか。その事についてマネジメントの観点から解説していきます。
マネジメントとはなにか
マネジメントの定義について極めて簡潔に述べると「組織で成果をあげること」に集約されます。経営者のみなさんにおいては、ヒト・モノ・カネをはじめとした持てる経営資源をフル活用して、成果の獲得に日々苦心されていることでしょう。しかし、闇雲に成果を追求しても得られるものは多くはありません。確かな成果をあげるためには、「生産性」「人間性」「社会性」の3つに留意する必要があります。マネジメントを支える3つのポイント
生産性
「生産性」については、ほとんど説明を必要としないかもしれません。製品やサービスを市場に提供し、売上や利益を上げることは企業活動の基本です。また、さらに大きな売上や利益を得ようとするならば、製造方法を改善したり販売方法を工夫したりといった日々の努力が欠かせません。このように、生産性の向上を図ることはマネジメントの実践において不可欠な要素です。人間性
「人間性」に関して言えば、ブラック企業の問題が取り沙汰されて以降、就業環境の良し悪しに対する関心が高まっています。ひとたび悪い評判が立てば、人を集めにくくなるのは必至です。各種のハラスメントを中心とした職場内での問題行為も、働く人たちの心情を傷つけ、モチベーションの低下を招きます。これらは、生産性にも直結する事柄であるため十分注意する必要があります。また、ダイバーシティの観点から従業員一人ひとりの事情に配慮した柔軟な対応も求められています。このように、そこで働く人々が安心と安全を感じながらやりがいを持って仕事に取り組める職場を作ることもマネジメントの重要な要素です。社会性
「社会性」については、CSR(企業の社会的責任)がその意味を最も端的に表しているといえるでしょう。企業活動は私たちの経済社会に恩恵をもたらす一方で、その影響力の大きさから多大な損害を与える可能性を秘めています。環境破壊や汚職などの不祥事は、その典型的な例です。そのような悪影響を食い止め、企業として責任のある行動を追求することは、社会ひいてはその企業の存続と繁栄に繋がります。かつては大企業のための取り組みと考えられていましたが、今日では中小企業も例外ではなく、経営上の必須の要素となっています。以上の3つの要素をバランスよく発揮することがマネジメントでは重要となります(図A)。しかし、企業活動を続けていく過程でこれらに何らかの歪みが必ず生じます。冒頭に挙げた大手中古車販売会社に至っては、マネジメントの軸を生産性に極端に振り切ったがゆえに人間性も社会性も毀損してしまい、自社だけでなくステークホルダーにも甚大な被害を与えてしまいました(図B)。そのような事態が起こらないように、経営者はこの3つの要素が十分に機能しているのかを注意深く管理しなければなりません。
経営理念、ビジョンの重要性
「生産性」「人間性」「社会性」のバランスを保つことは、単に経営の安定をもたらすだけではありません。これらの機能発揮が、そのまま経営理念あるいはビジョンの体現となります。話は前後しますが、マネジメントを適切に行うためには、組織として目指す方向性が定まってなければなりません。そして、それは売上高に代表されるような具体的な数値目標とも違います。それらを達成したときに会社が社会にとってどのような存在になっているのかを示すものが経営理念やビジョンであり、単純に数値化できない上位概念です。
そのような組織としてのあるべき姿を描くには、まず自分たちが行っている事業や提供している製品・サービスが何のために存在しているのかを問うことから始めなくてはなりません。その上で、それらが今後どのように変化・発展していくのかを予測し、自社としてどのように貢献していくべきなのかを構想することが肝心です。
中小企業経営において、理念やビジョンを掲げることを大袈裟に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際に会社で働いている従業員のみなさんは会社の方向性について経営者の方々が想像している以上に気にしています。従業員の信頼を得るためには、給料や福利厚生を充実させるだけでは不十分なのです。組織のあり方としての明確な目標や方針が定まっていないのであれば、今一度考えてみることをお勧めします。
マネジメントを機能させるための方法
最後に、マネジメントを機能させるためにどのような方法を取ればよいのかについて考えていきたいと思います。生産性については、このコラムが対象としている読者の方々にとっては釈迦に説法だと思いますのであえて割愛し、人間性と社会性に関する具体的な施策を紹介します。企業活動の中で人間性を実現する方法としては、セルフ・キャリアドックがあります。セルフ・キャリアドックとは、2016年の職業能力開発促進法の改正・施行に伴って定められた制度で、企業内における従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援するための取り組みや仕組みのことです。これを導入することにより、離職率の抑制、モチベーションの向上、育児・介護求職者の復職率向上等に効果があるといわれています。導入の大まかなフローは下表にまとめましたが、キャリアコンサルタントなどの専門家の支援を受けながら行うのが一般的です。
社会性の発揮については、企業のCSR活動を自治体が推進しているケースもあります。一例を挙げると、東京都では「サスティナビリティ経営促進事業補助金」を実施しています。これは、都内の中堅および中小企業が経営をサスティナビリティに配慮したものに転換するためにサスティナビリティ・リンク・ローン(SLL)*1やポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)*2を活用する場合、それにかかる費用の一部を補助する制度です。詳しくはホームページを参照いただきたいと思いますが、こういった制度を利用することも一つの方法と言えます。
*1サスティナビリティ・リンク・ローン(SLL):借り手がサステナビリティに関する野心的な目標を設定し、その達成度合いと融資条件が連動するローン
*2 ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF):企業活動が環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響とネガティブな影響)を包括的に分析・評価し、当該活動の継続的な支援を目的としたローン
*1、*2は東京都「金融機関と連携したサステナビリティ経営促進事業補助金交付要綱の概要」 P2より引用
東京都:金融機関と連携したサステナビリティ経営促進事業
https://www.startupandglobalfinancialcity.metro.tokyo.lg.jp/gfct/initiatives/green-finance/sustainability-management
しかし、お金が絡むと取り組みのハードルが一気に上がってしまう企業も少なくないでしょう。実際のところ、CSRの取り組みは自社にできることを洗い出すことが先決です。専門家を交えて着手するのも一手でしょう。その上で、追加の投資が必要と判断した場合に先に挙げた制度を利用するのがよいと思われます。
以上のような取り組みを活用しながら、会社の存在価値を高め、社会にとってなくてはならない企業としての地位を確立することを目指してはいかがでしょうか。