社員や顧客の共感を生む「企業文化」のつくりかた
社員や顧客の共感を生む財産のひとつに「企業文化」があります。適切な企業文化の形成は、中小企業にも多くのメリットをもたらします。とはいえ、企業文化づくりはひと筋縄ではいきません。中小企業が企業文化づくりを進めるうえで押さえておきたいポイントと具体策を紹介します。
(掲載日 2023/03/18)
企業文化を創る / 変える!
人は共感したときに行動を起こす
企業で働くのも「人」、製品を購入するのも「人」。当たり前のことですが、人はみなそれぞれ違う考えを持っています。「高い給与が得られるからこの会社で働く」、「機能が優れているからこの製品を買う」。このような考え方はとても合理的で納得がいくものです。が、「この会社の雰囲気が好きだからここで働きたい」、「心を込めて製品を作っている姿にひかれて買う」、といった具合に、理屈だけではなく、会社やそこで働く人、製品についての「共感」をもとに行動を起こすことも多々あります。「企業文化」も人に共感を呼び起こすものであり、その会社の独自の強みにもなるものです。
- ・企業文化に共感してくれる人が応募してくれる
- ・会社が好きなので離職を防止できる
- ・企業文化が社員の行動を自動的に望ましい方向に導いてくれる
- ・ルールを強制しなくても、社員が文化に照らし合わせて判断ができる
- ・企業文化に共感してくれる製品を購入し、リピート客となってくれる
- ・リピート客がファンになり、自社やその製品をお勧めとして発信してくれる
よい企業文化が形成されると、このような効果が発揮されることが期待できますが、それには時間がかかるのではないかと思われることでしょう。
どんな事業や会社も創業者の思い入れから始まる
事業を起こすとき、会社を設立するとき。世の中に何かの価値を提供したいと強く願ったからこそ創業しているはずです。新しい商品や新しいサービスだったり、仲間に素晴らしい働く場を提供したり。理想があるからこそ、様々な困難に直面した場合であっても、それを乗り越え、前に進んでこられたことと思います。創業者に近いメンバーと企業文化
創業直後に入社したメンバーは、創業者の行動を目の当たりにし、また、その思いを直接聞く機会にめぐまれています。これはまさに「同じ釜の飯を食う」経験と言えます。いつの間にか創業者と同じ目線ができ、無意識のうちに創業者と同じように考え、行動ができるわけです。この、メンバーが共通して無意識の内に考え、行動していること。それがそのチームや組織のもつ文化になっていきます。目にできるものでもなく、言葉にしても表しにくく、メンバーが共通してまとっている雰囲気であることも多いです。
企業文化の特徴と創業者から遠いメンバー
しかし、その後しばらくたって新しく入ったメンバーにとっては、その雰囲気をまとうには時間がかかります。自分自身の考えや行動とはわずかとはいえ異なる部分があり、調整が必要になるからです。メンバーが多くなるほど、組織上の立ち位置も創業者とは離れていき、創業から年数が経つにつれ、創業時の思いも共有されにくくなります。一方で、新たなメンバーは彼らなりの雰囲気を既にまとっているため、会社の雰囲気を変えていく原動力にもなります。新しい人によって多様性がもたらされ、変化していくことはプラスの要素を持つ反面、会社の大切な価値観は守り、伝え続けたいものです。
どのようにしたら、会社のメンバーが共通してその文化を創り、守り、また変化させたいときに変えていけるのでしょうか。
文化を「見える」ようにする
雰囲気にも似た文化を正確に表現するのは難しいですが、言葉やビジュアルを使って伝えていくことはできます。創業者の思いを言葉にして伝える
これは私が新卒で入社した会社の例です。1910年、機械の小さな修理工場から始まったこの会社は、創業時の精神である「和・誠・開拓者精神」という3つの言葉を、現在に至るまで大切に伝え続けてきました。企業理念である「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを実現するために、社員ひとりひとりが、その行動を振り返るよりどころになっています。退職後30年近くを経た現在でも、呪文のように唱えることができるほど、自身に浸透していたことに驚かされますが、それだけ、文化として会社の隅々にまで創業時の精神を伝える努力を続けてきたのだと思われます。
<参考>
日立グループ・アイデンティティ
https://www.hitachi.co.jp/about/corporate/identity/index.html
会社の大切にしたいものを形にして伝える
ほとんどの会社が「ロゴ」を作ります。ロゴは自社がどのような会社であるのかを小さな面積で効果的に伝えるもので、特に「色」は重要な要素になります。というのも、人は色から様々なイメージを思い浮かべるからです。私が現在勤務している会社は、社員数約70名の中小企業です。研究開発型のベンチャー企業で、創業2年ほどが経ちますが、そのわずかな間にロゴを変更しています。
左側が旧ロゴで、具体的な形と柔らかい温かみのある色により、社内には多くのファンもいました。右側の新ロゴは抽象的な形で、はっきりとした鮮やかな色。力強く上に向けて飛び立っている姿とあいまって、「革新性」を大切な価値として伝えられるようなデザインを採用しました。
企業のさまざまな活動が文化に影響を及ぼす
文化を直接的に「見える」ようにする活動のほか、一見、企業文化とは直接的には関係なさそうな活動にこそ、実は文化を創りだしたり、変えていったりする力があります。いくつかご紹介します。評価制度・表彰制度
社員の皆さんの成果やそれに向けての行動を「評価」する制度がある会社もあることでしょう。この制度も文化を創ることや、場合によっては変えていくことに活用することができます。「高く評価される行動」というのは、「会社が望ましいと考えている行動」であり、これを社員の皆さんに示すことにより、会社の価値観を共有し、社員の皆さんをその行動に誘導することができます。- ・お客様を第一に考えた行動をする
- ・仕事は人と人との関係で成り立っていることを肝に銘じる
- ・自信を持ち、不可能に見えることにもチャレンジする
- ・現実を直視し、問題解決に取り組んでいる
- ・全員がチームに貢献し、チームとして仕事をする
- ・高い目標を掲げ、自分自身に対してリーダーシップを発揮する
社員一人ひとりがその行動をとれるようになると、その会社「らしさ」が自然とできあがり、文化につながっていきます。
経営トップからのメッセージカード
社長から感謝の気持ちを込めて、社員の自宅にクリスマスカードやバースデーカードを送る会社もあります。社長の話を直接に聞くことのできる全社ミーティングなどでは、社長 対 大勢の社員というコミュニケーションになりがちです。メッセージカードは「手紙」という物理的なアナログなツールを介しての1対1のコミュニケーションであるため、距離感の近さとともに、新鮮でとても嬉しく感じられるものです。さらに、自宅に送ることでメッセージは社員だけではなく、家族にも同じメッセージが伝わるため、会社の文化に触れて、家族をファンとして取り込める効果も期待できます。
社員は思いのほか、社長とコミュニケーションをとりたがっています。大きくない会社だからこそでき、かつ簡単な方法であり、受け取った社員もそのカードを大切に持ち続けます。
休暇制度に独自色
有給休暇制度は法令により義務付けられていますが、そのほかに独自の休暇制度を設けることも可能です。社員のプライベートを大切したい会社では、結婚記念日休暇や誕生日休暇を、自主的な能力開発を求める会社では、試験休暇を設定したりする例もあり、独自の制度を通じて社員にメッセージを伝えています。意識的な、一貫性のある活動がポイント
ほんの一例をご紹介しましたが、実施にあたっては、どんな活動も企業文化の形成に影響を与えていることを理解して、意識的に、一貫性を持って行うことが大切です。会社のどんな活動も、会社対社員、会社対顧客、会社対様々な関係者とのコミュニケーションであると言えます。会社と「人」とのコミュニケーションを真摯に積み重ねていくことで、長い時間をかけての「醸成」を待つばかりではなく、積極的に「人の集まり」が身にまとう企業文化を創り、守り、変えていくことが可能になります。「人」から共感してもらえる文化こそ、会社の大きな財産になります。