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イノベーションのキーワード「知の深化」「知の探索」とは?

先読みが困難なVUCA時代に突入した昨今、中小企業や小規模事業者にもイノベーションが求められています。ところが、イノベーションを起こすのは簡単ではありません。はたして、どのような意識を持って取り組めばいいのでしょうか。そのポイントを専門家視点で解説します。

(掲載日 2023/03/20)

「両利きの経営」でイノベーションを起こそう!


1. はじめに ~VUCAの時代~

現代は、先の見通せない時代と呼ばれています。新型コロナウイルスの蔓延、ウクライナ情勢、円安、IT化の急速な進展など、経営環境が大きく変動しています。今から10年前に、誰がここまでの変化を予測できたでしょうか。このような状況にある現代は、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって、「VUCA(ブーカ)の時代」と呼ばれています。猛烈なスピードで、常に変動をし続ける現代。これまで当たり前であった事業の前提が、突然覆されてしまうことも起こりえます。現在の自社のビジネスモデルが、通用しなくなる可能性も考えておかなくてはなりません。まさに「一寸先は闇」と形容してよいでしょう。「旧態依然」の経営を続けている会社は、淘汰されてしまう可能性がどんどん高まっていきます。世の中の変化が激しい時代だからこそ、自社にも変革(イノベーション)が求められています。

変動性(V)、不確実性(U)、複雑性(C)、曖昧性(A)が取り巻くVUCA時代では、「旧態依然」の経営が成長の阻害につながることも…。



2. イノベーションを起こすには

では、どのようにすれば「旧態依然」から脱出し、思考を柔軟にし、組織にイノベーションを起こしていけるのでしょうか。それには、イノベーションはどこから生まれるのか、という視点が欠かせません。イノベーションの鍵は、「知と知の組み合わせ(融合)」にあります。これまで世の中を動かしてきた多くの革新的なアイディアも、全く新しいことを一から思いついたというケースはほとんどありません。その多くが、既存の何かと何かの組み合わせから起きています。あのスマートフォンも、携帯電話と、コンピューター、カメラ、オーディオ等々の組み合わせと言ってよいでしょう。

そして、その融合を起こすための鍵は、「両利きの経営」にあるのです。


3. 両利きの経営とは

「両利きの経営」とは、既存のことを深掘りしていく「知の深化」と、新しいことを勉強し取り入れて挑戦する「知の探索」をバランスよく組み合わせていくことを言います。この「知の深化」と「知の探索」を対比させる考え方は、スタンフォード大学のジェームズ・マーチ氏が、1991年に「オーガニゼーション・サイエンス」誌で発表した論文で提唱した考え方です。日本では、早稲田大学大学院の入山章栄教授が大きく取り上げていることで有名です。それぞれを詳しく見ていきましょう。

「知の深化」とは、現在の強みや中核事業を深掘り、磨き上げていくことを指します。これは極めて重要であり、実際に売上や利益を上げていく手段は、多くの場合「知の深化」となるでしょう。一方で、特に日本人はこの深掘りや磨き上げが大の得意であるためか、どうしてもこちらに偏ってしまう傾向にあります。

一方の「知の探索」とは、新しいことに触れ、取り入れ、リスクをとって挑戦していくことを指します。外の世界に出て、これまで知らなかったことを知ったり、今まで経験したことのないことを経験したりすることで、既存の認知の枠を広げていきます。その結果、今まででは思いつかなかったような発想を得ることができるようになるのです。

引用:『世界標準の経営理論』(著者・入山章栄氏、ダイヤモンド社、2019年)の一部を筆者要約


これを中小企業においてイメージしてみましょう。同質の職人集団が、その専門性や技術を磨いていくことは「知の深化」の代表例と言えます。例えばそこに年齢、性別、国籍など異質な人が入社して組織のダイバーシティが進んだり、社外の勉強会に参加して新しいことに触れたり、これまでと異なる新しい事業へ挑戦したりすることが、「知の探索」と言えます。

新分野へのチャレンジは、斬新なアイディアを生み出すきっかけになりえます。



4. 両者のバランスをとることが重要

重要なことは、「知の深化」と「知の探索」のどちらに偏ってもいけない、ということです。

「知の探索」だけでは、目先の利益を上げることが難しく、企業経営が成り立たないでしょう。逆に「知の深化」だけでは、短期的な支障は少ないものの、中長期的に見た場合にイノベーションが枯渇してしまう恐れがあります。恐ろしいのは、「知の探索」はすぐに利益に結びつかないため、短期的には「知の深化を突き詰める方が合理的である」場合が多いということです。このように、短期的な合理性だけを求めて「知の深化」を追求し、中長期的にイノベーションが起こせない組織になってしまうことを「コンピテンシー・トラップ」と呼びます。現在、多くの日本企業がこのコンピテンシー・トラップに陥っている、と言ってよいでしょう。

引用:『世界標準の経営理論』(著者・入山章栄氏、ダイヤモンド社、2019年)の一部を筆者要約

特に、新規事業部のような形で新しいことに挑戦する部署を立ち上げる場合、既存事業部のメンバーから「金くい虫」と呼ばれ、新規事業部のメンバーが肩身の狭い思いをする、というケースは非常に多いものです。最悪のケースでは、そういった軋轢によって新規事業がとん挫するということにもなりかねません。そのため、経営者の断固たる決意や強いリーダーシップ、納得感の高い評価制度、組織内の円滑なコミュニケーション等が重要となります。

それでは、資源の限られた中小企業において、どうすれば両利きの経営を実現していけるのでしょうか。その鍵は、まずは経営者自身が社外や他業界の多くの人と会い、学び続けることです。私の実感でも、中長期的に成果を出し続けている企業は、やはり経営者自身が勉強好きな会社が多いものです。経営者に「知の探索」を行う余裕がないという状態は、黄色信号が灯っている、と言ってもよいでしょう。

強みを磨いてばかりいるとコンピテンシー・トラップに陥るおそれも…。「知の深化」と「知の探索」はバランスが重要です。


5. 補助金の活用について

令和5年3月現在、令和3年度より経済産業省が行っている「事業再構築補助金」という補助金があります。これは、「ウィズコロナ・ポストコロナの時代の変化に対応するために(中略)思い切った事業再構築」(事業再構築補助金第9回 公募要領より)を支援する補助金であり、現在のビジネスモデルとは異なる「新しい取り組み」を応援するものです。申請や採択に向けたハードルは高いものがありますが、その分補助される金額も非常に大きいことが特徴です。変化が求められている今の時代にふさわしい補助金であり、まさに国が「両利きの経営」をバックアップしている、と言ってよいでしょう。

そのほか、事業内容や投資内容、企業の規模等によりますが、「ものづくり補助金」、「小規模事業者持続化補助金」等も、新規事業への活用が検討できます。


6. まとめ ~まずは小さなところから始めよう~

「知の深化」と「知の探索」は、イノベーションを起こしながら事業を発展、継続していくうえで、どちらも欠かすことはできません。しかし、意識して「知の探索」に取り組まないと、特に日本企業は「知の深化」に偏ってしまう傾向があります。

必ずしも事業再構築補助金のような、思い切ったことをする必要はありません。「アイディアは移動距離に比例する」とは、ライターの高城剛氏の言葉です。今まで行ったことのないお店に行く、これまでと違うメニューを注文する、いつもと違う出勤経路を選んでみる、といったことも、すぐにでもできる小さな「知の探索」でしょう。

ほかにも、自社が10年前と同じことしか行っていないということはないか?自社のメンバーに多様性はあるか?ダイバーシティは進んでいるか?異質なものを排除していないか?いつも同じメンバーと食事をしていないか?若い人のアイディアを取り入れているか?ここ最近、新しい人と知り合いになる機会が減ってはいないか?同じ業界の人とばかり知り合っていないか?最近学んだ新しいことは何か?…などなど、自社や経営者自身が「知の探索」ができているか、今一度みつめ直してみましょう。

このように、まずは「今までと違う何か」を取り入れ、実行していくマインドを持つところからスタートし、組織を活性化していきましょう!

「自身への問いかけ」を繰り返すことがイノベーションへの“第一歩”です。

著者プロフィール

小野 和斗(伴走経営 代表)

静岡県三島市出身。大手地図会社のグループ企業に在籍時、総務経理部門の責任者、自治体営業(GIS、ハザードマップ等)の責任者を兼務。独立後、商工会議所、役所等を中心に多くの経営相談に携わる。事業戦略の立案、創業支援、資金繰り・融資の支援、補助金を活用した営業改善、BCP策定などの実績多数。

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