説得力ある「経営計画書」の策定手順とポイントを解説
経営課題の解決には経営計画書の策定が欠かせません。ところが、「なぜつくる?」「どのように策定する?」と疑問を抱く企業もチラホラ。経営計画書を策定する企業はそうでない企業と比べて良い効果が出ているとのデータもあります。経営計画書の策定手順とポイントを紹介します。
(掲載日 2023/02/06)
勤続34年の元信金マンが教える「経営計画書」の策定ポイント
2022年度版「小規模企業白書」によると、事業内容を見直した場合、計画書を策定しない小規模企業者より策定した小規模企業者の方が、多くの項目で経営への効果が大きくなっています。(図1参照)
改めて「計画書」と聞くと皆様はどのような名称の計画書を思い浮かべますか?
「経営計画書」「事業計画書」「改善計画書」「再生計画書」などいろいろな種類があります。
では、実際に計画書を策定する場合、皆様は、どの種類の計画書を策定するのが良いでしょうか?また、なぜ計画書を策定するのでしょうか?
金融機関からの要請で計画書を策定した、計画と実績に大きな開きがでてしまった、「アクションプラン」(行動計画)を十分に実施できなかったなど経験された方は少なくありません。
本コラムでは、皆様が策定すべき計画書の種類、策定する目的、策定の手順とポイント、策定した後の取り組みについて説明したいと思います。
策定すべき計画書の種類
計画書は皆様の事業の状況によって次のように区分されます。
1.事業の状況が好調な場合
「中期経営計画書」や「経営革新計画書」などを策定します。
2.事業の状況が不調な場合
「経営改善計画書」や「早期経営改善計画書」などを策定します。
3.事業の状況が厳しい場合
中小企業活性化協議会(以下、「協議会」と言う。)の支援により、「事業再生計画書」や「収益力改善計画書」を策定することになります。
次に、各計画書の内容について簡単に解説します。
事業の状況が好調な場合
①中期経営計画書
3年から5年間の計画で、会社の現状分析と将来の方向性・あるべき姿を記載することにより具体的な対応策を明確にします。
②経営革新計画書
既存事業とは異なる「新規事業」の取組み内容を記載し、計画期間における数値目標を明確にします。策定した経営革新計画が都道府県知事等の承認を受けることで、日本政策金融公庫の特別利率による融資制度など各種支援策の利用が可能になります。
事業の状況が不調な場合
③経営改善計画書
業況の回復に向けたアクションプラン、数値目標を明記します。尚、計画書を策定した後、モニタリングを実施する必要があります。「経営改善計画策定支援事業」(通称・405事業)と「早期経営改善計画策定支援事業」(ポストコロナ持続的発展計画事業:通称・ポスコロ事業)により計画書を策定する費用などの補助があります。(図2参照)
(下)中小企業庁ホームページ 早期経営改善計画策定支援事業 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/04.html
事業の状況が厳しい場合
④事業再生計画書
赤字、債務超過など事業の運営が厳しい事業者が再生するために策定する計画書です。事業の課題を明確にし、事業および財務の計画を明記します。中には債務免除等が絡む計画もあります。
⑤収益力改善計画書
1年から3年間で収益力を改善するために策定する計画書です。収益力の低下、過剰債務等により財務内容や資金繰りの悪化などが生じるおそれのある事業者を対象としています。協議会の金融機関調整能力、アクションプランの策定支援能力を活用するとともに、行動計画と簡易な収支・資金繰り計画を明記します。
計画書の策定目的
計画書は、誰が、いつ、何を行うのかを具体的なアクションプランで明確にし、そのアクションプランを実施した結果の計画数値を明記します。すなわち、計画書は、①やるべきことを明確する、②社員に課題を理解してもらう、③会社全体が同じ方向を向くために策定するものです。計画書は「経営理念」を実現するために策定するものです。取引金融機関等から言われて策定するものではないことはご承知の通りです。
計画書策定の手順・ポイント
ここから計画書を策定する手順とポイントについて説明します。
前提として、前期の決算書(損益計算書)を確認します。営業利益は事業で稼ぐ力であることはご存知の通りです。営業利益から借入金の利息、法人税などが支払われ、当期純利益が算出されます。詳細は抜きにして、当期純利益と減価償却費(売上原価や販売費及び一般管理費の中に含まれる)の合計額から借入金の元金返済、設備投資、従業員や株主への還元、内部留保(将来の蓄え)などに充当されます。
計画書の策定は図3の通り進めていきます。
<手順①>
損益計算書の経費を、生産量や販売量に比例して増減する変動費(原材料費、販売手数料、運送費、外注費など)と売上に関係なく発生する固定費(人件費、地代家賃など)に分解(固変分解)
ポイント:変動費率(売上高に対する変動費の割合)を算出するために必要な手順です。
<手順②>
一過性(この期だけ)の費用と代表者世帯への支出(役員報酬や支払家賃など)を一旦削除
ポイント:社外に対する必要最低限の固定費を確認するために必要な手順です。
<手順③>
事業の業務フロー等を見直し、ムダな費用の有無を確認・削除
<手順④>
「課題関連図」(図4参照)を作成し、費用削減策を明確化
ポイント:課題関連図とは、「目的」(○○費の削減、◇◇の売上増加等)を右側に、その目的を実現するための具体的「手段」を左側に記載することにより、一連のストーリーをつくる手順です。課題関連図の「手段」から優先的に実施する内容を選別し、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)に落とし込んだものをアクションプランとします。会社全体が同じ方向に向くために、社員の皆様と一緒に課題関連図を作成することをお薦めします。
<手順⑤>
ファイナンシャル・プランニング*1を活用して、代表者世帯のライフサイクル(生活設計)に基づき、将来に向けた「キャッシュフロー表」(家計の長期予想表、図5参照)を作成し、その支出額を計画期間内の固定費に加算
*1…ファイナンシャル・プランニングのキャッシュフロー分析などにより、個人および家族のライフプランを実現するための経済的な準備を数値化すること。
ポイント:改善計画書等策定において、経費削減策のひとつとして、役員報酬など代表者世帯への支出を安易に減額するものが少なくありません。代表者世帯の収支を反映した精度の高い計画書を策定するために必要な手順です。
<手順⑥>
今後の設備投資への支出など確保すべき金額を利益として加算し、目標経常利益を算出
<手順⑦>
損益分岐点売上高*2および変動費率を算出
*2…損益分岐点売上高とは、利益がプラスでもマイナスでもないゼロの時の売上高のこと。
<手順⑧>
目標売上高を計算
<手順⑨>
「課題関連図」より売上増加策を明確化
ポイント:前期の売上高よりも⑧で計算した目標売上高の方が多い場合は、差額分の売上増加策をアクションプランに加える必要があります。課題関連図の「手段」から優先的に実施する内容を選別し、5W1Hに落とし込んでアクションプランとします。
計画書を策定した後の取組み
計画書を策定することで満足してしまい、アクションプランを実行に移さなかった事例や計画数値と実績に大きな開きが出てしてしまい、修正計画を策定せずに放置してしまった事例は少なくありません。計画書を策定した後、予実差(計画と実績の差)の要因を分析・確認し、対応策の検討、計画数値の修正・実施を継続的に行うことが一番大切になります。
計画書策定の根拠を明確にし、策定後のモニタリング、予実差の対応をしっかり行うことで取引金融機関をはじめ、誰に対しても説明ができる計画書となります。皆様は本業で忙しいとは思いますが、計画書策定、計画書策定後のフォロー等も本業の一部としていただけると幸いです。
最後に、計画書、課題関連図、代表者世帯のキャッシュフロー表などについては、中小企業診断士等の専門家の支援を受けることで速やかに策定できます。また、計画書のフォローアップについても辛口だけど親身になって相談に乗ってくれる専門家の支援を受けることをお薦めします。