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悪質なクレーマーから従業員を守ろう!

カスハラという言葉をご存じでしょうか? ハラスメントは、社内の人間から受けるとは限りません。本来、サービスを提供し喜んでいただく対象であるはずのお客様から、肉体的・精神的苦痛を受けることもあるのです。従業員を守るために必要な対策をお伝えします。

(掲載日 2022/02/10)

従業員を守るカスタマーハラスメント対策

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは


近年、パワハラやセクハラに代表される様々なハラスメント(他者に対する肉体的・精神的な苦痛を与える行為)が指摘され、人権意識の高まりや組織における従業員保護の観点から、内部規定の整備や組織構成員への啓蒙など未然の防止に向けた取組が各所で推進されています。

その中で、比較的新しく聞かれるものにカスタマーハラスメント(以後、「カスハラ」という)があります。言葉の解釈としては、カスタマーすなわち顧客等から受ける肉体的・精神的苦痛です。

カスタマーというと、金銭と引き換えに物やサービスの提供を受ける客といった印象を受けますが、ここで言う顧客等とは、市役所をはじめとした行政機関や病院など公共・医療サービスを受ける市民や患者等も含まれます。


具体的には、提供された商品やサービス、接客等に対する不満がクレームとなり、その要求が社会通念を越えていたり、対応者への恫喝や暴力等を伴ったりする行為です。不当要求を伴う行き過ぎたクレームは、脅迫罪や強要罪、威力業務妨害など刑法に違反する可能性も有しています。典型的な行為としては、以下のようなものが挙げられます。

・長時間の拘束や同じ内容を繰り返す等の過度なクレーム
・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
・著しく不当な要求(金品の要求、土下座の強要など)

【図表1】厚生労働省「令和2年度委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」
<過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為に該当すると判断した事案の具体的な内容>より
https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000810728.pdf




厚生労働省が行った調査(図表2)では、全体(n=8,000人)の15%が過去3年以内に「顧客等から迷惑行為を受けた」と回答しています。また同じ調査において、業種別の被害経験の比率では「電気・ガス・熱供給・水道業」、「卸売業、小売業」、「不動産業、物品賃貸業」、「生活関連サービス業、娯楽業」が20%以上の比較的高い数値を示しています。これらの業種を見ると、「不特定多数を対象とし、顧客との長期的な関係性を築きづらい」業種は被害を受けやすいといった特徴が読み取れます。

【図表2】厚生労働省「令和2年度委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」
<過去3年間にハラスメントを受けた経験>をもとに著者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000810728.pdf



カスハラが与える影響と組織対応の現状


また、ハラスメント行為の心身への影響としては、「怒りや不満、不安などを感じた」、「仕事に対する意欲が減退した」、「職場でのコミュニケーションが減った」、「眠れなくなった」などのほか、通院や入院など医療機関に掛かるケースも見受けられ、約90%が何らかの悪影響を受けています*1。すなわち、これらを放置することは、従業員の意欲低下による職場環境の悪化や生産性の低下、また最悪の場合、従業員が退職してしまうなど大きな損失になりかねません。

アンケートでは、カスハラ認識後の勤務先の対応として、「相談に乗ってくれた(48.8%)」、「事実確認のヒアリングを行った(32.2%)」、「行為者に対して出入り禁止等の対応を行った(9.3%)」など前向きな反応がある一方、「相談にのってくれなかった(4.2%)」、「特に何もしなかった(19.4%)」など消極的なものもみられます。
*1) 厚生労働省「令和2年度委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」<心身への影響(顧客等からの著しい迷惑行為経験頻度別)>の結果より筆者にて集計



カスハラが顕在化しにくかった背景


カスハラという言葉が聞かれる以前から、顧客等による行き過ぎたクレームや迷惑行為は存在していたと思われます。近年、社会環境の変化やインターネット・SNSの発達と共に広く知られるようになり、社会問題として認識されるようになりました。

かつては、事業活動や公共サービスにおいて「顧客・市民第一主義」の名のもと、ムリな要求に対してもできるだけ穏便にすませようとする組織・社会風土が長く醸成され、問題として顕在化しにくかった背景が考えられます。
当然ながら顧客や市民を大切にすることは事業活動等において重要な視点ですが、これを優先するあまり従業員の心身が疲弊してしまえば本末転倒です。


また、クレーム自体は、その指摘により商品やサービスの是正や向上に取り組むきっかけとなり自社に有益に働くことが多々あります。そのため、有益なクレームと悪質なクレームの線引きに明確な規定がなく曖昧であったことなどから、結果的に“困ったお客さま”として現場で処理され、対応を強いられた従業員は「仕事だから仕方がない…」などと泣き寝入りしたケースも数多くあったのではないでしょうか。

カスハラに対する国の対応


2020年6月1日(中小企業は2022年4月1日より適用)に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)とともに公表された指針(パワハラ防止指針*2)には、事業所内でのパワハラ対策と共に、「顧客等からの著しい迷惑行為」(カスハラ)に対する社内体制の整備として、以下のような取組みを講じることが望ましいとしています。

・相談窓口や相談先の設置と労働者への周知
・相談担当者の教育・育成
・相談者(被害者)への配慮的取組の実施、これに必要な社内連携体制の構築
・カスハラ行為への対応マニュアルの作成や研修の実施


なお、厚生労働省は、労働組合や業界団体等からの要請を受け、「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」を定期的に開催し、令和3年度(2021年度)中の企業向けカスハラ防止対策マニュアルの作成を予定しています(令和4年(2022年)1月10日現在)。これにより、カスハラに特化した防止対策の取組指針が明確化されるとが期待されます。

*2) 正式名称:「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf



カスハラに対する組織としての具体的な対応


まず重要なことは、カスハラが一時的や単発的なものではなく、いつなんどき起こるかも知れないものであり、継続的な防止対策が必要なリスク要因であると認識することです。では、組織としてどのように取り組めばよいのでしょうか。
先述のパワハラ防止指針に示された取組事項をもとに具体的な内容を以下に記します。

①トップの宣言
カスハラ対策は現場任せではなく、従業員に対する安全配慮義務*3の観点からも組織として対応することが原則です。企業や組織のトップが「当社は、カスハラに対して一歩も引かず毅然と対応する」ことを、方針として従業員に宣言することが何よりも先決です。経営者や代表者が先頭に立って防止策や対応策を講じていくことを明言すれば、従業員はもしもの時の後ろ盾を得て、安心して日々の業務に当たることができます。
*3) 労働契約法第5条に定められた、使用者が労働者に対して心身の安全の確保と必要な配慮をする義務

②対応マニュアルの作成
各職場での過去のカスハラ経験や、広く他社の事例なども参考にし、当社に起こり得るカスハラの類型や、それに応じた対応の流れを明文化したマニュアルとしてまとめます。この時、従業員の誰もが理解できるよう、できるだけ簡潔な表現を用いることや、通常のクレーム対応との違いを明確にすることが肝要です。また必要に応じて、警察や弁護士といった外部機関との連携のタイミングや方法などについても明記するとよいでしょう。

③相談窓口・相談先の設置
実際に事案が起こった時やその予兆があった時など、気が動転してしまい上手く対応ができない、あるいは自分の行動が正しいのか判断できない、などのケースが考えられます。その時に適切なアドバイスが受けられるような相談窓口や、上長などの相談先を予め決めておくことが有効です。同時に、相談に対応する担当者への知識の提供や育成に取り組むことも必要です。

④社内研修など従業員教育の実施
策定したマニュアルなどをもとにした社内での研修やワークショップを行うことで、より対応力の発揮が期待できます。過去に受けたカスハラ体験談の語り合いや、従業員とクレーマーなど役割分担を決めた仮想的なやり取りも効果的です。各職場に応じた防止策などを話し合うのもよいでしょう。

カスハラ対策によって期待できる効果


カスハラの被害者は現場で対応する従業員である場合がほとんどです。最前線で組織を背負っているため、相手が客である以上はぞんざいな対応は許されず、クレームともなれば相手の要求に平身低頭せざるを得ません。悪質なクレーマーはその対応を逆手に利用し、不当な要求をします。しかし、組織として毅然とした態度、しっかりとした対策が練られていれば、従業員を守るだけではなく、組織に対するエンゲージメント(従業員の職場に対する信頼や貢献意欲の度合)を高める効果も期待できます。また、従業員の顧客対応力の向上にも繋がります。ぜひ、カスハラ対策を実践してください。

(2022/03/29 追記)
以下の文章に誤記があったため、文章を訂正いたしました。
【該当箇所(訂正後)】“2020年6月1日(中小企業は2022年4月1日より適用)に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)とともに公表された指針(パワハラ防止指針*2)には、事業所内でのパワハラ対策と共に、「顧客等からの著しい迷惑行為」(カスハラ)に対する社内体制の整備として、以下のような取組みを講じることが望ましいとしています。”


著者プロフィール

宮崎 弘亘(みやざき中小企業診断士事務所 代表)

中小企業診断士、繊維製品品質管理士。大学卒業後、洋服好きが高じて服作りを学ぶ。その後、繊維・アパレル業界で企画、営業、生産管理など様々な業務・職種を経験。現在は公的機関での相談員をはじめ、マーケティング、商品開発、営業販促等を中心に中小企業支援をおこなう。

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