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銀行員は企業のどこを見ているのか?

銀行員は、企業からいただいた貸借対照表(バランスシート)をそのまま使うわけではありません。資産に価値があるのか必ず確認し、実態バランスシートを作成します。銀行員は企業のどこを見ているのか? 実態バランスシートとは何か? どう作るのか? 元銀行員の視点で解説します。

(掲載日 2021/12/14)

銀行員が着目する実態バランスシート

経営者の方にとって、財務諸表が重要であることは、改めて言及するまでもないと思います。財務諸表を確認することによって、事業の収支や、どこに会社の課題があるのか把握することができます。財務諸表は、会社のカルテであると言われるとおり、会社の状態が表れています。他のコラムでも、財務諸表について学ぶことができるので、ぜひ参考にしてください。

会社はお金が足りなくなると倒産してしまうので、資金繰りが会社経営では重要です。そして、資金の調達方法として、銀行から借り入れを行っている企業も多いと思います。本コラムでは、皆様がご存じの財務諸表の知識を一歩踏み込んで、銀行員がどのような点に注目するのかを概説します。


1.表面上優れたバランスシート


財務三表は、「損益計算書」「貸借対照表(バランスシート)」「キャッシュフロー計算書」を指します。財務三表を確認するとき、この財務諸表に嘘がないかどうかを銀行員は気にします。財務諸表は、経営者が故意に嘘をついているかどうかにかかわらず、本当の会社の状態を表しているとは限りません


財務三表で、一番粉飾をしにくいのは、キャッシュフロー計算書です。キャッシュフロー計算書は、最終的には現預金の増減を示すため、操作を行うのが難しくなります。後ほどご説明しますが、現預金を粉飾するのは困難です。キャッシュフロー計算書は、作成していない企業も多いかと思います。反対に一番粉飾が可能なのが、貸借対照表です。なので、銀行員は貸借対照表が本当の会社の状態を表しているかどうか念入りに確認します。


ご存じのとおり、貸借対照表は、大別して、資産負債と、資産から負債を差し引いた純資産となります。この資産の部分を銀行員はきちんと精査します。

資産は現預金、売掛金、棚卸資産などの流動資産と、建物や土地などの固定資産を合わせたものを言います。資産は将来会社が利益を得るために必要なものです。毎期利益を上げることができれば、現預金などの資産として計上されます。負債はすぐ返さなければならない(1年間)流動負債と、長期間返さなくてもよい固定負債を合わせたものです。資産から負債を差し引くと純資産になります。毎期の利益を上げれば、通常純資産は増えていきます。

負債が前期と同じ場合、利益を上げることができれば、純資産が増え、それと同額の資産が増えることになります。赤字の場合はその逆に純資産と資産は減ります。

図 1 貸借対照表の考え方

負債を一定とした場合、資産と純資産の増減は一致します。このコラムで説明する銀行員の考え方とは、「資産を評価し、資産に簿価(バランスシートに記載された数字)の価値がないと判断したときに、資産と純資産を減らしていく」ということです。



図 2の貸借対照表をご覧ください。どのような企業だとお考えになるでしょうか。自己資本比率は33%、流動比率は100%超、これで利益が出ていれば、優秀な会社、少なくとも悪くない会社であると考えることが一般的です。

図 2 貸借対照表例

 ではこの貸借対照表をどのように精査していくのか、その方法を見ていきましょう。



2.現預金


現預金は、銀行員も大好きな勘定科目です。上述したとおり、現預金があれば会社がつぶれる可能性は低いです。極論を言ってしまえば、ずっと赤字でも現預金があれば事業は継続でき、会社がつぶれることはありません。そして、現預金を粉飾することは非常に難しいのです。現預金が粉飾されているのであれば、会社の監査機能もグルでないとなかなかできません。現預金のチェックは、金庫の中と通帳を見れば、本当か嘘か簡単に調べることが可能だからです。つまり現預金が貸借対照表に乗っていれば、銀行員はその価値を簿価(バランスシートに記載された数字)と同等と認めます。



3.売掛金


次に銀行員は、売掛金をよく見ます。中小企業の経営者の方は売掛金を安易に見ていることはないでしょうか? 売れているのだから資産だと考えている人は多いと思います。銀行員から見れば、例えば、A社に売った100万円と、B社に売った100万円は価値が違うと考えます。A社は、1部上場企業で支払いの遅延なく払ってくれているのに対して、B社はかろうじて支払いはあるが、遅延もたびたび起こる小規模企業の場合などです。仮に売掛金が回収できていない状態で、B社が倒産すれば、この100万円は損となります。銀行員はそう考えるのです。そうはいってもつぶれないし、結局回収できているよという方もいらっしゃるとは思いますが、銀行員は回収できない可能性を考慮するのです。売掛金の回収期間や売掛金を立てている取引先の与信情報を確認します。売掛金が回収できない可能性があると判断した場合は、売掛金と純資産を減らすことを考えます。

図 3の例では、B社に立てている売掛金は回収できない可能性が高いと判断し、そのまま減損処理(バランスシートの数字(資産と純資産)を実態に即して減額すること)をした方がよいと考えるのです。

図 3 売掛金の評価

4.棚卸資産


また、棚卸資産も精査します。棚卸資産は粉飾によく使われます。通常であれば棚卸資産は毎期評価されることになりますが、そうでない会社も多いです。また評価が甘い企業もあります。損益計算書に計上される原価(仕入れ等)は、売り上げた分の原価が計上されるため、売れない商品があった場合でもその商品は棚卸資産に計上されます。

つまり、売れない商品を作り続けても、利益を出すことが可能なのです。

売れない棚卸資産は隠れた損失であるため、売上に対して棚卸資産の比率が例年に対して増えていないか確認します。明らかに棚卸資産が増えている場合、銀行員は棚卸資産と純資産を減らして考えます。

図4の例の場合、例年より棚卸資産が多くなっていると判断し、この棚卸資産は実質的な価値がないとしています。

図 4 棚卸資産の評価

5.固定資産


固定資産はどうでしょうか? 建物や機械設備等はきちんと減価償却しているでしょうか? 減価償却は、時間の経過により建物や設備などの価値が減っていくという考えから、毎期費用を計上するというものです。時間の経過によって価値が減っていくという考え方なので、もし償却をせず費用不足があると、その分利益がかさ上げされていることになります。その償却不足の分、資産と純資産を減少させることを考えます。

経営者の方は減価償却費を計上したらその分利益が減るので、損をしていると考えるかもしれません。しかし、減価償却費自体は現預金を減らしません。なぜなら、現金一括購入の場合は、建物や機械を買った際にすでに支払っているからです。減価償却費は現預金を減らさない損失なのです。ですから銀行員はきちんとその部分を考慮しています。

前述していますが、現預金は資産のなかで信頼がある勘定科目になります。現預金があれば破産する可能性は少なくなるからです。ですから、きちんと償却をして会社の正しい状況を把握することをお勧めします。

一方で、土地は償却されません。しかし、いま売ったらどの程度の価値だろうかと推測します。例えばバブル期に購入した土地の場合、簿価も現在の価値より高くなっているのではないでしょうか?今売却すれば、売却損が発生する可能性が高いです。そのような場合、固定資産と純資産を減らします。

図 5 固定資産の評価

6.実態バランスシート


以上を勘案すると、この企業の本当の実力ベースの貸借対照表(実態バランスシート)は以下の図6となります。実質的に▲50の債務超過であり、融資が返ってくる可能性は低いと判断される可能性が高くなります。


このように、表面上問題ないとされる財務諸表でも、銀行員は返済能力が本当にあるのかチェックしています。

今回挙げた箇所だけを見ているわけではなく、売上や利益の水準はもちろん、市場環境も見ますので一概に今回の企業が借入をできないわけではありません。もし、融資を受けたいと考えている企業は、今回のポイントを確認してください。


図 6 実態貸借対照表例

著者プロフィール

青柳 元訓((株)ベルテクス・パートナーズ F&S事業部 マネージャー)

金融機関にて、企業再生、融資、株式投資、ニューヨーク勤務を経験。事業再生、金融アドバイス、新規事業開発が専門。 中小企業診断士、証券アナリスト、宅建など20以上の資格を保有。大学院にて起業家についての研究を行っている。

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