社会・環境・経済の持続可能性を考える
現代には、ごみ問題、エネルギー問題、地球環境問題など、解決すべき多くの課題が存在しています。一方で、経済的な持続可能性も現代には求められています。社会・環境・経済の課題をともに解決するビジネスは果たして可能なのでしょうか?
(掲載日 2020/10/15)
社会の課題・環境の課題をビジネスで解決する
令和元年度版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書では、目指すべき持続可能な社会の姿として、環境・経済・社会の側面が複雑に関わっている現代において、環境の側面から持続可能であると同時に、経済・社会の側面についても健全で持続可能であることが必要とされています。
出典:https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/html/hj19010102.html
環境と経済・社会の統合的向上、地域資源を活用したビジネスの創出や生活の質を高める「新しい成長」を実現するために「地域循環共生圏」という新しい概念が記載されています。これは、各地域が、その地域固有の資源を活かしながら、それぞれの地域特性に応じて異なる資源を持続的に循環させる自立・分散型のエリアを形成します。
また、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。このゴールの実現のためには、様々な人々が共感できる具体的な道筋と、統合的な取組が不可欠です。この点において、「地域循環共生圏」の理念の下、地域が抱える課題やニーズを踏まえ、SDGsを分野横断的に統合した具体的な地域社会像を地域の関係者が作り上げることが重要とされています。
しかし、社会問題や環境問題を解決するためには資金も時間もかかり、ビジネスで行うには利益を出すのが難しいという問題があります。本稿では、社会や環境の課題をビジネスで解決している事例をご紹介します。
ボーダレス・グループの取り組み
ボーダレス・グループは、社会問題を解決する事業だけを行っています。継続的に課題を解決していく仕組みで、各事業が収益をあげています。ボーダレス・グループの各事業は、経営が軌道に乗り余剰資金を生み出せた時は、資金をグループで集約の上、新たな社会起業家へ投資します。事業を始める時にハードルになる創業資金や成長資金をはじめ、黒字化するまではマーケティングや広報など事業のフロント側の機能、さらに創業後一貫して、人事・労務・経理などバック側の機能をすべてボーダレス・グループが提供することで、起業家は事業の成功だけに専念できます。
特徴的な事例として、ボーダレス・グループが新たに始めた電力事業のハチドリ電力についてご紹介します。SDGsの17の目標の中に「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じること」が挙げられています。ハチドリ電力は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を出さない自然エネルギー*100%にこだわる電力サービスです。
ハチドリ電力の利用者は自然エネルギーを使うことの他に更に貢献できることがあります。電力を使うことにより電気代の1%は自然エネルギーの発電所を増やすために使われます。また、電気代の1%は自分が選んだ社会活動に寄付されます。
電気代が安くなり、環境に対する二酸化炭素排出の影響も減り、さらに自然エネルギーの発電所が増え、社会活動の支援もできるというメリットがあります。
*自然エネルギー:太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなど、原子力や化石燃料に替わる環境への負荷の少ないエネルギー
ホテルグレートモーニングの取り組み
福岡の博多にあるHOTEL GREAT MORNING(ホテルグレートモーニング)は、生ごみを処理して次の資源(堆肥)に変えるコンポスト(堆肥を作る容器)を取り入れています。ホテルで捨てられる生ごみは屋上のコンポストを利用し、その堆肥から収穫できた食物をウェルカムドリンクなどで提供することにより、100%循環型サービスの実現を目指しています。
ホテルグレートモーニングは、建設当初から環境に配慮したホテルであり、風を出すエアコンを使わずに温度や湿度が最適な環境を整え、自然素材の家具や寝具を揃えています。
さらに気候変動の問題解決に貢献する一つの手段として、ホテルで使用する全ての電気を自然エネルギー由来の電気である自然電力株式会社の提供する「自然電力のでんき」SE100プランに切り替えました。この取り組みによって、宿泊ゲストが滞在中に使用する全ての電気が自然エネルギー由来となるため、環境に配慮した滞在が可能になり、年間約2900本分の杉の木が吸収する量(2019年の年間消費電力を基に算出)のCO2が削減できる見込みです。また、電気代の約0.5%は自然エネルギー発電所を増やす基金として積み立てられます。これは、自然エネルギーを選ぶことで地球や社会に貢献しながら、ホテルでの滞在を楽しむという新しい宿泊のあり方を提案していくことを目的としています。
客室に採用しているオーガニックタオルのIKEUCHI ORGANIC、寝具を共同開発しているIWATA社の工場も再生可能エネルギーを利用しています。ホテル全体のサービスや商品を通して気候変動問題解決に貢献しながら、高い品質のサービスを提供することを目指しています。
企業の理念に共感する
大量生産・大量消費により栄える社会では、環境への影響に配慮した材料や工程を入れるとコストがかかり安価な製品を作れないため、そのようなことは行いません。ブランド価値を守るために、投入した時期に売れなければ全ての商品を廃棄するような企業も多く見られます。
それらの結果、地球の環境は破壊され、海洋の汚染、氷河の融解、森林の伐採、住むところが失われた動物による被害等が起こっています。
2020年のコロナ禍で、全世界の人間の活動が抑制された結果、濁っていた河川や海が綺麗になり、動物達が自由に活動する光景が見られました。
金星も火星も人が生きていける環境ではなく、地球という恵まれた環境を後世へ繋いでいくことが必要です。そうした中、先に紹介した組織のように、コストや手間がかかっても社会問題や環境に配慮したことを行っている企業が評価されるようになってきました。
社会問題や環境の課題を我々一人一人が真剣に考え、日々使う製品や利用する施設が何を理念としているのかを知り、その理念に共感できる取り組みへの支援ができたら、少しずつ社会や環境も変わっていき、より良い世界が築いていけるのではないでしょうか。