古い設備のIoT化で生産性を向上させる!
設備の老朽化が進む中小企業では、生産性の低い作業がまだまだ行われています。一方で、モノのインターネットと呼ばれるIoT化の敷居はだんだんと低くなってきています。老朽化した設備でもIoT化を実現し生産性を向上させるその方法とは・・・
(掲載日 2019/10/16)
IoTで古い設備も見える化を
ICTによるビジネスの変革
現在、IoT・AI・ロボットなどICTによるビジネスの変革が急速に進んでいます。先進的小売業では、商品に添付した電子タグや商品棚を監視するAIカメラからの情報を用いて、効率的な在庫管理を行っています。研究開発型スタートアップ企業は、ウェアラブルセンサで取得した呼吸などの生体情報をAIで分析して、快適な睡眠を提供するといった新たなサービスを創出しています。製造業でも、工場内の製造設備の稼働状況や試験装置の測定値などをパソコンに取り込んでそれらを可視化し、生産性向上を図ろうとする企業が増えてきています。
製造業のデータ活用と生産設備の状況
しかし、2019年版ものづくり白書によると、大企業では生産プロセスにおけるデータ収集を行っている割合が 84.6%であるのに対し、中小企業では 56.8%という状況です。中小企業の実施率が低い原因はいろいろありますが、ひとつには設備の老朽化が挙げられます。2018年末時点の生産設備保有期間(下図参照)をみると、金属工作機械、第二次金属加工機械、鋳造装置などは、約50~70%の設備が導入してから15年以上経過しており、約20~30%は30年以上という状況です。また、中小企業の設備更新意欲は高くないため、設備の老朽化がかなり進んでいると見られています。
これらの古い設備は、操作盤にアナログメータしかなかったり、デジタルパネルメータがあってもデジタル出力がないため、簡単にデータ収集を行うことができません。そのため、作業員による監視や表示値の読取・記録など、非生産的作業を続けている企業がまだまだ多く存在します。人手不足はますます深刻になっているため、IoTによる現場の省力化を推進して生産性の向上を図ることは待ったなしの状況です。
出典:2019年版ものづくり白書
製造現場でのIoT化の取り組み状況
そうした課題に対応するために、多くのシステムベンダーが省力化のソリューションを提供しています。例えば、工場やプラントの設備にあるアナログメータをネットワークカメラで撮影し、撮影データを画像解析することで、表示値をPCで扱える数値データに変換するというサービスがあります。手書き文書をスキャナで読取り、OCR(*)でテキストデータ化するのと似ていますね。大変便利なサービスですが、それなりの初期費用と運転費用がかかります。
コストを抑えたいなら自社開発がお勧めです。自社開発を促す動きとして、ある公設試験研究機関が、昭和40年代の古い強度試験装置をIoTに対応させた取り組みを紹介していました。試験機の制御盤のカウンターを見なければ繰り返し負荷の回数がわからず、試験対象が壊れても試験機が停止しないため常に監視しなければなりません。しかし、現場に張り付いてはいられないため、オフィスで試験の様子を見たいというニーズがありました。この状況に対して、制御盤に安価で高性能なシングルボードコンピュータ(*)やUSBカメラなどを設置し、webブラウザベースの見える化システムを構築しています。
*OCR: 手書きや印刷の文字をイメージスキャナなどで読取り、PCなどで扱えるデジタルの文字データに変換するソフトウエア。
*シングルボードコンピュータ: 1枚のプリント基板上に、CPUの他必要最小限の部品を載せたシンプルなコンピュータ。
自社開発で人材育成も
自社開発というと大変そうですが、近年、安価で高性能なセンサや、センサとネットワーク(LAN)をつなぐゲートウエイ(*)が入手しやすくなっていますので、自作という感覚でIoTが実現可能です。これらのデバイスは、ネットや書籍で関連する情報が数多く提供されていますので、安心して取り組めます。
自作はコストメリットだけでなく、人材の育成にも役立ちます。IoTの知識をある程度持っている従業員がいれば、そうした人をコアメンバーとして活動することをお勧めします。IoTに詳しい人材がいないなら、社外のアドバイザーに協力を求めてもよいでしょう。あくまでも自作ですから、試行錯誤を許して、経験値を高めることも目標とします。そうすることで、メンバーのモチベーションも上がり、開発志向を育むことにもつながります。こうしたマインドは、その後の創造的な改善活動や製品開発などに生かされてくるはずです。
自分たちで作り上げたシステムによって非生産的な監視作業から開放され、より生産的な仕事ができるようになることで、作業者もやりがいが感じられるようになるでしょう。
*ゲートウェイ: ネットワーク上にある通信手順が異なる機器間で、データ送受信を行うための装置。
基本的なIoTシステム構成
では、データの収集・送信からデータ蓄積、分析にわたる基本的なIoTシステム構成を見ておきましょう。工場内の生産設備・測定機器にあるアナログメータや新たに取り付けたセンサから得られる信号は、アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)でデジタル変換されてゲートウエイに転送・保存されます。このゲートウエイと事務所内にあるPCはLANで接続されており、PCからゲートウエイにアクセスして保存されているデータをPCに読込んで、モニタに表示します。社外や遠隔地の事業所からデータにアクセスする場合は、インターネット接続することになります。
センサなどのIoTデバイス
見えなかった現象を見えるようにするセンサは、ハードウエアの中でも重要な部品です。近年、多くのセンサメーカーが高性能かつ安価な製品を販売しており、一般的な温度や湿度、電流や磁気などの他に、水質や臭いといった様々な物理的・化学的現象を電気信号として捉えることができるようになっています。それによって、不良品が発生した場合、製造条件や加工ロットの情報を検索・追跡したり、収集したデータをAIで解析して対策や改善を図ることなどが期待されています。
ただし、IoT化は過渡期にあるため、センサをゲートウエイに接続するための通信規格は多数存在しています。操作盤内でアナログ・デジタル変換する程度ならI2C(*)という規格を使って有線接続で十分ですが、スペースのない設備や屋外に設置されたセンサからデータを収集するには無線が必要かもしれません。無線通信では、BLE(*)やLoRa(*)など消費電力・データ伝送速度・通信距離などが異なる様々な規格が乱立しているので、目的に合った方式を選択する必要があります。
*I2C: フィリップス社が開発した、センサなど低速で通信するデバイスを接続するための規格。アイ・スクエアード・シーと呼ばれる。
*BLE: スマホなどで近距離の通信を行う際に用いられるBluetoothの規格の一つ。極低消費電力の通信を可能にする。
*LoRa: IoTで求められる、低消費電力かつ広域(10kmレベルの遠距離)での通信を可能にする無線方式。
IoTゲートウエイ
ADCやセンサからデータを取り込んで保存するゲートウエイには、ラズベリー・パイ(Raspberry Pi)という手のひらサイズのコンピュータの利用がお勧めです。趣味や学習用のシングルボード・コンピュータのようでもありますが、LinuxなどのOSがインストールでき、普通のPCと同等の性能を有しているので、IoTの産業用途にも多数使われています。ラズベリー・パイには、USBやHDMIなど多くのインターフェースが搭載されています。重要なのは、GPIOという汎用入出力用のインターフェースを備えていることです。このGPIOにADCやセンサを接続することでデータ収集が簡単に行えます。利用しやすさは技術面だけでなく、その価格にもあります。ハイグレードのラズベリー・パイでも6,000円程度で、センサの制御に特化するローグレードなら半額以下で入手できます。また、ラズベリー・パイをゲートウエイにするアプリケーションも販売されていますが、Python(*)のプログラミングでもゲートウエイが構築できます。従って、ADCやセンサ、その他周辺機器を購入しても、数万円というレベルで安価にIoTを実現することが可能です。
出典:Raspberry Pi Foundation提供
*Python: Raspberry Pi で使われる汎用プログラミング言語のひとつ。AIにも用いられている。
まとめ
急速に進化しているIoTやAIなどがビジネスを変革しています。中小規模の製造業もその変化に対応しなければなりませんが、設備の老朽化などの問題から、取り組みの遅れが窺えます。
今回ご紹介したように、技術・コスト面でのIoT化の敷居は低くなってきています。また、自作のIoT化は人材育成や開発マインドの醸成にもつながります。
そこで、人手不足対策や業務効率化のみならず、新商品や新サービスを創出するためにも、まずは「古い設備の見える化」から取り組んでみてはいかがでしょう。