緊急時に備えよう! 事業継続計画(BCP)の3つの基本ステップ
いまBCPは多くの企業に広まっています。BCPって難しそう? いえいえ、そこまで難しいものではありません。本コラムでは、簡単に取りかかることのできる基本の3ステップをご紹介します。
(掲載日 2019/07/31)
緊急時に備える事業継続計画(BCP)とは
(1)「BCP(事業継続計画)」とは
BCPは、 Business continuity planningの略であり、事業(Business)継続(Continuity)計画(Planning)の事を指します。近年の大規模災害から、災害時の「防災」や「事業継続計画」についての意識が高まってきています。
BCPと聞くと、多くの方が地震や津波など自然災害からの復旧対策と考えがちですが、実はそれだけではありません。企業にとって事業継続が困難となるような、ノウハウや情報の流出や火事、社長の緊急入院など様々な事態にも適応できます。
そのような不測の事態になった時、どう事業を継続していくかを事前に決めておくことが、BCPです。
(2)「防災計画」と「BCP(事業継続計画)」の違い
「防災計画」は、不測の事態が起きた際に「人命の安全確保や資産の損害軽減」に重点を置いた計画を指します。例えば、火災が起きた際の避難ルートや救出救護方法、情報収集方法(安否確認を含む)など、初動の対処が中心となります。
一方、「BCP」は不測の事態に、いかに事業を復旧していくかに重点を置いた計画を指します。例えば、複数の事業が損害を受けた場合、どの事業から復旧していくかなどです。
(3)BCP策定済みの企業割合
内閣府が2009年から2年ごとに行っている「企業の事業継続に関する実態調査」*によると、2017年のBCP 策定済み企業の割合は、大企業で64.0%、中堅企業では31.8%となっており、着実に策定済みの企業が増えてきました。
*内閣府防災担当(2018年3月)『平成29年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査』(http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/h30_bcp_report.pdf)
そのような中、内閣官房国土強靱化推進本部が策定した『国土強靱化年次計画2019』*では、2020年までの目標として、BCP の策定済み企業の割合を大企業で100%、中堅企業で50%と掲げています。従って、今後益々BCPへの取り組みはどの企業も進んでいくと思われます。
*内閣官房国土強靱化推進本部(2019年6月)『国土強靱化年次計画2019』(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/kihon.html)
中小企業においても、公的支援策を上手に活用することで、こうしたBCPへの取り組みを円滑に進めることができます。
例えば、「BCP策定支援ポータル」(https://www.bcp-navi.tokyo/)では、BCP策定講座や各種の情報提供を通じてBCP策定を支援しています。
また、BCP策定にあたっては、無料専門家派遣等の活用も検討してみましょう。東京都中小企業活力向上プロジェクトネクストの無料経営診断を活用したり、中小企業庁の委託事業である中小企業・小規模事業者支援サイト「ミラサポ」(https://www.mirasapo.jp/specialist/advice.html)内にある「専門家派遣」、各自治体の「BCP策定支援」を検索したりしてみてください。(各支援策は2019年7月現在)
BCP策定にあっては、「何から取り組み始めたらいいか分からない」、「策定する時間がない」という声がありますが、そこまで難しいものではありません。本稿では、基本ステップを3つに分けてご説明します。
(4)BCP策定基本3ステップ
STEP1:リスクと事業の情報整理
【リスクの情報整理】
まずは、リスクに関して「発生頻度」と「損害の大きさ」に分けて、整理してみましょう。
各地域の災害リスクについては、ハザードマップを参照すると事業所がある地域の災害による危険度が分かります。洪水や土砂災害、火山、津波などでハザードマップが分かれていますので、それぞれ確認しておきましょう。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/)で各地域のハザードマップを見ることができます。
地域によって、対策をする災害が大きく異なります。内陸の川沿いであれば、台風や大雨時の河川の氾濫による洪水被害がもっとも発生頻度と損害が大きいかもしれません。自社の置かれた状況に応じて、対策を検討する必要があります。
自然災害以外にも、自社にとって損害が大きくなりそうなことは、検討できるよう書き出します。
ノウハウが人に帰属する部分が多い場合 ⇒ 有能人材の転職、介護などによる長期休職
情報管理を1か所で行っている場合 ⇒ ハッカーやネット接続不良、コンピューターの停止
【事業の情報整理】
次に、自社の事業内容ついてサプライチェーンを考慮に入れた業務フローを洗い出します。
フロー図作成に特別な決まりはありません。自社の事業内容と、業務フローが分かりやすく表現できていれば、手書きしたものをPDF化しておくことでも構いません。
下図は、プラスチック金型メーカーの場合の例です。作成する時は、できればフローに加えて「保有する資産」も記入してみましょう。
業務フロー図以外に、自社が保有する有形資産および重要な無形資産(情報・過去データ)、各種連絡先などは一覧にして管理しておくとよいでしょう。
〇従業員連絡先
〇顧客データ(連絡先、受注情報)
〇仕入データ(発注番号、数量、納期等)
〇取引データ(連絡先、発注内容)
〇自社設備一覧(PC、製造機器、複合機等の導入時期、製品番号、メンテナンス連絡先)
このような可視化しておいた方がよい項目は、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」のサイト(https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/bcpgl_download.html#output)から雛形資料がダウンロードできますので、そちらを参考にすると分かりやすいです。
①入門コース ②基本・中級・上級コースとそれぞれ別の雛形がありますが、最初は『(2)BCP様式類(記入シート) ①入門コース 一括ダウンロード[WORD]』をお勧めします。
STEP2:優先順位付けと復旧対応フローの検討
STEP1で自社の置かれた状況や事業を可視化した後は、復旧の優先順位を決めていきます。複数の事業や製品展開をしている場合、すべてを同時に復旧することが難しいことも考えられます。そのため日ごろから、自社の中で何がコア事業で、事業継続にはなくてはならない事業・製品であるかを考え、目標復旧時間を決めておきます。
優先順位が決まれば、復旧対応フローを決めていきます。
①被害状況の把握 | 誰が確認し、誰に報告をするのか。社長と連絡がつかない場合はどうする |
↓ | |
②復旧可能性の検討 | 被害があったものがどの程度の時間、費用で復旧するかを予測 |
↓ | |
③代替案を実行 | 修復がすぐにできない場合は、代替案を実行 例)東京でなく仙台の事業所に移る すぐに修理できない機器は、遠方の取引先と共同利用のお願いをする |
また、被害にあう前の事前対策で未然に防げることも洗い出し、優先順位をつけて実行していくことも大切です。
データの保管をハードディスクではなく、クラウド上に移行
工場や事業所の耐震対策の実施
機械やPC等の転倒防止対策
取引先企業と有事の際の連絡方法等の取り決め
STEP3:BCP文書作成と社内教育
STEP1~2で検討したことは、すべて1つの文書ファイルまたは、サーバーやクラウド上の1つのフォルダに保管します。
BCP文書の雛型は前述の中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」ダウンロード資料(ワード)(https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/bcpgl_download.html#output)も活用できます。まずは出来るところから取り組みましょう。
BCP文書は、一度策定して棚の奥にしまっておくのでは意味がありません。できれば、朝礼などで随時、不測の事態発生時の対応について喚起を行ったり、防災訓練を行うことで社員教育を行うことも重要です。策定したことが共有されていないと、有事の際に誰が何を行うか分からないまま時間が過ぎていくことになるためです。
また、BCP文書は年に1度は内容の見直しをすることをお勧めします。取引先やメンテナンス先の連絡先、導入している機器の種類や台数が変わっている場合があります。万が一に備え、情報をアップデートするように努めましょう。
(5)まとめ
このように、BCP策定は大きく分けて3つのステップに分けることができます。
STEP1:「リスクと事業の情報整理」
STEP2:「優先順位付けと復旧対応フローの検討」
STEP3:「BCP文書作成と社内教育」
BCP策定推進はボトムアップで進めることは難しい場合もあるため、経営者が積極的に関わっていくことが非常に重要です。ただし、経営者1人で行うのではなく、BCPチームを結成し、チームでこれらの情報の整理や、優先事項の決定を行っていきましょう。
大きな自然災害だけでなく、それ以外の不測の事態にも備えることができます。また、一度立ち止まって、自社の事業を見つめる良い機会にもなります。是非、BCP策定を検討してみてください。