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「デザイン経営」が中小企業の長期的・持続的成長を支える理由

「デザイン経営」というワードをご存知でしょうか。先読みが難しい経営環境において、長期的かつ持続的に成長するためのアプローチのひとつです。今回は「デザイン経営」の概要や中小企業が取り組むべき理由、実践時に活用できるツール「デザイン経営コンパス」をご紹介します。

(掲載日 2025/02/26)

デザイン経営の奨め

「これまでのやり方や勝ちパターンが通用しない」

このような危機感を覚えておられる中小企業経営者の方は少なくないでしょう。

現代の経営課題は複雑かつ不確実で、多様な課題が絡み合っています。今までの延長線ではない新たな視点や手法が必要となっており、その一つとして当コラムでご紹介するのがデザイン経営です。デザイン経営を一言で表すと、

「顧客中心の視点で問題を見つめ、課題を解決し、イノベーションを促進しようとする経営手法」

となります。デザイン経営とは何かを解説する前に、デザイン経営が求められる背景およびデザインとは何か、から説明させていただきます。


1)デザイン経営の背景


複雑化する現代の経営課題

「VUCA」(ブーカと読まれることが多いです)という言葉を聞かれたことがありますか?

VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を意味し、現代の経営環境が直面する困難さを表す概念です。

急速なデジタル化の進展、グローバル化による市場競争の激化、為替の変動、顧客ニーズや行動の多様化など多くの要素が絡み合い、企業の経営に影響を及ぼしています。それでも経営者の皆様は、企業を継続・発展させていかなければなりません。


デザインとは?

デザイン経営について解説する前に、「デザイン」について理解を深めておきましょう。デザインとは、人々のニーズや期待に応え、「課題を解決する」ための創造的なアプローチです。デザインの対象というと、プロダクトやグラフィック、ウェブなどを思い浮かべる方は多いでしょう。しかし、昨今のデザイン対象はサービスや体験、ビジョンなど形のないものにまで拡大しています(図1参照)。デザインは単なる見た目の美しさを追求するだけのものではなくなっています。デザインは人(顧客やユーザー)の視点から価値を創出するための手段であり、ビジネスにおいて欠かせない要素となりつつあるのです。


図1 デザインの対象が広がってきた

※筆者作成



中小企業がデザイン経営に取り組む理由

以下の2つが、中小企業がデザイン経営に取り組むべき主な理由です。

①独自の価値を提供するため
競争が激化する市場において差別化を図るためには、自社独自の価値を提供することが重要です。デザイン経営を実践することで、顧客の視点から自社の経営を見直し、真のニーズに応える製品やサービスを提供することを目指します。

②組織の変革を促すため
デザイン経営は経営者や経営陣だけで実践できるものではありません。組織全体でデザイン経営に取り組むことで、企業文化の変革を促し、従業員の創造性や協働意識を高める効果があります。その結果、企業全体のイノベーションが促進され、長期的・持続的な成長を支える基盤となります。


2)デザイン経営とは?


デザイン経営は競争力の強化を目指す

デザイン経営は、2018年に特許庁が「デザイン経営宣言」*を公開したのをきっかけに注目されるようになりました。
その中で、「デザイン経営は、ブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争⼒の向上に寄与する」とその効果を謳っています(図2参照)。デザイン経営は、デザインの思考や手法を経営戦略に組み込み、ブランド力とイノベーション力の強化を目指して企業全体の価値を高める経営手法です。


図2 デザイン経営の効果

出典:「デザイン経営」宣言(経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会、2018年5⽉23日)P1


・デザイン経営の定義

デザイン経営では、デザインを重要な「経営資源」と位置づけます。著名な例としては、アップル、ダイソン、良品計画などのBtoC企業、スリーエム、IBMといったBtoB企業がデザインを企業の経営戦略の中⼼に据えており、デザイン経営の実践企業・成功事例とされています。

デザイン経営宣言では、「デザイン経営」と呼ぶための必要条件として、以下の2点を挙げています。

①経営チームにデザイン責任者がいること
②事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

出典:「デザイン経営」宣言(経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会、2018年5⽉23日)P6

デザイン責任者とは、「製品・サービス・事業が顧客起点で考えられているかどうか、またブランド形成に資するものであるかどうかを判断し、必要な業務プロセスの変更を具体的に構想するスキルを持つ者」としています(「デザイン経営」宣言 P6より引用)。「戦略構築の最上流からデザインが関与する」とは完成した製品やサービスのデザインだけでなく企画、開発、あるいは顧客体験の全体像に至るまで、デザインの視点で考えるということです。

この定義をご覧になり、「そんなの無理!」「そもそもデザインができない、分からない!」と思われたかもしれません。次項では中小企業でも取り組めるデザイン経営実践のための支援ツールをご紹介します。


3)デザイン経営コンパスの活用

ここまでお読みいただき、「デザイン経営に興味を持ったけど、どこから取り組んで良いか分からない」と思われた方もいらっしゃると思います。中小企業でもデザイン経営を検討し、実践していくためのツールをご紹介します。デザイン経営宣言を行った特許庁は「デザイン経営コンパス」というツールを公開しています。

デザイン経営コンパスでは、「文化醸成」「人格形成」「価値創造」の3つの切り口(デザイン)で自社の現状を振り返り、これからの事業の方向性を検討します(図3参照)。3つのうち中心となるのが「人格形成」です。まずは「自社らしさ」を言語化するところから始めてみましょう。

人格形成:自社の想いや自社らしさを明確にし、未来の自社の姿を構想する営み
文化醸成:自社の想いや自社らしさを、顧客や社内外の仲間に伝え、共感と共創の土壌を形成する営み
価値創造:自社の想いや自社らしさと顧客や社会のニーズを基に、魅力ある製品やサービスを創出する営み

出典:デザイン経営コンパスVer.2 活用ガイド(特許庁、2024年7⽉)P10

3つのデザインが相互に作用し、循環していくことが、ブランド構築やイノベーションの土台になります。


図3 デザイン経営における3つのデザイン

出典:デザイン経営コンパスVer.2 活用ガイド(特許庁、2024年7⽉)P11

デザイン経営コンパスは、自社の想いや自社らしさ、大切にしている価値観を明らかにしたうえで、具体的なデザインに展開していくためのツールです。経営者だけでなく、組織の皆さんで取り組まれることをお奨めします。立場によって結果が異なる場合も、新たな発見につながると思います。この取り組みがデザイン経営のはじめの一歩となるはずです。


4)まとめ~デザイン経営に必要な視点

デザイン経営を実践するために、以下の3つの視点で検討してみてください。

①「人」を中心に考える

デザイン経営は、顧客のニーズや期待を深く理解し、それに応えることから始まります。製品やサービスの設計において、顧客や関係者の意見を積極的に取り入れ、彼らが本当に求める価値を提供することが大切です。

本当に顧客を理解し、顧客が真に求める価値を提供できていますか?


②一貫したブランド構築

統一感のあるデザインは、強いブランドイメージを構築するために欠かせません。企業全体で一貫したデザインを追求することで、顧客に強い印象を与え、ブランド価値を高めることができます。

一貫性のあるブランドの構築・発信ができていますか?


③創造性の発揮

デザイン経営では、創造性を発揮し、革新的な解決策を追究します。異なる視点やバックグラウンドを持つチームメンバーを集め、柔軟な思考とチャレンジ精神を持ち続けることで、競争力を維持し、持続的な成長を実現します。

多様な人材、多様な価値観を取り入れ、イノベーションを目指していますか?

著者プロフィール

井手 美由樹(株式会社Ideal Works 代表取締役 中小企業診断士)

名古屋生まれ、名古屋育ち、現在は東京・長野県・名古屋を行ったり来たり。大学卒業後、小売チェーン店に勤務。平成9年に中小企業診断士登録、経営コンサルタントとして独立。首都圏を中心に全国各地で講演、研修、コンサルティングを行う。専門分野は経営革新支援、ブランディング、中小企業支援策活用支援。

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