助成金・補助金等、経営力UPの経営情報が満載!

専門家コラム

専門家コラム
会員登録すると、
新規会員登録はこちら
お気に入りに追加 シェアツイートLINEはてぶ

EC事業を始める前に知っておきたい“失敗しないためのポイント”

EC(電子商取引)市場が年々拡大する中、新たにEC事業に着手する中小企業・小規模事業者が少なくありません。ところが、EC市場はオンラインならではの“戦い方”があります。それを知らずに開店すると失敗することも…。ECの専門家が失敗しないポイントを解説します。

(掲載日 2024/01/11)

ECで販路拡大!失敗しないネットショップ開店のポイント

コロナ禍で急激な成長を遂げたEC市場。今後もまだまだ成長すると言われる分野であり、ネットショップを開店する企業も増えています。その一方で、EC事業から撤退してしまう企業も少なくありません。要因は様々ですが、EC市場での戦略がわからず、開店後に道に迷ってしまうパターンも多いようです。本記事では、ネットショップを開店する前に押さえておくべきポイントと、開店してから後悔しないための注意点について、わかりやすく解説させて頂きます。


1.開店前から勝負は始まっている!

ネットショップは全国のお客様にアプローチできる一方、競合もまた全国に広がります。日本中、あるいは世界中の強力なライバルたちと競いながら、インターネットを通してモノを売らなければなりません。

この激しい競争で勝ち残っていくには、自社の強みを最大限に引き出し、勝ち目を見出すための「戦略」が非常に重要です。そして戦略を立てるのは、ネットショップを開店してからでは遅すぎます。中小事業者様がEC市場へ進出する前に、どのような戦略を立てておくべきなのか、以下でそのポイントを見ていきましょう。

EC事業の成功に「戦略」は欠かせません。ネットショップ開店前にしっかりと練ることが望まれます。


2.徹底的な市場調査

ECに限らず、ビジネスにおいて必要不可欠とも言えるのが市場調査です。とりわけ重要になるポイントは「競合の戦略」と「顧客ニーズ」の2つ。自社が販売しようとする商材に関して、EC市場ではどんな競合がいて、どのようなニーズが顧客から求められているのか。ここを深く理解しておくことが、成功するための鍵となるでしょう。

たいていの場合、市場調査には大きな労力がかかります。そこでECならではの市場調査ツールとして、楽天市場やamazonの機能を活用すると情報収集が捗ります。このようなECモールには、商品ジャンルごとの「売れ筋ランキング」が公開されており、どの店のどんな商品が売れているのかを知るのに役立ちます。ランキングは日別、月別などで集計されているので、トレンドを把握するにもおすすめです。

また、ECモールに投稿されたレビューも、市場調査に活用できます。お客様からのレビューがたくさんついている商品は、過去の販売実績が多く、ジャンル内でも売れ筋商品という可能性が高いです。さらにレビューの内容を読んでみると、お客様がどうしてこの商品を選んだのか、消費者心理を把握する手がかりにもなります。

ECの市場調査にあたっては、消費者がどんなキーワードで検索しているかを把握するのも大切です。基本的には検索ボリューム(=検索されている数)が多いほど、需要が大きいと考えられます。またキーワードを研究することで、競合や消費者の姿がより鮮明になり、販売戦略の精度を高めることにもつながります。キーワードの調査にあたっては、素早く簡単にできるリサーチツールを使いましょう。Googleの提供する「キーワードプランナー」は、自社の商品に関連するキーワードの候補や、検索ボリュームを簡単に調査できるリサーチツールとして利用されています。

ECモールの売れ筋ランキングやレビューには「売れるためのヒント」が隠されています。徹底的にリサーチしましょう。


3.明確な差別化を図る

市場調査で情報を集めたら、自社が市場でどのように差別化できるかを検討します。ECのお客様は商品を比較することに慣れており、複数の候補の中から最も満足できる商品を選んでいます。そこで他社と比較されることを前提に、自社の強みが何なのかを明確にし、差別化した強みを全力でアピールしていく、というのが基本的な戦略です。これは実店舗と共通する考え方ですが、ECの場合は差別化要素の「インパクト」「わかりやすさ」が肝要となります。

自社の強みを見つけるには、自社・競合・顧客という3つの観点から、「どの分野なら勝ち目があるか」を考えていくとよいでしょう。この3つから様々な戦略を考える手法は、3C分析と呼ばれる有名なフレームワークです。差別化できるポイントは、価格や品質はもちろんのこと、店舗の品揃え、配送スピード、アフターサポートといった要素も対象になります。以上のようにして導き出した「他社には無い自社ならではの強み」が、EC市場で戦っていくための武器になるのです。

そして差別化した自社の強みは、ネットショップの中でお客様に伝わるように、必ずしっかりと訴求してください。ECでは対面の接客ができないため、全てのことは画面を通して視覚で伝える必要があります。どんなに素晴らしい強みがあっても、お客様に理解してもらえなければ意味がありません。強みをアピールしたつもりが十分に訴求できていなかった…という状況は、意外なほどはまってしまいがちな落とし穴なので注意しましょう。

※筆者作成


4.組織体制を整備する

ECで失敗しないためには、ネットショップを運営する組織体制の構築も重要です。開店初期の頃は、スタッフが他の業務と掛け持ちする形でEC事業を担当することも多いでしょう。そうすると既存業務もこなしつつ、ECという新たな業務に取り組む状況になるため、担当者の負担は大きくなりがちです。さらにEC事業は、他部署から業務内容が理解されない部分も多く、すぐに成果が出ないことも珍しくありません。人手不足の世の中では、不満やハレーション(悪影響)をできるだけ予防し、スタッフの離職もなるべく防ぎたいものです。

このような懸念への対策として、まずは役割分担や指揮系統を、開店前から明確にしておくことが大切です。EC事業の重要性を社内全体に説明し、互いに助け合える体制を構築しましょう。またECの業務は属人化しやすいため、社内コミュニケーションを活発にして、情報共有を促進することも必要です。アイデア提案や問題発生時の対応などは、開店前から相談しやすい環境もぜひ整えてください。そして事業の成功は、何より統率する人間の手腕に左右されます。もし経営陣が指揮を執れない場合は、従業員の中からマネージャーを選出し、適任者にリーダーを任せる必要もあるでしょう。ではEC事業のリーダーには、具体的にどのような力が求められるのでしょうか。

有名なリーダーシップ理論である「PM理論」では、リーダーに必要な力として「目標を達成する能力」と「チームを維持する能力」を挙げています。

PM理論(社会心理学者・三木二不二氏が1966年に提唱)
※図表は筆者作成


トラブルや変化の多いEC事業の場合、マネージャーにこの2つの能力が無ければ、事業に支障をきたすことになりかねません。あるEC事業者の事例では、どちらの能力にも欠けたリーダーが就任したことで、実績が低迷しただけでなく退職者が続出。結果としてわずか半年ほどで組織が崩壊し、年商10億以上の売上規模が半減してしまった…という、悲惨な実話もあるのです。そのような事にならないためにも、マネージャーの選出は非常に重要です。就任後の業務の中でも、目標達成と集団維持の能力をさらに高めていけるよう、上層部がサポートできる体制を構築しましょう。


5.コストを考慮した損益計画

ECは低コストで始められるのが大きなメリット!…という話を聞きますが、これは半分本当で半分ウソ。確かに設備投資や家賃などの固定費は、実店舗よりも安く抑えられるでしょう。しかしECで売上を拡大していくためには、「ECならではのコスト」が必要なことは盲点だったりします。ここを甘く見ていて、想定より利益が出ないというのはよく聞く失敗パターンの1つ。そうならないためには、開店前から十分なシミュレーションを行い、精度の高い損益計画を作っておくことが必要不可欠です。

「ECならではのコスト」の具体例を挙げておきましょう。まずは諸々の「手数料」です。決済にかかる手数料、楽天市場やamazonといったプラットフォームに払う販売手数料、受注・出荷・在庫管理などのシステムに発生する手数料…などなど、ECを運営する上では様々なサービスが必要で、それに伴って手数料が発生します。自社にはどのようなサービスが必要で、それにどれくらいの手数料がかかるかは、開店前から十分に考慮しなくてはなりません。

また広告費も、ECで欠かせないコストとなります。ECで一定以上の売上規模がある事業者であれば、広告に少なくないコストをかけているはずです。というのも、膨大なライバルがひしめくEC市場で、自社の商品をお客様に見つけてもらうには、広告の力を借りなくては難しいのが実情なのです。他にもポイント付与などの販促費や、ECでは欠かせない送料・梱包資材費なども、多くの企業で欠かせない費用となります。このように発生する様々なコストを吸収できるか、損益計画は事前にしっかりと作成しておきましょう。


6.最後に

EC事業のスタートにあたって、失敗しないためのポイントがお分かり頂けたでしょうか。競争の激しいEC市場ですが、成功している中小事業者様もたくさん存在します。その店舗を見てみると、運営の土台に優れた戦略があることが、実際に推察できることが多いです。皆様も自社の戦略をしっかりと練り込むことで、開店後に後悔しない事前準備を進めていきましょう。

著者プロフィール

塩島 慎一朗(エクト経営コンサルティング 代表)

EC・WEBマーケティングを専門とする経営コンサルタント。ネットショップに関する幅広い支援だけでなく、財務面や組織面の課題にも対応し、ECにとどまらない総合的な経営サポートを可能とする。中小企業診断士として様々な企業支援を経験、またワイン業界での経験も豊富でソムリエ資格を保有している。

< 専門家コラムTOP

pagetop