個性化戦略のススメ
中小企業経営において「差別化戦略」の採用は有効です。ところが、他社との差や違いを生み出すことに頭を悩ませる経営者も多いでしょう。そのような方は自社の「個性」に着目してはいかがでしょうか。個性を強調した経営がもたらすメリットや個性との向き合い方を解説します。
(掲載日 2023/11/18)
他社(他者)との「差」に着目するより、自社の「個性」に着目しよう
みなさんは戦略を立てていますか?
ビジネスにおいて戦略とは、理想の姿、夢やビジョンの実現を目指すための方向性や考え方のことなので、理想の姿、夢やビジョンをお持ちの読者のみなさんは戦略を立てていることでしょう。
ビジネス書などでも目にする機会の多い「差別化戦略」を意識して事業を行っている人も多いのではないでしょうか。差別化戦略とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターが提唱した競争戦略のひとつで、他社(他者)との特異性(違いや差)を作り出すことで競争優位性を築く戦略です。差別化戦略のように比較の対象があるほうが取り組みやすいのですが、それが上手くいかないケースがあります。そこで今回は、そんな状況に陥らないための戦略について考えてみましょう。
差別化に行き詰りを感じたら「個性」に着目しましょう
差別化戦略で他社との違いや差を作り出すためには、他社の環境や戦略、他社の業界でのポジションなどを分析します。他社を分析することはとても重要ですが、他社との違いや差に着目することが目的になってしまって、他社と比較し続けて疲弊してしまっている中小企業は少なくありません。戦略は、理想の姿、夢やビジョンの実現を目指すための手段であって、目的ではないのです。他社と比較することが目的になってしまうと、他社との違いや差を作り出しにくくなったときに何をしたら良いかを見失う恐れがあります。そんな状況を打破するのが「個性化戦略」です。個性化戦略は個性に着目します。個性は他社と比較するものではありません。「自分の個性に着目しよう!」と言うと、「そうは言っても、私には(我が社には)個性があるのかな」と思う人もおられるかもしれません。ビジネス以外でも同じではないでしょうか。周りの顔色や評価を気にしすぎて、自分で感じたこと、自分で考えたことを表現しないことに慣れてしまい、自分の個性が分からないという人もおられるかもしれません。ビジネスにおいても他社と比較することに慣れてしまい、無意識のうちに他社と比較することが目的化してしまって自分の個性が分からなくなってしまうケースは少なくないのです。
「個性=自分らしさ」は誰にでもある
でも大丈夫です。個性は誰にでもあります。すでに持っています。たとえ同じ地域で過ごしても、同じ学校で学んでも、同じ業界や同じ会社で働いても、同じ家庭で育っても、同じ経験の人は誰一人としていません。その経験から感じたこと、考えたことが同じ人も誰一人としていません。個性は誰にでもあるのです。すでに持っているのです。個性は「経験」から生まれます。そんな個性に着目する個性化戦略をオススメします。個性に着目することは、自分らしくいることです。どんなに売上を上げたとしても、どんなに規模が大きくなったとしても、どんなに有名になったとしても、自分らしくいられないと理想の姿とはかけ離れているのではないでしょうか。誰もが自分らしくありたいと望んでいることでしょう。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」で考えてみます。人間の欲求を5つの階層に分類して、低階層の欲求が満たされると、高階層の欲求を欲するという考え方です。5つの階層、➀生理的欲求(生命の維持に必要な本能的な欲求)、➁安全の欲求(安心して暮らしたいという欲求)、③社会的欲求(社会とつながりたいという欲求)、④承認の欲求(認められたいという欲求)、⑤自己実現の欲求(理想の自分になりたいという欲求)のうち、どの欲求が強いかは人それぞれですが、ビジネスを行っている読者のみなさんは比較的「⑤自己実現の欲求」が強いかもしれませんね。
自己実現の欲求はまさに自分らしくいること、個性を大切にすることです。本来は、自分らしくいること、個性を大切にすることを欲するのが自然なのですが、他社との違いや差を作り出すことばかりを追い求め、自分らしくいられなくなると疲弊してしまうのです。だから個性に目を向けることはとても重要なのです。
自分の個性の見つけ方
中小企業や小規模事業者は経営者の色が出ますので、経営を行う読者のみなさんが自分の個性を見つけて、その個性を大切にすることが重要です。個性を見つけるためには、まず自分の今までの「経験」を振り返って、「充実した経験」に着目してみましょう。嬉しかったこと、わくわくしたこと、自分を誇りに思えたこと、喜んだこと、幸せに思えたこと…。その経験を思い出して、そのときのストーリーを書いてみましょう(思い描くだけよりも言葉にするほうがイメージを明確にすることができるのでオススメです)。その経験はあなただけのものです。その経験で感じたこと、考えたこともあなただけのものです。あなたの中にはすでに「こんなに素晴らしい個性」があるのです。「あなただけの個性」を大切にしていきましょう。
戦略の基本は、強みを機会に投入することです。個性は大きな強みになり得ます。自社の強みにスポットを当てることで戦略の基本に立ち返りやすくなるので、競合他社に囚われすぎることなく、シンプルに機会、市場や顧客のほうに意識が向かいやすくなるのです。
個性化戦略がもたらす3つのメリット
また、個性に着目する個性化戦略を行うことには大きなメリットが3つあります。1つめは、意思決定の判断基準が明確になることです。どの経営資源をどこに投入しようか迷った場合、「個性を大切にしているか」「個性を活かしているか」をひとつの判断基準にすると、迅速でブレない意思決定をしやすくなることでしょう。判断基準が明確になると、経営資源をより有効に活用できるので、経営資源が豊富とは言えない中小企業にとっては大きなメリットです。
2つめは、わくわくする理想の姿、夢やビジョンを思い描くことができることです。「個性を大切にしよう!」「個性を活かそう!」と考えたほうが、わくわくする理想の姿、夢やビジョンを思い描けるでしょう。
3つめは、組織の一体感を醸成することができることです。アメリカの経営学者チェスター・バーナードが提唱した「組織成立の3要素」で考えてみます。組織が成立するためには、➀共通目的、➁コミュニケーション、➂貢献意欲、の3要素が必要不可欠であるという考え方です。
「➀共通目的」が組織メンバー全員に浸透する必要がありますが、企業理念を掲げただけでは、組織メンバーそれぞれで解釈が異なることが考えられますので、企業理念を共通目的にするためには組織メンバー間で「➁コミュニケーション」をとって、すり合わせる必要があります。このときに組織メンバーそれぞれが自社の個性を認識していると、共通言語が生まれやすく、組織としてコミュニケーションが円滑に進みやすくなるでしょう。
そして組織メンバーが企業理念に共感したとき、ようやく共通目的が浸透したことになります。組織メンバーそれぞれに共通目的が浸透すると、組織のために働こうという「③貢献意欲」が高まり、組織の一体感が高まるのです。また、組織メンバーそれぞれが「我が社にはこんな個性があるんだ!」と自社の個性を認識することにより、自社を誇りに思うことができ、モラールが高まります。組織の一体感が高まるとともに、組織メンバーそれぞれのやる気を高めることにもつながるのです。
個性を大切にして夢やビジョンの実現を
戦略を立てるとき、他社を分析することは重要ですが、他社を見ることに囚われて、それが目的化してしまうと疲れてしまいます。まずは自分の個性を見ることが重要です。他社をまったく見なくて良いと言っているのではありません。自分の個性の優先順位を高めていきましょう。「私には個性があるのかな」と悩みや不安を抱えている人は、個性は誰にでもあり、誰もがすでに持っていますのでご安心ください。経験が全く同じ人なんていないのですから。個性を事業の原動力として突き進んでいきましょう。意思決定に迷い、事業のスピード感が上がらないと悩んでいる人は、個性を大切にすることをひとつの判断基準にして、個性を事業の推進力として突き進んでいきましょう。理想の姿、夢やビジョンがボンヤリしている人は、個性を大切にできるわくわくする未来を思い描き、個性を事業の羅針盤として突き進んでいきましょう。組織にまとまりがないと悩んでいる人は、組織メンバーそれぞれが自社の個性に目を向けられるようにするところから始めてみましょう。
さぁ、自分の個性を大切にして、理想の姿、夢やビジョンの実現を目指しましょう。