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「働き方改革」を先取りして、人手不足を解決する!

中小企業において人手不足が深刻です。そんな中、『働き方改革』関連法が成立し、2019年4月に施行されます。本コラムでは働き方改革を先取りしてご説明します。

(掲載日 2018/11/02)

「働き方改革」を先取りして、人手不足を解決する!

~「働き方改革」とは、そもそも何か~

 政府は、経済の再生と持続的な成長のため、少子高齢化の一層の進展による労働力の減少や国際比較で見劣りする労働生産性(指標)の低迷といった日本の構造的な問題を解決する処方箋として「一億総活躍」を政策目標としており、その実現への横断的課題として位置づけられるのが「働き方改革」です。


 具体的には、「働き方改革実行計画」(働き方改革実現会議2017年3月28日決定)において、以下の九つのテーマを掲げています。

①非正規労働者の処遇改善

②賃金引き上げと労働生産性の向上

③長時間労働の是正

④柔軟な働き方がしやすい環境整備

⑤病気の治療、子育て・介護と仕事の両立、障害者就労の推進

⑥外国人材の受入れ

⑦女性・若者が活躍しやすい環境整備

⑧雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援

⑨高齢者の就業促進


 私見を込めて荒っぽくまとめますと、男子正社員を中心に、組織構成員の同質性に基づく団結力を強みとして、一心不乱に頑張るといった画一的な労働慣行からの脱却を試みたものであり、日本の文化や伝統に根ざして形成された雇用システム(いわゆる昭和モデル)を加速度的に変革することを狙った、大変にチャレンジングな政策目標と言えます。

 厚生労働省によれば、「働き方改革」とは、「子育て、介護、治療などの様々な事情や、性別、年齢などの属性にかかわらず、誰もが活躍できる職場環境づくりを行うこと」(厚生労働省東京労働局雇用環境均等部リーフレット「働き方改革を進めましょう!」より抜粋)と明言し、企業にとってのメリットとして、「働く人々のモチベーションの向上、効率的に働こうという時間意識の高まり、健康の確保、生産性の向上、良い人材の確保・定着、企業イメージにもプラス、企業の成長」(同リーフレット)を提唱しています。


 つまり、「ダイバーシティ(多様性を包摂した)経営」の推進や「ワーク・ライフバランス」の実現は、「働き方改革」とほぼ同義であり、積極的に同時進行すべきものとなります。

 以上の経緯を背景として2018年7月6日に公布されたのが、働き方改革関連法ですが、その目玉は、残業時間の上限規制と年次有給休暇(1人1年あたり5日間)の取得義務化を盛り込んだ労働基準法改正及び、同一企業内における正規・非正規の労働者間の不合理な待遇差の解消を意図した関連法(パート法、派遣法、労働契約法)の改正です。

 今後、それぞれの改正法の施行に向けて、十分な準備が必要となります。

~「働き方改革」のゴールは生産性の向上~

 「働き方改革」の最終目標は、労働生産性の向上です。

 IT・AI、ロボットの導入による機械化・自動化・省力化・無人化等による業務効率化は、将来にわたり推進することは当然です。

 最も鍵を握っているのは、人的資本の質的な向上ですが、そのために必要なのは、労働条件の整備、人事制度の構築や改善、能力開発の体系的な仕組みづくりなどハード面の制度設計・運用に加え、円滑なコミュニケーションが機能する風通しの良い職場づくり(ソフト面の整備)です。

 労使関係の健全さが、従業員の仕事に対する意欲(モチベーション)の強弱に連動し、結果的に生産性に大きく影響するのは、言うまでもないことだからです。



~中小企業は「働き方改革」(ハード面)にどう取組むべきか~

【ステップ1】労務コンプライアンスの厳格化対応
 コンプライアンスの厳守は、企業存続の最低条件です。法改正への対応は当然のことですが、現行法に照らした労務管理上の問題点を見直し、不十分であれば、その応急措置を喫緊に講ずる必要があります。
 特に、職場におけるさまざまなハラスメント(セクハラ、育児・介護に係るいじめや嫌がらせ、パワーハラスメント)の予防は、大変に重要なことです。
 人権侵害に対するセンシティビティが非常に高まっている世の中の流れは、リスク管理の上で十分に認識しておくべきです。

【ステップ2】職場におけるわかりやすいルール(就業規則など)づくりとその明確化
 職場のルールをわかりやすく明示することは、「ダイバーシティ経営」のインフラとして必要不可欠です。
 労働基準法において就業規則の作成と周知は、従業員10名未満の事業場には義務ではありませんが、用意すべきです。

【ステップ3】「経営理念」の浸透による会社の目的や方向性(ビション)の明確化
 「ダイバーシティ経営」のデメリットは、雇用形態、属性、価値観や習慣・文化の相違による社員間のコンフリクト調整や組織統合といったマネジメントに関わるコストや難易度の高さですが、経営トップみずからが、自社の経営理念を社内外へ情熱をもって継続的に発信し浸透させ、ステークホルダーと共有することで、「ダイバーシティ経営」の欠点はカバーされます。
 また、求人募集・採用時の誤解によるミスマッチは限りなく軽減され、同じ経営理念に共感し引き寄せられた労働者のみが、協働することとなり、人材定着率の改善が見込めます。

【ステップ4】中長期事業計画の策定と目標管理制度の導入・運用
 経営理念を実現するために、中長期における事業計画を策定し、年度の会社目標の設定、各部門目標の割り当て、最終的には従業員の個人目標のアサインまでに落とし込みます。
 いわゆる目標管理制度といわれるもので、労使のコミュニケーションツールとしても効果的ですが、何よりも労働生産性を向上させる有効な労務管理手法です。

【ステップ5】人事評価制度と賃金制度の構築と運用
 個人目標(会社への貢献度)の結果について公平性と透明性を担保して客観的かつ適切に評価する仕組み、即ち人事評価制度の構築・運営も必須で、その結果をもとに納得感のある賃金等の経済処遇が決定される仕組み(賃金制度等)の整備・運営も必要です。

【ステップ6】人材育成・能力開発制度の整備とキャリアパスの明示
 会社は、勤続年数や雇用形態ごとに段階的な理想とする人材像を明示し、そこに到達できる手段としての教育・研修システムや能力開発の仕組みを整備する必要があります。
 個々の従業員は、将来へ向かってのキャリア形成の見える化が可能となり、主体性や自立性が高まり、おのずとモチベーションや生産性の向上につながります。

【ステップ7】PDCAを継続的に回す
 経営トップは、強力なリーダーシップの下、「働き方改革」に対する不退転の決意表明と深いコミットメントの姿勢をみせます。
 次に事務局を設置し、会社の現状を把握、改革の目標と全体像をデザインしたうえで個別の課題を整理、測定可能な成果指標(定性・定量)を設定、自社の課題に沿った具体的な取組みを始めることとなります。
 実現可能な小さな成功体験を地道に積み上げ、改革への社内における雰囲気を盛り上げながら個々の従業員へ意識付け、評価・点検や改善した内容は全社で共有し、PDCA(マネジメントサイクル)を繰り返し回しながら粘り強く推進することが、大変に重要です。

~最後に!「働き方改革」が人手不足を解決する!~

 中小企業・小規模事業者における最大の経営課題の一つが、人材の確保・定着及びその能力開発(人材育成)であり、今後ますます深刻化が予想される状況におきまして、「働き方改革」を契機とした「魅力ある職場づくり」、言い換えれば「働きがいと働きやすさの追求による従業員満足度最大化への挑戦」に競合他社に先んじて一刻も早く取り組むことは、人手不足解決の最大のチャンスとなります。

著者プロフィール

星 昌宏(ほし まさひろ)(中小企業診断士・社会保険労務士)

一般社団法人多摩西部コンサルタント協会会員
大手証券会社において法人営業および株式公開支援業務に従事後、コンサル会社での経理・財務部門の実務責任者を経て独立。中小企業の人事・労務管理と財務を中心とした経営支援を展開中。就業規則の作成、人事評価・賃金制度の構築、目標管理制度の導入・運営、高齢者雇用設計、雇用関係助成金の活用等の支援を得意としている。

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