若手社員の定着と成長を後押しする「小集団活動」とは?
小集団活動といえば製造業の品質管理を目的とするQCサークル活動が有名ですが、実態は企業や業種によって異なり、別部署から集まる部門横断型やプロジェクトごとにチームを編成する方法など様々です。本コラムでは『小集団活動』で若手社員の成長を支援する仕組みを提示します。
(掲載日 2023/02/26)
若手社員の定着率を高める、新たな小集団活動『ユニット活動』のススメ
1.これからの時代を担うZ世代の特徴と取り巻く環境
これから社会に出る若者たちは『Z世代』*1と称され、幼い頃からスマートフォンやSNSなどデジタルツールに囲まれて育っています。この世代はソーシャルメディアでのコミュニケーションを重視する、『モノ』(商品)よりも『コト』(経験)に価値を感じて消費する、『自己実現』や『社会貢献』に対して意欲的である、といった特徴があります。*1 Z世代:2023年時点 12歳~28歳(1995年~2011年生まれ)
①Z世代の仕事観について
東京商工会議所が実施した「2022年度 新入社員意識調査」を参考に『Z世代』の仕事観を確認することができます。就職先を選ぶ上で魅力を感じる企業の制度として、有給休暇、勤務時間体系、在宅勤務の有無といった『働き方』に関する事項と、資格取得や育成研修など『スキルアップ支援』に関する内容が上位を占めています。②若手社員の定着率の実情
一方、企業の新卒採用・若手社員の育成状況に目を向けますと非常に厳しい状況が見受けられます。厚生労働省は新卒採用者の離職率について公表を続けていますが、一貫して事業規模の小さい企業ほど離職者の割合が高くなります。事業規模5~29人の会社では高卒51.7%、大卒48.8%の新規学卒就職者が3年以内に離職しています。中小企業にとって採用した若手社員の定着率向上は大きな課題と言えます。③若手社員を取り巻く転職環境
「転職サイトdoda 転職市場予測2023年上半期」は『事業の成長に伴い、採用を中断していた企業も再開し始め、将来を担う人材を育成しようという側面と転職自体が身近なものになっていることから、若手採用のニーズが高まっている』と分析しています。事実、長時間労働が続く業界では若手社員の流出が事業継続に影響を及ぼしかねない状況から、急いで働き方改革を進めている企業が散見されます。若手の流出に悩む企業の人事担当者曰く、退職を告げられた時にはもう次の職場が決まっていて慰留の為に話し合う機会が減っているそうです。インターネットによるマッチングや面接のオンライン化など通信技術の影響は大きいですが理由はそれだけではありません。
下記は筆者が、転職する『Z世代』の若者に『なぜ会社を辞めるのか』という質問をした回答の一例です。
- ・「年功序列的な制度が残っており、いくら頑張っても給与待遇が良くならない」(28歳/営業)
- ・「上司は営業成績ばかり気にしていて自分が努力して取り組んだ内容を見ていない」(25歳/営業)
- ・「元々一つの会社に勤め続ける気がなく成長を求めて異業界に移る」(26歳/SE)
- ・「リモートワークができない業界業態なので将来性を感じなくなった」(25歳/事務)
『Z世代』の若者は個人の価値観を重んじる傾向があり、十人十色の仕事観で会社を客観的に見ていると考えるべきでしょう。手遅れになる前にそれぞれの個性と向き合い、光をあて、育てる仕組みが必要です。
2.小集団活動が若手の育成に与えるプラスの効果~強みの発見~
小集団活動の代表例として『QCサークル活動』*2があります。『当初は現場の品質管理活動を浸透させる手段として導入されたが、活動を通じて働きがいや仕事に対する充実感が高まった』*3という想定外の成果報告が相次いだそうです。*2 QCサークル活動:現場の少人数グループが自主的に製品やサービスの品質管理と改善・向上を目指す活動
QCサークルが目指す姿について『この活動は、QCサークルメンバーの能力向上・自己実現、明るく活力に満ちた生きがいのある職場づくり、お客様満足の向上および社会への貢献をめざす』*4、また、進める姿勢は『この小グループは、運営を自主的に行い、QCの考え方・手法などを活用し、創造性を発揮し、自己啓発・相互啓発をはかり、活動を進める』*5とされています。
小集団活動は『Z世代』が重視する自己成長やスキルアップ、さらに社会への貢献も視野に入れています。自主的な取り組みから自己・相互啓発へ発展し、メンバーとの親密なコミュニケーションから自分でも気付いていなかった『強みの発見』が期待できるのです。
*3,4,5 出典:『QCサークル活動の基本と進め方―あらゆる小集団活動に役立つ』(山田佳明、新倉健一、羽田源太郎、松田啓寿著/日科技連出版社)
3.若手社員と会社の成長、両立を目指す小集団活動『ユニット』
『ユニット』はリーダーと数名のメンバーで編成された小集団(チーム)のことです。芸能界ではアイドルやミュージシャンが期間限定でグループやバンドを組んで活動する時、この言葉をよく使います。また、企業が組織の課題解決やプロジェクトを進める際に作る部門横断型のチームを指して使うこともあります。それぞれ編成目的は異なりますが、『これまでにない化学反応を起こす』活動です。少人数編成につき、規模の小さい事業所であれば会社単位で取り組むこともできます。ユニット活動の3つの目的と成長のコツについて、個別に解説いたします。
①強みの発揮と磨き上げ
『ジョハリの窓』自己分析で使用する心理学モデルに『ジョハリの窓』があります。自分の強みを把握するためには「自分から見えている自分」と「他人から見えている自分」のギャップを理解しなければなりません。『ジョハリの窓』で開放の窓【自分もメンバーも知っている状態】を広げて自他ともに認める『強み』を発見します。小集団活動はこのモデルと相性が良いのです。
※ジョハリの窓とは、人と人とのコミュニケーションを円滑にする為に考案されたモデルです。「開放の窓」(自他ともに知っている自分)・「秘密の窓」(自分しか知らない自分)・「盲点の窓」(他人しか知らない自分)・「未知の窓」(自他ともに知らない自分)の4つの領域があり、メンバーとの相互理解が深まることで開放の窓が広がります。
成長のコツ:真の強みを活かした個人テーマを設定し、実行します(磨き上げ)
真の強みを活かし、ユニットテーマに関連した『個人テーマ』をリーダー支援の下で設定、下表のように纏めます。その後具体的な行動計画を立て、進めていきます。
②将来のマネージャー育成
経営学者P.F.ドラッカーはその著書の中で、『あらゆるマネージャーに共通する仕事として、目標を設定し、組織し、動機づけとコミュニケーションを図り、評価測定し、人材を開発することである』*6と示しました。ユニットリーダーはこの5つのポイントを小集団活動の中で経験します。若手社員が発信した取り組みを支援し、ともに活動する中で成長を実感していきます。*6 出典:『マネジメント エッセンシャル版-基本と原則』(P.F.ドラッカー著/ダイヤモンド社)
成長のコツ:リーダーに権限を委譲して運営を任せます
リーダーは先ずこの集団で何をするのか、テーマを決めてメンバーに伝えることから始めます。その他メンバーの活動支援、全体のスケジュール管理が主なリーダーの役割になります。そして若手社員の企画には積極的に参画して成長を見守ります。
<リーダーの役割>
- ・ユニットテーマ設定:社会貢献や成長分野の視点も考慮してユニット活動のゴールを示す重要なプロセスです
- ・メンバーへの支援:個人テーマ設定支援、若手発案の企画参加等を通じてコミュニケーションを深め、モチベーションの維持向上を図ります
- ・スケジュール決定:ミーティングの招集や進捗把握の方法、活動期間を決めてメリハリのある行動を促します
③社員と事業の成長
世界的な化学・電機素材メーカー3M社には15%カルチャーと呼ばれる慣習があります。これは『将来に役立つテーマであれば自分に与えられた職務上の研究テーマとは別に労働時間の15%を費やしてその研究に取り組むことができる』という不文律です。『企業が成長する為には多くの自主性を持つ社員が不可欠である』という考えを体現しています。成長のコツ:積極的に活動できる環境を作ります
ユニット活動は社員が『小さな成功体験を通じて自信を持つ』そして『自主的に行動する人になる』、この2点がポイントです。その為には以下の姿勢で取り組むことをお勧めします。
・特技や趣味を活かした個人テーマ(目標)設定を検討可能とします。例えば、動画編集を得意とするメンバーが「新商品のECサイト向けのPR動画制作とその効果測定に取り組む」といった内容も検討に値します。
・活動の自由度を高める為、ユニットテーマは直接的な業務目標は避けます。例えば、営業主体のユニットの場合、ミーティングが営業会議のようになり、個人の発想を表現しにくい環境になることがあります。