自社の強み、競争優位の見つけ方
成長戦略や事業計画書を策定する際、自社の「強み」の認識は大切なポイントです。但し、中小製造業の企業において、自社の強みの過少評価がアピール不足を招き、取引先に対して明確な強みが伝わらないという悩みも多いようです。このような悩みの解決方法をご紹介いたします。
(掲載日 2023/02/13)
「自社の強み、競争優位の見つけ方」 中小製造業の悩みを解決
1.「強みが見つからない?」 お悩みの裏側
『貴社の強みを教えて下さい』という質問に対して、即座にお答え頂けることは稀であり、お聞きする悩みとして、下記の例があります。
- ・「うちの会社の強みは何ですか?って、聞かれると困ってしまいます。」
- ・「以前、会社紹介のパンフレットをつくりましたが、会社の売りの表現が今一つ。」
- ・「秘密保持契約書(NDA)があり、顧客の企業名を言えない、どうしたら良いか分からない。」
- ・「自社の強みよりも、弱みの方が頭の中に浮かんできてしまいます。」
上記のお悩みの背景は、自社の強みを過少に評価している点があります。これは、強みはあるものの、【自社の強み】を時間をかけて検討し、表現する機会が少なかったことが考えられます。また、受託開発、製造委託等で顧客との長期取引をし、自然体でのQCD*1対応により、強みが空気のような存在になり、自ら気づかない場合も少なくありません。
今回のコラムでは、【自社の強み】、競争優位を再発見し、成長戦略につなげるヒントをご提示するものです。
*1 QCD…Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字であり、製造業において必要不可欠の要素です。
2.「強み」の認識は、企業経営で大切なポイント
自社の内外の環境を分析する方法に、SWOT分析があり、強みの認識は、経営戦略を策定する上で必須です。SWOTとは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の最初の英文字をとったもので、下記の図は、SWOT分析の枠組みとなります。
また、「現代経営学」や「マネジメント」の発明者である、P・F・ドラッカーには数々の名言があり、企業や人の強みの認識に関し、経営の本質を迫る内容が下記にあります。
「強みとは何か? 誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思っている。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。それさえ間違っていることが多い。しかし、何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである」
出典:『プロフェッショナルの条件』ダイヤモンド社 2000年6月 112頁
「知っている仕事はやさしい。そのため、自らの知識や能力には特別の意味はなく、誰もがもっているに違いないと錯覚する」
出典:『創造する経営者』ダイヤモンド社 2007年5月 115頁
「他社はうまくできなかったが、わが社はさしたる苦労なしにできたものは何かを問わなければならない」
出典:『創造する経営者』ダイヤモンド社 2007年5月 149頁
更に、中小企業活力向上プロジェクトアドバンスでは、経営分析のスタートとして、経営者に“気づき”をもたらす 「中小企業活力向上チェックシート」があります。本シートは、「戦略・経営者」「マーケティング」「組織・人材」「運営管理」「財務管理」「危機管理・社会環境・知財管理」の6分野あり、【自社の強み】に関する内容は、「戦略・経営者」の項目にあります。
https://www.keieiryoku.jp/category/files/checksheet.pdf
他には、独立行政法人 中小企業基盤整備機構の「販路開拓を成功に導く仮説づくりと検証」で、強みに関する内容があります。具体的には、顧客メリットの仮説づくりのプロセスの中で、①自社の強みと商品・サービスの特徴の整理、②ニーズの確認、③顧客メリットの想定があります。最初のプロセスとして、【自社の強み】の認識に関し、『強みは社内にあり、特徴は当然ながら既知のものですからすぐ整理ができます。』の記述があります。
https://www.smrj.go.jp/doc/regional_hq/kanto/hanrotsushinkasetsukensho.pdf
3.『自社の強み、競争優位の見つけ方』の具体的な方法について
①顧客へのヒアリング、②社内のグループワーク、③同業他社との比較の方法について、個々に解説いたします。
①「顧客へのヒアリング」の方法について
自社の強みを知る上で、顧客の視点、お客様の声をヒアリングすることは最も重要です。理由は、取引先の顧客は自社にメリットや魅力を感じて、取引頂ける存在のためです。
ヒアリングは、アンケートや会話の中で聞く方法がありますが、質問を掘り下げて聞くことができる、「会話」の方法をお勧めします。
下記にシンプルにたずねる質問の例を記載します。
- ・「弊社を選んで頂き、弊社と取引を続ける理由は何でしょうか?」
- ・「他にも同様の商品があるなかで、なぜ弊社の製品を採用して頂いたのでしょうか?」
また、会話の中で、「お客様に更に満足していただける製品を作っていきたいので、ご意見を教えて下さい。」という姿勢を示すことも大切なポイントです。
尚、QCDの対応に自信のある場合は、下記のような質問をする方法もあります。
- ・「品質面において、弊社のレベルでご満足頂けていますか?」
- ・「価格は高いとお聞きしますが、それでもご発注される理由は、何でしょうか?」
- ・「弊社は納期遵守を大事にしていますが、ご評価はいかかでしょうか?」
上記の質問の回答や反応から、ヒアリング内容を深堀りすることもお勧めします。
②「社内のグループワーク」の方法について
社内ミーティングを開催し、お客様の評価をダイレクトに聞いている社員の経験・実績を、整理する方法があります。現場対応をしている社員は、お客様の生の声や隠れた要望を持っていることが多く、強みの更なる強化につながる可能性も高いです。
グループワークの方法は、ブレインストーミング*2やKJ法*3を活用します。進め方は、自由に発言できる、質にこだわりすぎない、すぐに結論を出さないという雰囲気づくりをしていきます。そして、各自の経験やお客様の声を付箋等のカードに書き出し、その後、「業務の領域」「実績のある業界」「顧客から評価されたこと」「製造方法の特徴」「技術キーワード」」「保有設備」「表彰・資格・スキル」等に整理していきます。
*2 ブレインストーミング…集団でアイデアを出し合い、参加メンバが相互に発想の誘発を促す技法
*3 KJ法…情報をカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、整理する方法
③「同業他社と比較する」方法について
他社との比較は、生産やマーケティングのフレームワーク、枠組みを使う方法があります。具体的には、生産面では、QCDの品質・コスト・納期の観点や4Mとして、作業者(Man)、設備(Machine)、作業方法(Method)、材料(Material)の要素で比較します。また、マーケティングでは、4P分析として、製品(Product)、価格(Price)、流通方法(Place)、販売促進(Promotion)の要素で比較します。
尚、比較する上で、QCD、4M、4P等のフレームワークをそのまま使用しても良いですが、自社の事業特性や製品の特徴を捉えた比較の方法もあります。
金属加工業の某社のイメージを下記に整理しました。某社は事業年数が長く、複合加工技術を得意とし、最新設備を導入し、納期・コスト対応力を更に高めた企業です。その場合の同業他社と比較した事例になります。
◎:他社より多いに優れている 〇:他社より優れている △:業界平均 ×:業界平均以下
上記表は、簡易的な◎〇△×で比較していますが、より定量的な数字で比較できれば、より良い内容になります。
4.まとめ
「強み」の認識は、企業経営でも大切なポイントです!
『自社の強み、競争優位の見つけ方』の具体的な方法は、
①顧客へのヒアリング
自社の強みを知る上で、顧客の視点、お客様の声をヒアリングすることは最も重要です。お客様との直接の会話、質問の深堀りで、リアルな強みを発見していきます。
②社内のグループワーク
ブレインストーミングやKJ法を活用して、お客様の評価をダイレクトに聞いている社員の経験・実績を、付箋等のカードに書き出して整理します。
③同業他社との比較の方法
生産やマーケティングのフレームワーク、QCD、4M、4P等を使用します。自社の事業特性や製品の特徴を捉えた比較の方法もあります。
【自社の強み】の発見と再認識をするため、上記方法の取組みを定期的に、2年に1回程度、行うことをお勧めします。本取組みにより、強みを活かし、環境変化を捉えた、より魅力的で収益性の高い成長戦略の実現に繋げて頂ければ幸いです。