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時代のキーワード「脱炭素社会」 中小企業に必要な取組とは?

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2削減が叫ばれる昨今。ところが、CO2削減に取り組めていない中小企業は少なくありません。地球の危機的状況を回避するためにも、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現は不可欠。そこで中小企業が取り組むメリットや手順を紹介します。

(掲載日 2022/11/25)

脱炭素社会とは?

20世紀半ば以降の地球規模の気温上昇(地球温暖化)は、地球全体の気候を大きく変える「気候変動」を引き起こす重大な危機と考えられています。その原因は、産業革命以降の人間活動による温室効果ガスの増加が、過剰な温室効果を促したことにあり、このまま経済活動を継続すると、21世紀末には、異常気象などにより人間社会の存続に重大な影響を与えると予測され、早急な対策が必要です*1

「カーボンニュートラル」とは、人間社会の温室効果ガスの排出量と吸収・除去する量を均衡(プラスマイナスで実質ゼロ)にする取組です。また、「脱炭素社会」は、それを実現した社会を指します。

日本の温室効果ガスの排出量のうち、CO2は全体の約85%*2を占め、2015年のパリ協定では、CO2の排出削減は、世界各国が協調して取り組む共通の目標であると合意されました。もはや日本も他人事と構える猶予はなく、世界の歩みに遅れることなく、官民が一体となって、脱炭素社会に向けたCO2排出実質ゼロへの取組を行う必要があります。

図1 「脱炭素」の取組

出典:環境省「脱炭素ポータル カーボンニュートラルとは」より筆者作図
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/



日本の脱炭素社会へ向けた取組状況


2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を目指す」とし、2030年には温室効果ガス排出量を46%削減することを宣言しました。

日本のCO2排出量の状況は、2018年時点で世界5位の11.1億トン*3であり、約4割が火力発電などによる電力部門、残りの約6割が産業や運輸などの非電力部門からの排出です。

目標達成の課題として、電力部門は、化石燃料起源(石油・天然ガス・石炭など)から、再生可能エネルギー(太陽光・水力・風力など)発電への転換、また、非電力部門は、「脱炭素化された電力」による活動への転換があげられます。

これに対して日本は、2021年6月「地球温暖化対策推進法」を改正し、2050年までに脱炭素社会への目標を法に位置づけ、国民・自治体・企業による地球温暖化対策の取組の促進を図りました。

また、2020年12月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(以下「グリーン成長戦略」)」では、温暖化への対応を、経済成長の制約ではなく「成長の機会」と捉え、成長が期待される14の重点分野を選定し、政策による集中的な支援を公表しています。

図2 グリーン成長戦略14重点分野

出典:経済産業省 グリーン成長戦略(概要)
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_koho_r2.pdf



日本企業の取組状況


国の方針や施策に対して、企業の取組はどのような状況なのでしょうか。

環境省によると、「気候変動への取組、影響に関する情報開示」(TCFD)に賛同する日本企業は、大企業を中心に世界第1位の1,061社(2022年9月時点)であり、また脱炭素に向けた目標設定(SBT、RE100(図3参照))に取り組む企業数も世界トップクラスとなっています。

図3 TCFD、SBT、RE100取組企業数

出典:環境省 企業脱炭素経営への取組状況 「TCFD、SBT、RE100に取り組んでいる企業」(2022年9月30日時点)
https://www.env.go.jp/earth/datsutansokeiei.html



一方、パーソルホールディングス㈱の「カーボンニュートラルに関する企業の取り組み実態2022」によると、日本企業で、取り組んでいる企業(「十分に取り組めている」「一部取り組めている」)は、全体の48.1%ですが、「十分に取り組めている」は、超大手企業の18.0%に対して、中小企業は3.0%に留まっています。また、「全く取り組めていない」は中小企業の36.0%を占めています。

取り組めていない理由としては「優先度が低い」「対応のための予算がない」「取組むための技術やノウハウが社内にない」があげられ、取組の必要性の認識・資金・ノウハウの不足による取組の遅れが読み取れます。

図4:カーボンニュートラルに対する取組状況

出典:パーソルホールディングス㈱ カーボンニュートラルに関する企業の取り組み実態2022



中小企業が「脱炭素」に取り組むべき理由


脱炭素は、まだ多くの企業において優先度が低いと考えられていますが、中小企業が脱炭素に取り組むべき理由の1つとして「サプライチェーン全体の脱炭素化」があげられます。

事業活動において、自社の「脱炭素化」のみならず、原材料の調達や製品の使用などのサプライチェーンを含めたCO2削減に取り組む動きが活発化しています。

サプライチェーンに関わるCO2の排出量は、Scope1~3に区分された段階全て(自社・上流・下流)で排出されたCO2を合計した「サプライチェーン排出量」で表します。

図5 サプライチェーン排出量(Scope1~3)

出典:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html



事業者は、まずは自社のScope1と2に取り組むことになりますが、Scope3に関しても影響を把握し評価する必要があります。つまり、今後は先にあげたTCFD、SBT、RE100に賛同する大企業などが、取引先や調達先に対して脱炭素の取組を求めていく傾向が進みます。中小企業も、これにいち早く対応しないと、自社の競争力や優位性の確保に大きな影響を与えるといえるのです。

また既に、従来の財務情報に加えて、環境E(Environment)、社会S(Social)、ガバナンスG(Governance)といった非財務価値を考慮したESG投資が世界の潮流となり、環境分野への投資が活発化しています。中小企業も脱炭素の取組により、ESGに配慮した企業として投資家や消費者の評価を得、資金獲得に繫げることが期待できます。


脱炭素、何から取り組むべき?


それでは、中小企業が脱炭素に取り組む手順を説明します。

①目的の認識あわせ


まずは、経営者を中心に、脱炭素へ取り組む本来の目的の確認を行います。CO2を削減することが最終目的ではなく、自社が事業活動を存続し、経営革新でより成長することが最終目的であり、社員全員が一丸となって取り組む体制作りへの認識あわせが重要です。

②自社のCO2排出量を知る


次に2050年までに、自社のCO2をどれだけ削減する必要があるのか、図5に示した自社のScope1、2のCO2排出量を数値化してみましょう。

CO2排出量は、「活動量×(単位量あたり)排出係数」の式で求めることができます。

活動量とは、工場や店舗など事業によるエネルギー消費、オフィスの照明やOA機器による電力消費などをさします。

また、排出係数は発電方法により係数が異なり、環境省や経済産業省のホームページでエネルギーの種類や、電気事業者別の一覧が公開されています。再生エネルギーのみで発電された電気は、排出係数がゼロであり、グリーン電力と呼ばれています。主な排出係数の目安は次の図の通りです*4

表1 主な燃料の単位量あたり排出係数の目安

エネルギーの種類使用料の単位排出係数
購入電気量千kWh0.445t-CO2
購入電気量(グリーン電力)千kWh0t-CO2
ガソリンkl2.32t-CO2
可燃性天然ガス(液化石油ガス)t2.70t-CO2

CO2の計算例は次の通りです。

・購入電力
  活動量(10千kWh) × 排出係数(0.445kg-CO2/kWh)= 4.45t-CO2
・購入電力(グリーン電力)
  活動量(10千kWh) × 排出係数(0kWh)= 0t-CO2
・ガソリン
  活動量(1kl) × 排出係数(2.32t-CO2/kWh)= 2.32t-CO2
合計:6.77t-CO2

つまり、CO2の排出量は、6.77tです。

これが現状の自社が、2050年までにCO2排出量をゼロにするための目標値となります。

③行動目標と計画の策定・実施


削減すべきCO2の排出量を把握した後、CO2の排出量を把握した後、自社がどのような方法で排出量を削減していくのか、2030年、2050年に向けた「脱炭素化」への削減目標と行動計画を定めましょう。

取組のキーワードは、「省エネ」と「グリーン電力への転換」です。

表2 CO2削減の取組例

キーワード取組内容
省エネ✓事業・オフィスの節電(照明、空調など)
✓省エネ設備・機器の導入・投資
✓残業時間の削減
グリーン電力への転換✓再生エネルギーによる自家発電導入(太陽光発電など)
✓化石燃料起源電力から、グリーン電力への購入先の切替
✓ガソリン・軽油車から電気自動車への切替


④継続的な情報収集


省庁、自治体、関連する団体(中小機構、商工会議所など)から、脱炭素に関する様々な情報が発信されています。特に、資金・ノウハウ面を支援する情報は積極的に収集し、自社の取組に活かしていきましょう。

表3 情報収集の例

情報(支援)の種類情報(支援)の例
資金面の支援✓省エネ・脱炭素化に関連する補助金
(例:省エネ設備の導入、太陽光発電導入、重点分野の研究開発や設備投資)
✓税制優遇(例:カーボンニュートラル投資促進税制)
ノウハウ・情報面の支援✓事例の提供
✓企業向けセミナー、企業への講師派遣
✓専門家による相談窓口


まとめ


2050年の日本の脱炭素社会に向けての取組は、官民が一体となる必要があり、中小企業も、もはや他人事ではありません。しかし、これを脅威ではなく大きなチャンスと捉えいち早く対応すれば、自社の競争力や優位性の確保に大きな影響を与えます。まだ取組が進んでいない企業は、自社の事業活動が存続し、より成長するために、早急に着手をしましょう。


*1:環境省 脱炭素ポータル「なぜカーボンをめざすのか?」より
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/#to-why

*2:経済産業省「日本の温室効果ガス排出量(2019年度)」より
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2021/003/#section2

*3:経済産業省 世界の温室効果ガス排出量(2018年)より
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-2-3.html

*4:環境省「温室効果ガス排出量 算定方法・排出係数一覧」より
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

著者プロフィール

片山 悦子(中小企業診断士、保育士)

大手電機メーカー、ITベンチャーで生産系システムの開発・導入支援を経て、保育系NPO・企業にて組織人材・働き方改革・現場運営管理に従事。得意分野は、働き方改革、組織人材、コンプライアンス、環境配慮経営。「カーボンニュートラル実践研究会」メンバーとして活動中。

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