自社にとって悪い情報がすぐに経営者に伝わる組織になっている
内部通報に対処し、問題の深刻化を回避
近年、内部告発をきっかけに国民生活の安心や安全を損なうような企業不祥事が発覚するケースが増えています。このため、そのような法令違反行為を労働者が通報した場合、解雇などの不利益な取扱いから保護し、企業の法令遵守経営を強化するために、公益通報者保護法が2006年4月に施行されました。
同法は、規模の大小を問わずすべての事業者に適用されます。保護されることになる法令違反行為は、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、JAS法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法など、政令で定められた433本の法律に違反する行為です(2011年1月現在)。
中小企業も同法の適用対象ですが、内部通報制度は普及しているとはいえない状況にあります(下図参照)。しかし、自社にとって不都合な情報が経営者に伝わらないと、早期に適切な対処ができません。そして問題が深刻化してから発覚すれば、企業の存続も危うくなるおそれがあります。
内部通報制度の導入からフォローアップまで
では内部通報制度を導入して機能させるにはどうすればよいのでしょうか。通報を受け付けて是正措置、フォローアップを行うまでのステップごとに、制度の導入における留意点をみていきましょう。
第1ステップは、通報の受付です。まず通報窓口を設置しなければなりません。顧客からの苦情窓口が兼務するのもひとつの手です。可能であれば、法律事務所など外部に設置することが望ましいでしょう。複数の中小企業が共同して委託することも考えられます。また、通報者に対して不利益な扱いをしないことを社内の規定などに明記する必要があります。なお、中小企業の場合は通報者の特定が難しくないことから、匿名での通報が多くなります。匿名でも対応できるような通報手段をとるべきでしょう。
第2ステップは、調査の実施です。通報者が特定されないよう調査の方法に配慮しなければなりません。
第3ステップは、是正措置の実施です。調査の結果、法令違反が明らかになった場合は、即座に是正措置と再発防止策を講じなければなりません。また必要ならば、関係行政機関や取引先、顧客などに報告を行ったり、関係者の処分を行ったりします。
第4ステップは、フォローアップです。第3ステップ終了後、法令違反などが再発していないか、是正措置や再発防止策が機能しているかを確認します。また、通報者が通報したことによって不利益な扱いを受けていないかを確認するべきです。
Case Study
クレームは仕組みとしてきちんと対応
顧客からはさまざまな情報がA社へ寄せられるが、中にはクレームもある。そうしたクレームは必ず社長まで届く仕組みをつくっている。そしてクレームの内容に問題が発見されるとPDCAの管理サイクルをまわして改善などにつなげている。
(攪拌機/混合機製造・58人)
企業と従業員の一体感をいかにつくるか
B社では持株制度を設けており、全員に同社の株を持ってもらい、利益を配当している。決算賞与は毎期営業利益の10%を出している。こうした報酬制度は従業員のやる気と連動しており、この仕組みを通じて従業員は、企業は自分の持ち物、共同体であると思うようになるようだ。
企業の業績は株主でもある従業員にすべて公開している。月別の決算書も全員に発表している。「受注・売上表」も発表しているが、これは企業の状況がすぐにわかるため従業員にとって影響が大きいという。毎月この表を全員に配っているが20年前から続けている取り組みだ。接待営業や接待ゴルフなどは一切やらないため、接待費はゼロを計上。税金も規則だからしっかり払う。「ものづくり」も納税も社会貢献としてやっており、どっちも同じなので両方ともしっかりやっていくという。
(振動計測装置等製造・23人)
Step Up
(1)自社の信用を大きく左右する業務について、担当者を定期的に交代させている
従業員が40人程度以上おり、組織としての体裁が整っている企業でなければ難しいかもしれませんが、従業員の担当業務や担当部署、担当取引先などを数年おきに交代させることが望ましいでしょう。そうすることで、不正に対する抑止効果が期待できます。また、担当業務などが時々変わることが、従業員にとっても新たな刺激になるという副次的な効果も期待できます。もちろん、担当替えの際には個々の従業員の適性などを見極める必要があります。
(2)問題が発生した原因を追及して、対応策を定めている
内部通報制度を定めることで、人為的な不祥事に対してはある程度の抑止効果があります。しかし内部通報制度の本質は、問題が大きくならないうちに把握し、再発しないように早期に対応策を構築できる点にあります。問題を起こした従業員に対して単に処分を科するだけではなく、問題が発生した原因を追及して再発しないように対応策を定めなければ意味がありません。例えば、法令を知らなかったことが原因であれば、法令の理解を深めるように勉強会などを開催しなければなりません。
さらに、内部通報制度よりも重要なことは経営者の姿勢です。日頃から企業倫理に則り、誠実な経営を率先垂範しなければなりません。そうすることで、従業員からマイナス情報も確実に伝わるようになるはずです。
近年生じた不祥事には、経営者自身に問題があったケースも少なくありません。そして経営者の規範に問題があれば、従業員も同様に規範はゆるみます。従業員は経営者の鏡だと考えるべきでしょう。