食品衛生管理を確かなものに~制度化されたHACCPを現場に取り入れる<後編>
前編では、改正食品衛生法の背景からHACCPの概要、これまでの衛生管理との違い、事業者が対応すべきことなどを中心に説明しました。後編では、HACCPの実務に必要となる7原則12手順についてお伝えします。
(掲載日 2020/10/02)
HACCPの7原則と12手順
食品衛生法の改正により、食品事業者は、衛生管理計画を作成し、必要に応じた手順書を作成し、実施状況を記録・保存し、これら計画と手順の効果を検証することが定められました。危害要因を見つけ(HA)、重要管理点(CCP)を管理し、その管理状態を監視・記録をすることが、HACCPに沿った衛生管理の骨格であり、大規模事業者は『HACCPに基づく衛生管理』、小規模事業者は『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理』をすることになります。
HACCPに沿った衛生管理をするには、国際食品規格等を策定しているコーデックス(CODEX)委員会が示す以下のHACCP7原則と12手順を踏まえ、規模に応じた対応をします。
最初の5つの手順は、原則を作成するための準備段階であり、その後の7つの手順がHACCPの原則です。この7原則に従って作成する計画を「HACCPプラン」といい、HACCPを運用するための基準やルールを文書化したものです。
手順1 HACCPチームの編成
チームを作る事はHACCP導入の第一歩です。製品を作るための全ての情報(原材料・製造方法、施設・設備の取扱いと保守、品質管理・品質保証)がチームに集まるように、各部門でそれぞれ実務に精通した人で構成し、合計6人程度を目安に選出することがポイントです。チームには、経営側の人も入れましょう。HACCPに関する専門的な知識を持った人がいない場合、外部専門家の活用も有効です。
手順2 製品の記述
製品の安全管理上の特徴を示すことが目的です。次の手順3「使用の記述」と合わせて製品の使用や特徴について「製品説明書」として、明確にします。
様々な項目(製品の名称・種類、原材料、添加物、包装資材、製品の規格、自社基準、保存方法、食べ方、対象者等)に分けて作成する必要があります。
手順3 使用の記述
自社製品が誰にどのように食べられる(使用される)のか、例えばそのまま食べる・加熱して食べるなど、明確にしておく必要があります。
使用する対象者(一般消費者・乳幼児・妊婦・高齢者等)の違いも考慮すべき点です。
手順4 製造工程図の作成
原材料の受け入れから出荷に至るまで、製造工程の流れを図にしたものを「製造工程図」と呼びます。原材料の受け入れから出荷までの工程の流れを上から順に、食品安全管理を念頭に書き出します。その後の危害要因(ハザード)分析を実施する基礎になるため、特に重要な工程(受入検査、加熱殺菌等)は漏らさず記入します。
手順5 製造工程図の現場確認
「製造工程図」完成の後、原材料の受入れから出荷までの流れ(製造工程フロー)を現場で正しいかどうか検証をしましょう。ヒト・物の流れを考慮する必要があるので、それらの動きが分かる実際の製造作業中に実施することも必要です。また記入の漏れやすい水の受入れやリワーク工程(作り直す工程)が抜けていないかを確認することもポイントです。
この手順5までが準備段階です。
手順6 原則1 危害要因の分析
いよいよここからが、HACCPプランになります。
「危害要因」とは、人の健康に悪影響を及ぼす原因となる物質または食品の状態のことです。危害要因は、病原細菌やウイルスなどによる「生物的危害要因」、残留農薬や食品添加物などによる「化学的危害要因」、工場由来の硬質異物などによる「物理的危害要因」の3つに分類されます。
危害要因分析とは、その危害要因の全てをリストアップする作業や、最終製品に危害要因を残さないための管理手段の考察を指します。分析は、原材料と製造工程に分けて考えます。ここで大事なポイントは、起こりうる潜在的危害を含め、できるだけ具体的に危害要因を書き出すということです。
手順7 原則2 CCP(重要管理点)の決定
CCPとは、危害要因を発生させないように、厳密にコントロールするポイントです。
工程ごとに、リストアップした潜在的危害要因を、リスクの大きさ等によって項目ごとにHACCPか一般衛生管理(PRP)で扱うかを決めます。そして、その理由を示してコントロール手段を決め、CCPであるかどうかを決定していきます。
HACCPで取り扱うとした場合は、必ずどこかでCCPを設定する必要があります。その際、工程全体を見て最良の手段を選びましょう。
CCPでは、作業時間や温度などの管理基準を設定(手順8)し、それを管理する(手順9)ことで危害要因を防止します。それでも、もし管理基準を逸脱してしまった場合には、あらかじめ決めておいた改善措置を講じる(手順10)ことで危害要因のコントロールが可能となります。
手順8 原則3 管理基準の設定
「管理基準(CL:クリティカル リミット)」とは、CCPが適切にコントロールされているかどうかの判断基準です。
管理基準の設定ポイントは、誰でも同じようにすぐ判断できるような、温度・時間・速度などを基準値として規制や科学的根拠等を元に設定します。
安全が保障できる限界(許容限界)と監視する方法(手順9)と、逸脱した際にとる措置(手順10)を決めます。
また管理基準を逸脱する前に早めに修正できるように、管理基準より少し余裕を持たせて値を設定しておく場合があり、これを運転基準(OL:オペレーション リミット)といいます。
手順9 原則4 モニタリング方法の設定
「モニタリング」とは、CCPが手順8 (原則3)で設定した管理基準で、しっかりコントロールされているかどうか監視・確認(観察、測定、試験検査)するといったHACCPでの管理運営をしていく上で最も重要な作業になります。
何をどのように測定するのか、連続か非連続か、測定間隔、記録の方法などを決定します。
ここで大事なポイントは、モニタリング担当者を選任する前に、HACCPへの理解を深めた十分な教育訓練が必要ということです。
手順10 原則5 改善措置の設定
「改善措置(是正措置)」とは、設定した管理基準から、逸脱した際にとるべき措置のことです。
安全を保障できない製品が消費者に渡ることを防ぎ、問題が発生した際にすぐに対応できるように、あらかじめ何をすべきかを決めておきましょう。改善措置を設定するポイントは次の4つです。
②復旧させるための短期調整(例:設定温度を上げる)
③原因の追及
④再発防止措置(例:機器の調整、モニタリング方法の変更)
また、実施した改善措置はしっかりと記録として残すことが必要です。
手順11 原則6 検証方法の設定
手順10 までに決めたこと(HACCPプラン)が有効に機能しているか、ルール通りに実施されているか、プラン自体の見直しが必要であるかどうかを検証する活動を指します。
「やっていることは正しいか」「やると決めたことをやっているか」の視点で考えます。
全製品が管理基準を満たしているか、管理基準を逸脱した際に、しっかりと対処されているかどうか責任者が確認する。
②使用している測定器は正確か
温度計・タイマー・秤などが正確かを管理し、定期的に狂いや精度を正す(較正)をする。
③モニタリング方法や管理基準は正しいか
作業方法の観察、CCP直後の抜き取り検査などを定期的に実施することで検証する。
④危害要因がコントロールされているか
モニタリングとは別の方法で確認する。(例:菌検査)
手順12 原則7 記録と保存方法の設定
HACCPプランや日々の管理状況などを記録および文書化しておくことで、HACCP実施を証明できると同時に、製造した食品の安全性に問題が発生してしまった場合に、製造工程や衛生管理状況をさかのぼって確認することができ、原因追及の際の大切な手助けとなります。
「実施した本人がその場ですぐに記入する」「誰がどのタイミングで記録を確認するか」といった記録のつけ方や、使用するファイルや保管期間、保管・保存場所などのルールもあらかじめ決めておきましょう。
おわりに
HACCP制度化の猶予期限まで1年を切り(2020年8月執筆時)、また新しい生活様式など、周囲の環境が大きく変わりました。こうした時だからこそ、消費者へ安全な食品をお届けするニーズはますます高まってくるでしょう。このコラムをきっかけに、みなさまの事業が拡がりますことを祈念しております。
参考資料
一般社団法人食品経営支援協議会「今すぐ始める食品衛生管理」
公益財団法人日本食品衛生協会「HACCP導入の手引き」
関連情報提供公的機関
厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/index.html
厚生労働省 食品等事業者団体が作成した業種別手引書
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00001.html
農林水産省ホームページ
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/h_about/
東京都福祉保健局 食品衛生の窓
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/