経営のさまざまな問題、あなたならどう解決しますか?
人は日常生活の中で様々な問題に直面し、解決を迫られています。論理的思考、フレームワークなど、役に立つ手法は多くありますが、本当に使いこなせていますでしょうか? これまでの実践から導き出した問題解決の考え方をお伝えします。
(掲載日 2019/03/06)
中小企業向け問題解決術
1、はじめに
人は日常生活の中で様々な問題に直面し、解決を迫られています。会社という組織の中でも、お客様のクレーム、売上げの低迷、設備故障など日々起こる問題に対して、的確かつ速やかに対応することが求められます。
私は長い会社生活の中で、行き詰まった時や新しいヒントが欲しい時、しばしば書店のビジネスコーナーに足を運びました。書棚には、問題解決や新しい発想法をテーマにした書籍、さらには論理的思考、フレームワーク、そして米国で生まれた管理手法(*)などを具体的に解説する、いわゆるハウツー本も数多くありました。私自身これらの本を通じ、確かに多くの情報を得ることができました。しかし、いざ実践の場で活用しようとすると、どれをどのように使えばいいのか、戸惑うことが多々ありました。読者の皆さんにも同じような経験はありませんか?
本コラムでは、私が日頃より試行錯誤しながら考えた「体験的問題解決術」についてお話したいと思います。ご参考となれば幸いです。
(*)IE(動作分析などにより能力向上を目指す活動)、QC(統計的手法を使い不良品をなくす活動)、VE(目的や機能に着目した代替案創造)など
2、認識の領域について考える
問題を解決するためには、問題やその原因を的確に認識することが必要です。本章では、それに深くかかわる「認識の領域」について考えてみます。
人は、過去の経験や知見、置かれている環境などで条件づけられた領域の中で生活しています。いわゆる自分が見聞きし、知っている世界です。これを既知の領域と呼びましょう。私たちの日常生活や会社の経営も、ほとんどの場合この領域の中で行われています。また、認識の世界には、既知の領域とは別に、普段気づかない未知の領域もあります。
会社の中で起こる問題の多くは、経験や知見(例えば、世の中の常識や慣習、自分の成功体験、思い込みなど)を使い、既知の領域の問題としてその原因を認識し、解決されます。ただ、社会が変化する中で、既知の領域にある経験や知見では的確に認識し、解決できない問題があることも事実です。その場合には、視点を変えて問題を捉え直すことが必要となります。未知の領域での検討です。問題やその原因を認識するにあたり、どちらの領域で考えることが適当か、いつも留意することが大切です。次章以降で既知と未知の領域での問題解決を、具体例で説明いたします。
3、既知の領域の問題解決術を考える
本章では、既知の領域で役立つ問題解決術を、事例を交えて考えてみましょう。
○事例1
小売店の場合 最近売上げが落ちてきた ⇒ その原因は近くに大型スーパーマーケットが開店したから。問題を認識していますが、原因を外部環境に求めています。これでは、解決策はスーパーマーケットを潰してしまえとなってしまい、解決策にはなりません。既知の領域での検討としては、来客数の回復や客単価の改善など自店舗営業強化を目指した解決策を検討することになります。特色ある品ぞろえ、豊富な商品知識や丁寧な接客などいろいろテーマがありそうです。
○事例2
製造業の場合 粗利が落ちている ⇒ その原因は不良品が多発してコストが上がったから⇒ その原因はきっと材料が悪いに違いない。これは過去の経験によった思い込み・決めつけにあたります。設備不良や従業員の作業にも問題があったかもしれません。
問題とその原因を、上記の事例のように理解、認識してしまうと、適切な解決策にはたどり着けません。それでは、問題やその原因を的確に認識するために、どんな問題解決術が有効なのでしょうか? お勧めは、ロジックツリー、MECE及びなぜなぜ分析です。耳慣れない用語かもしれませんが、ご安心ください。これらの用語を知らなくとも、読者の皆さんはその考え方を日常的に活用しているはずです。下図を参照ください。事例2に、上記三つの術を適用してみました。
一つ目のロジックツリーは、物事を大小関係や因果関係で階層別に整理する方法です。大量の情報を整理する時に役立ちます。左から右へ大分類⇒中分類⇒小分類という具合に事柄が細かくなります。
二つ目はMECE(モレなく、ダブリなく)という考え方です。ロジックツリー上では各階層におけるタテの関係性を表します。大分類を中分類二つの要素に分けた時、中分類の二つの要素が同じことを意味していないか(ダブリがないか)、また二つの要素以外に第3の要素は考えられないか(モレなく)を問います。
三つ目は、トヨタの改善活動で有名ななぜなぜ分析です。
最初の手順は、考えられる要素(原因)を列挙するために、問いを繰り返します。ロジックツリー上では左から右へ移行することを意味します。考えられる要素はいくつも上がってくるはずです。
二番目の手順は、一番重要と思われる要素(原因)の絞り込みです。会社にある様々な管理指標と照らし合わせ、原因を絞り込みます。下図の例でいうと、材料(小分類1-1)では納品時不良の有無を受け入れ検査表で確認し、また設備(小分類1-2)では設備トラブルの有無を操業日報で確認し、平時に比べ異常値がなかったどうかを調べます。
4、未知の領域の問題解決術を考える
前章では、既知の領域での問題解決をお話ししました。しかし、問題によっては、過去の経験や世の中の常識を生かしても、解決が困難な場合があります。前章の事例で考えてみましょう。
○事例1
小売店の場合 前述の如く、既知の領域内での検討では、特色ある品ぞろえや丁寧な接客など自店舗ありきの解決策を考えました。未知の領域での検討は、ちょっと視点を変え、自店舗でお客様を待つのではなく、外出に苦労する高齢者のもとへ出向く訪問販売を企画します。大型スーパーマーケットと競合しない分野への進出です。
○事例2
製造業の場合 前章では、材料が悪いと思い込んでいる事例として紹介しました。既知の領域での検討では、少なくとも製造現場での問題との意識があると考えられ、上図にあるように設備故障など製造現場の他の要因も検証される可能性は高いと思われます。未知の領域での検討は、粗利はそもそも製造コストだけで決まるものか? と視点を変えて販売面に目を向けることになるでしょう。粗利率の悪い商品を多く販売していた可能性もあるかもしれません。
未知の領域での検討では、考える視点を少しずらしてみる、変えてみること(多面的思考)がポイントとなります。事例1では、売上げを改善する策は自店舗販売だけなのか?という問いかけです。また、事例2では、製造現場や製造コストのみに着目していた考えに対して、待てよ、そもそも…と販売に目を向ける問い直しです。
5、おわりに
本コラムでは世の中に数多くある問題解決術を、私自身が直面した問題への対応に関係付けてお話ししました。ただ、本文中で取り上げた管理手法一つ一つには深く言及しておりません。よろしければ、関連書籍を一度手に取って、読者の皆さん自身で問題解決術を作ってはいかがでしょうか。