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「自立型社員」を育成する2つの秘訣

環境変化が激しく予測困難な時代において、経営者だけが時代を先読みし、社員は指示待ちでは、うまく環境変化に対応できません。社員が当事者意識を持って、自立的・能動的に行動を起こし、潜在能力を最大限に発揮するようになる仕組みについて、2つのポイントをご紹介します。

(掲載日 2024/02/14)

環境変化・人材難に対応する「自立型社員育成」の秘訣

現状のお困りごと

「言われた事しかしない社員が多い」「組織が大きくなってきて指示しきれなくなった」「リーダーが育たない」「人が定着しない」「優秀な人材を採用できない」など思い当たることはありませんか?


マーケティング概念と理念

皆さんの会社には、どのような社員さんが多いでしょうか。

 レベル4:会社の理念や経営方針を理解し、自ら判断して行動する【自立型*
 レベル3:一度言われた事は、次回からは指示されなくとも、自主的に行動する【自主型】
 レベル2:能動的に動けず、毎回指示を受けてから行動する【指示待ち型】
 レベル1:指示を受けても、自分一人では行動できない【指導型】

*自立型:他の助けや支配なしに自分の力で物事を行うことです。自らが立てた規範に従い行動する「自律」とは意味合いが異なります。


例えば、会社の玄関に空き缶が落ちていたとします。社長が通りかかり「片付けておいて」と声をかけたとします。

レベル1の社員は、不燃物の処理のルールがわからず空き缶を片付ける事ができません。先輩に指導してもらう必要がある段階です。新入社員の多くがレベル1に該当し「やり方」を指導(ティーチング)するマニュアルレベルの教育が有効です。

レベル2の社員は、空き缶を拾って不燃物置き場に持っていくことができます。でも、また翌週に同じように空き缶が落ちていたとしても、意識せずに通り過ぎてしまいます。

レベル3の社員であれば、先週指示されたことは、翌週は指示されなくとも、自ら空き缶を拾って不燃物置き場に持って行って処分するでしょう。レベル3の社員をレベル2に引き上げるには「気付き」「意識」を喚起する必要があります。気付きを促す手法としては、コーチング的な対話と傾聴が有効です(詳細は後述します)。

では、レベル4の社員はどうでしょうか。空き缶を処分するのはもちろんのこと、例えば玄関のドアが汚れていたらサッと掃除をするかもしれません。きっと、玄関でお客様とすれ違ったら笑顔で挨拶をするでしょう。私がお客様の立場なら、こんな社員さんがいる会社を選びます。

なぜ、ゴミを拾うだけでなく、掃除や挨拶ができるのでしょうか。それは、「やり方」を教えるマニュアルレベルの教育ではなく、会社の「理念」である価値感が浸透し「在り方」が定まっているからです。

自立型社員を育成する一つ目のポイントは「理念の浸透」です。



マーケティング概念からみる「求められる人材」と「理念の重要性」

皆さんはどのような人材を求めていますか?

上司に言われたことをきちんとやる、勝手な判断で行動しない、何か問題があれば直ぐに指示を仰ぐ、そんな社員でしょうか。以前はそのような人材が求められていたかもしれません。

実際、フィリップ・コトラーのマーケティング1.0や2.0(表1参照)の時代までは、そのような人材が戦略にマッチしていました。マーケティング戦略として、製品中心であったり、企業や製品のポジショニングが重要であったため、トップダウンでの統率が必要であったからです。

ところが、1990年以降、インターネットの普及と同時に市場も成熟し、製品が優れていることは当たり前になった中で、マーケティング3.0では「人間中心のマーケティング」と言われ、価値主導となりました。「どのような想いで作られたのか」「社会課題に対してどのような価値があるのか」というような企業の社会的責任も消費者から重要視されるようになり、企業は「世界をよりよい場所にすること」を目的(ミッション)に活動することが求められ、「企業のミッション・ビジョン・バリュー(表2参照)」自体がマーケティングのガイドラインになったのです。

その後、SNSやAIなどテクノロジーの進展に伴い、マーケティング5.0まで発展していますが、3.0で提唱された概念はベースとして存在しています。


表1:フィリップ・コトラー マーケティング概念の遷移

マーケティング1.0
【製品中心】
マーケティング2.0
【消費者思考】
マーケティング3.0
【価値主導】
目的製品の販売消費者満足と関係維持世界をより良い場所に
技術産業革命情報技術ニューウェーブの技術
コンセプト製品開発差別化価値
ガイドライン製品の説明ポジショニング企業のミッション・ビジョン・バリュー
『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャルメディア時代の新法則』(フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン、恩蔵直人、藤井清美(2010)、朝日新聞出版)を参考に筆者作成


表2:理念(ミッション・ビジョン・バリュー)とは

ミッションビジョンバリュー
意味使命・目的目標価値観・行動基準
内容Why(なぜするのか)What(何をするのか)How(どうやってやるのか)
時間軸過去に起因未来を設定現在の思考や行動
定義者創業者・経営陣経営陣社員を含む全員
※筆者作成


理念は売上向上にも 離職防止・新規採用にも効果的!

企業がお客様に発信する「エクスターナルマーケティング」において、理念(ミッション・ビジョン・バリュー)が明確に定まっていることで、ブランディングや差別化・顧客獲得などの効果を発揮します。

社員がお客様との接点で見出す「インタラクティブマーケティング」では、社員が理念を深く理解していることで、理念が浸透したサービス品質の向上や品質の均質化、自立的行動などが期待できます。

さらに、企業と社員の間の関係である「インターナルマーケティング」においては、社員のエンゲージメント(会社への愛着心や思い入れ)が向上する効果があります。従業員エンゲージメントが向上すると生産性が上がり、会社が成長・発展します。エンゲージメントは従業員と会社が対等な立場にあり、共に成長していく関係です。似た概念にロイヤリティ(会社に対する忠誠心)がありますが、こちらは主従の関係となり、会社のほうが強い立場にあります。忠誠心を煽る施策よりも、会社と共に成長でき貢献感や有能感を享受できる方が現代には適しています。

マーケティング概念からみる求められる人材とは、会社の理念に共感し、社員としても社会の一員としても、会社に愛着を持って、その理念を体現できる人材と言えます。逆に、社員の目線から言うと、社会からも社員からも共感できる「理念」を掲げた会社で、会社と共に成長できるような場所で働きたいということになります。

お客様からも社員からも選んでもらうためには、共感してもらう「理念」が大切であるということです。

このように、「理念」はお客様をファン化して売上に繋げ、社員から愛着心を引き出し離職の防止や新規採用にも効果を発揮します。

「理念を策定しよう!」と思われた場合、バリュー策定プロセスには社員を参画させることをお勧めします。社員がより自分ごと化して会社に愛着心がわき、自立型社員育成に効果的だからです。既に理念を策定している会社でも、バリューだけは社員を巻き込んで、毎年見直しをしている事例もあるほどです。

会社の理念を適切に体現できる人材は、企業の成長に大きく貢献します。



潜在能力を最大化する「コーチング」

先にお話した通り、レベル3の社員をレベル4に引き上げるには、「やり方」を教えるマニュアルレベルの教育ではなく、会社の理念・価値感を浸透させ「在り方」を定める教育や風土づくりが重要です。そして、まだ理念が浸透し切っていない社員に対しては、おりに触れて対話と傾聴を繰り返し、気付きを促す必要があります。それにはコーチング的な傾聴力や質問力を磨くことが近道です。

コーチングでは、コーチとクライアント(コーチングを受ける人)との対話が重視されます。コーチは質問を投げかけ、クライアントの気づきや自己理解を促すことで、クライアントが自ら解決策を見つけるサポートをします。重要なのは、コーチが先導したり強制したりするのではなく「答えは相手の中にある」ことを基本として、相手が主体性を持ちながらそれを実現するところにあります。

環境変化が激しく、日々現場の状況が変化する今日において、過去の上司の成功体験は、現在の正解であるとは言い難い状況です。現在の最適解は、「現場の社員の中にある」というマインドで社員の声を聴くことで、社員は自分への期待感や自分の有能感を感じとり、潜在能力を発揮できるようになります。

社員が理念に共感し会社と共に成長できるようにコーチング的な対話でサポートするのが上司の役割であり、環境変化・人材難に対応する「自立型社員育成」の秘訣です。

自立型社員を育成する二つ目のポイントは「コーチング的な対話と傾聴」です。


著者プロフィール

金岩 由美子(Executive Well-being Gym 代表、伴走支援塾 代表)

IT企業で33年間システム開発に従事し、最大100名・7億円規模案件のプロジェクトマネージメントの経験からIT技術に加えて、理念に基づく人や組織の活性化、お金や時間のマネージメントを得意としています。【資格】中小企業診断士、ITストラテジスト、キャリアコンサルタント、PMP(Project Management Professional)、理念実現パートナー®、CFコーチ®、コーチングマスタリー認定コーチ

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