新島特産「コーガ石」の建屋を活かして宿泊業へ進出
企業名:小久保自動車株式会社 取材先ご担当者様:代表取締役:小久保雅章氏

新島村の人口はこの30年で3割減少しており、乗用車の整備依頼も徐々に減ると予想され、事業の継続性に不安を感じて他の事業にも手を広げたが、台風やコロナ禍の影響により、思ったようには結果を出せずにいたが・・・
企業概要

小久保自動車株式会社(代表取締役:小久保雅章氏)は、新島の玄関口である新島空港から車で2分、前浜港から車で5分の場所に立地し、自動車整備を主たる業とする会社である。小久保氏の父親である先代が創業し、親の仕事を見て育った小久保氏が家業を引き継いで、今日に至る。現在は、代表の小久保氏、妻で村議会議員も務める利佳さん、ご子息の彰紀さん、その妻であるののかさんのご一家を中心に、親族以外のスタッフを加えた体制で運営している。
当社は、長い歴史の中で、新島のインフラである自動車の利用を支える存在として、信頼と実績を積み重ねてきた。小久保氏の代になってからは、レンタカー事業、ダイビングサポート事業(自社所有の船舶を用いてダイビングショップが行うボートダイビングのポイントへ案内する)など、新たな取り組みにも積極的にチャレンジし、事業の幅を広げてきた。
企業の悩み
新島村の人口はこの30年で3割減少しており、向こう30年も同じペースで減り続けると推計されている。乗用車の整備依頼も徐々に減ると予想され、事業の継続性に不安を感じて他の事業にも手を広げたが、台風やコロナ禍の影響により、思ったようには結果を出せずにいた。
そのような中、次の一手として、遊休資産であるコーガ石でできた建屋を改修して宿泊業を営むという案が生まれた。コーガ石とは、日本では新島だけで産出する火成岩である。軽量で加工しやすく断熱性・耐火性に優れるため、古くから建材として利用されてきた。ただし、現行法ではコーガ石を構造体とする新築はできず、昭和前期に建てられて現存する建屋は貴重である。それを改装すれば、希少で魅力的な宿泊施設にできそうだ。
しかし、宿泊業は当社にとっては未経験の分野である。そこで、観光業に詳しい専門家の支援を受けたいと考え、日頃から青年部などでつながりのあった商工会に相談し、本プロジェクトを利用することになった。
導き出された課題
観光業を専門とする専門家が選定され、新島に赴いて当社の経営分析を行った。
その結果、喫緊の課題は、既存事業の事業別の収益性を把握し、生産性を向上させて収益構造を強靱にすることであるという指摘がなされた。観光業は天候や感染症など自社の努力だけでは対応できない要因に経営が左右されやすく、観光業に依存すると経営のリスクは高くなる。
人口減少が進んでいるとはいえ、公共事業などの産業用を中心として底堅い需要が見込める自動車整備業を軸に、各事業の収益を管理しながら多角化を図ることで、親族が疲弊せずに安定した経営を続けていくことにつながるという趣旨であった。
今回の利用の直接のきっかけになった宿泊業への進出については、設備投資が多額になるため、楽観的な予測ではなくシビアな見方で収益計画を立て、必要な資金の調達を計画的に行うようにとの助言がなされた。
提案された解決策
経営分析の結果を踏まえて、引き続きアシストコースで課題解決に向けて支援を行うこととなった。
まずは総勘定元帳など既存のデータから各事業に関する数字を取り出して整理し、各事業において投下した費用や時間に見合った収益が得られているかを検証した。そのうえで、各事業におけるムリ・ムダ・ムラを減らして生産性を高めるためのポイントを抽出し、順次改善を図った。自動車整備業を例に取ると、作業手順や商品在庫を可視化して必要な見直しを行ったり、受け身の最低限の整備から提案型の整備にシフトして時間あたりの単価をアップさせたりといった工夫が挙げられる。
コーガ石でできた建屋を改修して宿泊業へ進出する案については、宿泊業では需要の予測や喚起が難しいため、手堅い読みに基づいた綿密な事業計画を一緒に策定した。
提案した中小企業支援施策
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その後の状況
引き続き、各事業の収支管理と生産性向上の取り組みを進めるとともに、各事業の安定的な継続に向けたアドバイスも行われている。例えば、ダイビングサポート事業では、所有する漁船が老朽化しておりトラブルが懸念されるため、あらかじめ知人の漁師と連携しておくことで機会損失を防止するなどである。あわせて、金融機関に当社の経営改善計画を提示し、既往の融資の見直しをするための準備も行っている。
観光業への進出に向けては、一部屋という小規模な施設に適した方法での集客とオペレーションについて相談し、準備中である。2023年11月には、同じコーガ石の家(宿泊施設に改修予定の物件とは別)が文化庁から登録有形文化財として登録され、今後のプロモーションのうえで好材料となりそうだ。
企業様の声
新島村商工会には、簿記の指導や融資相談など、フルサポートで支援を受けてきました。今回の支援では、各事業を客観的な視点で見直すことができ、様々な気付きがありました。観光業に詳しい専門家から、宿泊施設のオペレーションやマーケティングなどについて鋭い指摘や提案をいただけて、大変ありがたいです。
今後は、島のインフラの一翼を担う事業者として堅実に自動車整備業を経営していくとともに、島の経営資源を広く世の中に訴求し、自分たちの行動で島を前向きな方向へ変化させることで、故郷である新島に貢献していきたいです。商工会や専門家の先生には、引き続きご支援いただければ幸いです。
(代表取締役:小久保雅章氏)
支援者の声
小久保代表は、既存の枠組みにとらわれずに様々なチャレンジをされる方ですが、台風やコロナ禍などの影響で経営が思うように行かないところもありました。後継者である彰紀さんご夫妻が入社されたことや、宿泊業への進出の検討を始められたことから、専門家に一度診てもらうにはよいタイミングだと考え、本プロジェクトの活用をお勧めしました。
未経験の事業である宿泊業へ進出して成功させることは容易ではないと思います。既存事業の経営改善や資金面の対応も含めてトータルでサポートし、宿泊業も立ち上がりから収益性が確保できるように、継続して支援していきたいと思っています。
(新島村商工会:下井勝博氏)
企業情報
企業名 | 小久保自動車株式会社 |
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代表者 | 代表取締役:小久保雅章氏 |
創業年 | 1965 |
業種 | サービス業(自動車整備、レンタカー、船舶賃貸、宿泊) |
所在地 | 東京都新島村字川原113-1 |
事業PR | |
URL | https://kokubomotors-niijima.studio.site/ |
中小企業診断士 松林栄一