100 年続く未来へ、技術力の強みに 経営の知恵をのせて確固たる基盤を作る
企業名:有限会社アート銘板工業 取材先ご担当者様:代表取締役:相田光子氏
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当社は、1958年に光子氏の亡夫・深吾氏が独身時代に創業し、約15年前から「歴史ある当社が昔ながらの体制のままであることが、時代と合致していないのではないか?」と漠然と考えていたが、具体的なアクションには至らずにいたが・・・
企業概要
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有限会社アート銘板工業(代表取締役:相田光子氏)は、アルマイト銘板の製造を主に、ステンレス・真鍮の銘板の製造、スクリーン印刷等も行う加工業である。
当社は、1958年に光子氏の亡夫・深吾氏が独身時代に創業し、1971年6月に法人化した。当社が多忙を極める中、光子氏は子ども達を車の後部座席に乗せながら営業先を回るなど、代表取締役の深吾氏を支え続けた。約25年前、深吾氏の体調不良を機に光子氏が代表取締役に就任した。現在は、長男で製造現場と営業に精通する専務の相田智克氏、長女で人事労務担当の相田真澄氏、智克氏の妻で経理担当の美千代氏が在籍し、智克氏を中心とする親族3名へ、徐々に家族内承継を進めつつある。
当社の強みは、難易度が高い0.1mmの薄型アルマイト処理板のエッチング加工を高品質で実現する技術力であり、その技術を応用して他分野に裾野を広げている。また、取引実績がある企業は100社を超えており、受注機会の確保につながっている。
1976年2月には、最終顧客である防衛庁(現・防衛省)より、航空機等における銘板類の陽極酸化被膜処理について、認定工場として認められた。以降は3年ごとに関連会社による監査にて各種検査規定に合格し、技術力の高さが裏付けられている。
企業の悩み
光子氏および親族3名は、約15年前から「歴史ある当社が昔ながらの体制のままであることが、時代と合致していないのではないか?」と漠然と考えていたが、具体的なアクションには至らずにいた。2022年に調布市商工会員としてイベントに参加した際、会員同士の会話の中で、他社が商工会への相談に積極的な状況を知り、以前からの思いを強めた。
2023年春、光子氏と真澄氏が調布市商工会に立ち寄った際、定期開催の相談会が偶然その日に開催されており、待ち時間なく中小企業診断士に相談できるとのことで、積年の悩みを打ち明けたところ、専門家による経営分析を受けられる本プロジェクトを紹介された。
導き出された課題
経営分析の結果、指摘された課題は、①経営理念・事業計画の見える化、②価格改定・外注費削減、③販路拡大、④作業の効率化、⑤人材確保・技術継承の5点である。
企業永続のためには、従業員全体で共通の価値観を持ち、将来に向けて一体となって取り組むことが重要である。そのために3~5年後の目指す姿を明確化する必要がある。
次に、水道光熱費や原材料費が値上がりする状況でも売上とのバランスが取れるよう、価格改定と原価低減が重要である。
また、当社が持つ特殊技術をアピールし、新規顧客へとアプローチすることで、更なる経営リスク低減、および売上向上につなげる必要がある。
当社は多品種小ロット生産が多く、動線の見直しや、整理・整頓・清掃の3S活動による作業効率向上により、新規顧客・受注に対応できるようにすることが重要である。
さらに、マンパワー不足に加え、従業員の高齢化が進んでいるため、魅力ある企業作りや若手への技術継承を進める必要がある。
光子氏は、親族3名と共に、これらの課題を解決するため、本プロジェクトのアシストコースを活用することにした。
提案された解決策
最初に、親族3名を含むプロジェクトチームを立ち上げ、経営理念の策定に着手した。経営理念とは、当社の存在意義を全従業員で共有するものである。以前から会社への思いを従業員に伝える場面はあったが、明文化されたものはなかった。光子氏は従業員を大切にしたいという思いが強く、普段から声がけを絶やさずにいる。光子氏の思いを反映できるよう、チームメンバーで思いを共有したうえで、以下の2箇条を作り上げた。
・ 従業員、顧客、取引先を大事にし、モノづくりを通じて社会に貢献する
・ 人と人とのつながりを大切にすることで信頼関係を築き、すべてのお客様に対し誠心誠意対応する
並行して、価格改定への対応を進めた。取引先ごとの折衝が必要で、旧来の取引先ほど進めにくい側面があるが、専門家からのアドバイスを受け、各取引先に価格改定時期を明示する取り組みを進めている。また、自社対応の体制を増強して外注費を削減すべく、同業他社の廃業に伴う不要設備の導入を検討し、準備を進めている。
作業効率化については、社内で3S委員会を立ち上げて活動を推進する中で、従業員への呼びかけが功を奏し、整理・整頓・清掃の習慣化が進むなど、活動が結実しようとしている。
提案した中小企業支援施策
- アシストコース(中小企業活力向上プロジェクトネクスト)
課題解決のために支援を必要とする企業に対して、専門家を無料で派遣します
その後の状況
これまで智克氏ら親族3名は、「言わぬが花」と考え、思っていることをお互いに打ち明けずにいた。しかし、今回の支援を機に、チームメンバーが思いの丈を第三者である専門家に打ち明けることができた。そして専門家がその内容を拾い上げ、体系化・見える化することで、明文化を支援した。まとめられた経営理念と経営課題の内容に、チームメンバー全員が納得できた。内容を自分ごととして捉えられることで、従業員の視座が高まり、経営層と一体となって事業計画策定に取り組むことができるようになった。
2024年2月のアシストコース完了に向けて、3~5年後を見据え、経営課題の解決を更に推し進めるための中期計画を策定中である。人材確保・技術継承についても中長期的な取り組みが必要であり、その点も計画に組み込む予定である。
企業様の声
これまで、時代とともに変えるべき部分があっても、何をすればいいか、わからずにいたのが正直なところですし、みんなの本音が聞けずにいた現状がありました。アシストコースを推進して、一人一人が言葉に表すことの大切さと、その内容を専門家によって経営課題に落とし込んでいただき、改善につなげられることの有り難さを感じました。
このまま専務たちの取り組みを進めていければ、経営として時代に追いつき、地域に愛される、いい企業になっていくと期待しています。50 年と言わず、100年続く企業にしていってほしいと思います。
(代表取締役:相田光子氏)
支援者の声
支援前から、0.1mmの薄型アルマイト処理板エッチング加工を、高品質で実現する技術力、という確固たる強みがあるのが素晴らしいと思っていました。事業計画書の作成においても、プロジェクトメンバーの皆様が自社の未来を真剣に考えて策定しているのを感じます。また専務は、製造現場と営業の両方に強く、思いを背中ではなく言葉で語れる方だと感じました。取り組みが結実すれば当社はステップアップできると思います。引き続き支援のお手伝いをさせていただき、100年企業へ永続的に発展するための後押しができればと思います。
(調布市商工会:冨安光次氏)
企業情報
企業名 | 有限会社アート銘板工業 |
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代表者 | 代表取締役:相田光子氏 |
創業年 | 1958 |
業種 | 製造業(銘板・印刷加工) |
所在地 | 東京都調布市深大寺南町3-7-1 |
事業PR | |
URL | https://www.art-np.com/ |
中小企業診断士 木内義貴