社員を社内外の勉強会やセミナーに積極的に参加させている
社内勉強会と社外教育のメリット
人材育成に熱心な企業を訪問すると、従業員が自主的な勉強会を頻繁に開催している例が多くあります。日本の職場ではチームで新しいことを考え出すことが多く、個人的に学ぶなかで個人の内面に蓄積している知識をそれぞれが出し合って共有化して議論しています。それに対して、米国企業では個人主体で知識創造を行うといわれており、その分、さまざまな分析手法やプレゼンソフトを使った手法や、文書、マニュアル、コンピュータ・データベースなどの活用が進んでおり、それによってつくられる共有された知識が重視されているといわれます。
日本企業の強さはチーム力とよくいわれますが、その背景には自立した個人がワイガヤで議論しながら切磋琢磨していく、自由な勉強会が大きな役割を担っており、進んだ企業では教材などを経済的に支援し奨励しています。とはいえ、自主的な勉強会が動き出すのはそう簡単な話ではありません。むしろ、社内での勉強会・研究会を定期的に開催して、その準備のために、自主的な勉強会を連動させることのほうが現実的です。
また、社外での教育の場も重要です。近年では、技術者については継続教育が重要視されるようになっており、専門家団体である学会の研究会・講習会への参加や学会発表などが継続教育のポイントとして加算され、登録されるシステムも動き始めています。専門性に磨きをかけて、社会的通用性を持ちたいと考えている自律的な技術者にとって大きな動機づけとなってきています。このような技術者は企業内にとどまらず、専門家同士のネットワークを通じて最新の情報を得て、自分自身の専門性を向上させるだけでなく、企業にもその成果を還元してくれるのです。
社外交流のゲートキーパーが課題解決の糸口に
技術者に限らず、企業の外との交流の窓口が担える人材(ゲートキーパー)は社内に一定人数の蓄積が必要です。中小企業の場合は社長が一手に引き受けることが多いのですが、それでは社長の身体がそうそう持ちません。社内の核になる人材にその役割を担ってほしいものです。そのためには継続教育を念頭に置いて、核になる人材を育てなくてはなりません。多くの研修機会がありますが、手をあげさせて積極的に参加させることが大事です。
特に、3年から7年ぐらいの中堅の一般社員は実質的に現場での役割・期待が大きくなり、日常の仕事に忙殺されて、研修の機会に恵まれないケースが少なくありません。また、この層は日常の仕事に対してマンネリ化している可能性も高いといえます。その意味からも日常的に刺激を与えることにもなるため、外部での研修を受講させるなど、社外の空気に触れさせることが大事なのです。
しかし、単に受け身で研修を受けるだけではなく、いろいろな出会いを通して、切磋琢磨できる人材のネットワークを構築してくることを義務づける必要があります。特に、職能別の専門教育を行っているような機関に送り出すのが効果的です。例えば、人事担当者の長期研修に参加している例では、人事企画を担当して、新たな人事制度をつくる時に、それが自社に合っているかを検討するためにいろいろと調べるものですが、研修を受けた仲間である他社の人事担当との情報交換がきわめて有効な情報を与えてくれ、参考になります。
このような利害を超えた関係を構築できるのは、一緒に学んだ仲間との意識が働くからです。人的なネットワークでは濃密な強い関係(社内)も大事ですが、堂々巡りで結論が出ないような問題を解決する糸口に関しては、弱いつながりで、利害関係を超えたような人的ネットワーク(社外)が重要な役割を果たすのです。短期的な視点で考えず、中長期的に従業員を育ててくれる、社外の教育の場に積極的に送り出す度量が経営者には欲しいものです。
Case Study
社内外での勉強の場は工夫次第でいろいろできる
R社が中心となる共同受注グループでは3人の技術顧問と契約しており、合宿形式の研修会も開いている。技術顧問は大手メーカーの技術者OBなどだ。研修では金型に限らず工程管理の勉強などもしている。現場の従業員は社外で行われる外部研修に派遣して教育することはできないので、自社で教えてくれる人が来てくれるとありがたい。
(プラスチック金型設計製作・13人)
メーカーであるS社の得意先小売店における研修では、注文取りと商品補充のほか、店長の声を聞くようにもさせている。生産現場研修では中国にある工場を見せている。製品がどのように作られるのかを理解させ、それを製品開発に生かすためだ。
(文房具製造・136人)
Step Up
(1)従業員主導で全社的な発表会をやっている
組織のメンバーには、事情が許す限り、個人のレベルで自由な行動を認めるようにすべきです。その自律性によって、個人が新しい知識を創造するために自分自身を動機づけることが容易になります。個性ある独自のアイディアが自律的な個人から生まれ、それがチームのなかに広まり、やがて組織全体のアイディアとなるのです。全社的に広めるためには、全社的な発表会が効果的ですが、従業員にもっと関わりを持たせるには、従業員主導で発表会の企画から実行まで任せるほうがよいでしょう。
自主的な活動として、QCサークルがあります。もともとは個人やグループの自律的な活動から生まれましたが、ノルマを与えられたことによって自律性を失い、低迷している例が少なくありません。自律性を尊重した発表会であることが動機づけにもなります。
(2)外部の研修情報を従業員に公開し、参加希望を募っている
世の中には多くの教育訓練機関が存在しますが、安いことを売りにして内容的には問題のある研修も少なくありません。受けてみなければ、その質を推し量ることが難しいからです。有名な講師が来ても雑談をして、内容のある話が聞けなかったということが少なくありません。せっかく、忙しいなかで研修を受けるわけですから、厳選して従業員に伝える必要があります。そして、従業員が自ら参加したいと手をあげられるように、外部の機関で行われている研修情報を公開することが重要です。従業員が食事をする場所への掲示や管理・監督者に回覧して、朝礼などの場で紹介するなど情報を積極的に提供し、企業にとっても重要な研修であるなら指名で行かせることも必要でしょう。