独自の世界観とこだわりはそのままに、家具のオリジナルブランドづくりへの挑戦

企業概要

遼有堂（代表：峯岸遼有氏）は、小作駅西口から徒歩20分の多摩川沿いで木工家具製造業を営む。代表の数寄屋づくりの高い技術力と独自の感性を活かしたデザイン力により、お客様一人ひとりのニーズに寄り添い、細部に至るまで徹底的にこだわった高級感ある1点ものの木製品を提供している。
峯岸氏は、音楽の道を志しバンド活動をする中で木材の力に魅力を感じ、大工に転身。3年間の修行を経て、2007年に開業した。伝統的なお茶室をつくる数寄屋大工としての修行経験を原点に、モダンなデザインを織り交ぜ、独自の世界観がある建物や店舗等の大型のものから、家具やうつわ等の小型のものにいたるまで、あらゆる木製品を製作している。飲食店等からは、遼有堂に依頼をするだけで、一体感のある洗練された店舗ができあがると評判だ。

企業の悩み

開業以来、峯岸氏の数寄屋づくりの高い技術力と独自の感性をいかしたデザイン力を背景に、リピーターの獲得と口コミによりお客様が広がり、順調に売上を伸ばすことができた。
しかし、峯岸夫妻は、遼有氏が経験と年齢を重ねるにつれ、多くの時間を費やして製作した製品を1点もので終わらせるのはもったいないのではないか、大好きな製作活動を末永く続けるには、体力面の配慮や経営の安定化のために仕事のやり方を見直す必要があるのではないか、と考えるようになった。そして、これらの悩みを解決するために、オリジナルブランド（定番製品）をつくりたいという想いが募っていった。これまでの1点ものの製作で培ってきたあらゆるノウハウを活用することができ、一度製作経験のある製品であれば短時間での製作も可能で、事業の見通しも立てやすいと考えたのだ。
しかし、日々の1点ものの受注への対応が最優先ではあった。忙しい中では、頭の中で考えてはいるものの、具体的に想いをどのように形にし、製作・販売していけばよいのかわからず、何年もの間、前に進めることができなかった。
そこで、2021年、数年来の付き合いであった青梅商工会議所に相談したところ、専門家の支援を受けられる「中小企業活力向上プロジェクトネクスト」（本プロジェクトの前身事業）を活用してみてはどうかとのアドバイスを受けた。ほぼ同時期に、ようやく探し続けてきた弟子が見つかり迎え入れたことは、専門家の支援を活用してオリジナルブランドづくりへの挑戦を前に進めるうえで大きな後押しとなった。

導き出された課題

経営診断の結果、導き出された主な課題は、①現在の受注から製造までの標準的なプロセスを見える化・共有化すること、②どのようなオリジナルブランドをつくり、どのように製作・販売していくか具体化すること、③将来的な目標を具体化すること、の3点である。
オリジナルブランドづくりを成功に導くためには、代表が担っている全工程を見える化・共有化し、代表以外に役割を分担する取組が必要とされた。また、どのようなオリジナルブランドをつくり、どのように製作・販売していくか、具体的に検討する必要があった。さらに、これまで結果を見返す程度であった原価等も確認し、定量面・定性面を踏まえた将来的な目標を具体化することも課題であった。
峯岸夫妻は相談し、これらの課題を解決するため、本プロジェクトのアドバンスコースを利用することにした。

提案された解決策

アドバンスコースを利用して、オリジナルブランドづくりを成功に導くために、専門家から具体的なアドバイスを受け、課題解決に取り組んだ。
まずは、代表が1人で担っており、代表の頭の中にあった全工程を1つ1つ確認しながら見える化。関係者全員で共有し、話合いをしながら、役割分担をおこなった。
次に、オリジナルブランドづくりのために、ブランドコンセプトの決定、コンセプトにあわせた製品の絞り込みや、どのように販売していくか等、話合いをしながら具体化していった。
最後に、将来的な目標を具体化した。オリジナルブランドづくりを成功に導くために、具体的な取組内容を設定し、いつ、何をやるか、おおよそ3か年の計画を立案した。また、予め原価を意識した素材選びができるよう、損益計算や原価計算の考え方の教示を受けた。なお、オリジナルブランドの製作は、一度製作経験のある製品なので原価管理も取り組みやすいことを確認した。

提案した中小企業支援施策

その後の状況

日々の1点ものの受注への対応が最優先となるため、専門家との打合せ時間が確保できない時期もあったが、粘り強く話合いを繰り返し、オリジナルブランドづくりを成功に導くための新たな経営方針を決定することができた。今回、専門家の支援を受けて、峯岸夫妻は、オリジナルブランドづくりへの挑戦が、頭の中で想い描く夢ではなく、具体的に実現可能なものとして確認することができて、納得して前に進むことになったのだ。
峯岸氏は、これまで、職人として「人に任せてはおけない」との思いもあり、全工程を一人でこなしてきた。しかし、今回の支援を通して、頭の中にあることが具体的にグラフや言葉等にされたことで、本当に役割分担が実現すれば、オリジナルブランドの試作品づくり等の新しいことに費やす時間ができそうだ、と納得して一歩を踏み出せた。今では、経理面やデザイン面の一部は奥様の利江氏が、技術面の一部は弟子が担当している。
現在、これまでの1点ものの製作で培ったノウハウを活用しつつ、独自の世界観とこだわりはそのままに、テーブルや椅子等の家具のオリジナルブランドをつくる方向で準備が進んでいる。オリジナルブランドの認知度向上を目的に、これまでためらっていた展示会への出展や、オークションサイトへの出品等を計画中である。

企業様の声

オリジナルブランドをつくりたいという想いはあったものの、どのように進めていけばよいかわからず時間ばかりが経っていきました。今回、支援を受け、想いが具体的になることの凄さを実感しています。オリジナルブランドづくりに向けて、専門家に話をしながら、想いを引き出していただき具体化することで、実現可能なものとして納得して前に進めることができました。
今後も相談しながら、決めた目標に向かって進んでいきたいです。そして、3年後には、オリジナルブランドに携わる時間が半分以上を占めるほど、オリジナルブランドが軌道に乗っている状態を目指したいと思います。
（代表：峯岸遼有氏、奥様：峯岸利江氏）

支援者の声

遼有堂様の作品力とご夫妻の優しい人柄にひかれ、一人のファンとしても支援を続けてきました。これまでは個別のご支援が中心でしたが、今回は、遼有堂の経営にとって大きな転機になると感じ、全体像を踏まえつつ長く支援ができる本プロジェクトをお勧めしました。オリジナルブランドづくりの成功に向けて、具体的な方針をお示しできたと思います。
峯岸様には楽しみながら末永く製作を続けていただき、より多くの人に遼有堂の作品に触れてほしいと思っています。これからも飛躍に向けて支援を続けていきたいです。
（青梅商工会議所：神田晶江氏）

企業情報

中小企業診断士　関谷由佳理