5期連続増収を達成した精密切削加工業がさらに成長するために
企業名:三鎮工業株式会社 取材先ご担当者様:代表取締役: 山田浩司氏
「課題を残したまま引退するわけにはいかない」と考え、解決できる課題には率先してメスを入れていき、なるべくベストな状態で子息に事業承継したいと考えていたが…
企業概要
三鎮工業株式会社(代表取締役:山田浩司氏)は、主に精密切削加工品を手掛けており、エアコンに使われる電動弁部品や、一眼レフ用レンズのフォーカスリング部品等、多岐に渡る精密部品を製造している。強みは、精密切削加工を量産できる生産体制である。オートメーション化された50台以上のNC自動旋盤機が24時間稼働し、納期面・品質面で顧客の要求に応えている。
2代目社長の山田氏は、「真面目にきちんとやっていれば、誰かが見てくれている」 という信念を貫き、時代に合わせた積極的な設備投資を行うことで、切削加工技術力を継続して高めてきた。取引先からの信頼も厚く、量産引き合いが多数持ち掛けられている。直近5期は連続して最高売上げを更新し、2018年10月決算期は5年前のほぼ2倍の売上高を記録した。
企業の悩み
三鎮工業株式会社を増収増益企業に成長させた山田氏だが、2つの悩みを抱えていた。1つ目は、生産管理面である。現状、顧客から来た注文に対し、生産計画の立案をベテランの従業員に任せている。生産計画は、今までの経験で培った勘に基づいて立案し、紙ベースで管理するという方法によっている。そのため、ノウハウや経験の少ない若手の従業員が生産計画を立案することが難しく、ベテランの従業員に依存せざるを得ない状況だった。
2つ目は、従業員の評価方法である。今までは、山田氏1人で従業員の評価を行ってきた。一言に従業員と言っても、製造、品質管理、生産管理、間接業務等、与えられた役割は異なる。そのため、評価されるポイントや求められるスキルも、従業員ごとに異なる。従来のやり方では、すべての従業員を公平に評価することは難しかった。山田氏は「評価方法を見直し、若手人材でも優秀であれば評価される仕組みにすることで、社内全体がもっと活気立つのではないか」と考えていた。
山田氏は、4年後をめどに子息に事業承継することを計画し、準備を始めている。「課題を残したまま引退するわけにはいかない」と考える山田氏は、解決できる課題には率先してメスを入れていき、なるべくベストな状態で子息に事業承継したいと考えていた。その第一歩として、本プロジェクトの経営診断を利用するに至った。
導き出された課題
経営診断の結果、生産管理面・人事評価面において従来までのやり方を見直し、今の時代に合わせた仕組みにすることが課題となった。具体的には、①紙ベースで行っていた生産計画立案と生産管理を、コンピュータ上で実行できる仕組みを構築すること、②従業員の役割に応じた評価基準を明確にし、公平な評価ができる仕組みを導入することの2 つである。
このうち①については、取引先からの要求でもあった。主要取引先からトレーサビリティの確保に対する要求が出ていたのだ。トレーサビリティを確保するためには、使用した材料のロットナンバーを管理し、万が一製品に問題があった場合には、製造ロットから材料ロットを追跡できる必要がある。新たな生産計画・管理の仕組みの構築は、取引を継続していくための喫緊の課題であった。
提案した中小企業支援施策
当社からの要望により、本プロジェクトの成長アシストコースを利用して、専門家から具体的なアドバイスを受けながら、課題解決を進めていくことになった。
はじめに取り掛かったのは、生産計画立案と生産管理の方法の見直しである。まずは、新たに生産管理パッケージソフトの導入を行い、今まで紙ベースで行っていた生産管理を、データベース上で行うように変更した。これにより、指示書ごとの進捗や機械ごとの余力等をリアルタイムで確認できるようになり、経験や勘に頼らずに生産計画を立案できるようになった。
並行して取り組んだのは、人事評価の見直しである。従業員の評価基準を「見える化」するために、部署と役割ごとに習得力量評価表を作成した。習得力量評価表は、その職務に従事する上で求められるスキルが記載されたチェックリストになっている。チェックリストの項目ごとに、被評価者が自身を振り返る自己評価欄と、直属の上司・社長の評価欄も設けた。また、自己評価と客観的な評価をすり合わせるために面談の場を設け、多面的に人事評価ができる仕組みも構築した。
その後の状況
生産計画立案・管理の方法を見直したことによって、生産現場では大きな変化が起きている。今まで紙ベースで行っていた生産計画立案・管理をデータベース上で行えるようになったことで、ペーパーレス化につながった。PCの画面で生産の進捗状況をリアルタイムで確認できるようになり、効率性が大幅に向上した。また、製造・材料ロットもデータベース上で管理できるようになり、取引先から要望のあったトレーサビリティの確保もできるようになった。
加えて、人事評価の見直しを行ったことにより、従業員の意識も変わりつつある。新たに習得力量台帳を導入したことで評価基準の「見える化」につながり、従業員を公平に評価できるようになった。また、前期の評価査定時と比較して、新たに習得した部分を確認することができ、従業員が当期に努力したプロセスも評価できるようになった。評価方法を見直した結果、従業員は次の評価査定期間を意識するようになり、目標意識を持って仕事に取り組むことにつながっている。
山田氏は、「新たな評価方法は、すぐに業績向上に大きな効果をもたらすものではないが、継続していくことで、より活気があふれる職場にしていきたい」と考えている。
企業様の声
三鎮工業株式会社は、1955年から精密切削加工一筋で事業を続けてきました。取引先や業界ニーズに合わせた意思決定を行い、設備投資をするために多額の借入れをすることもありました。近年、取引先からの量産ニーズはさらに高まっており、工場を24時間体制にして対応しています。生産性を高めるためにオートメーション化も進め、22:00から翌8:00までは無人で稼働しています。
生産管理と人事評価については、前から改善したいと考えていたものの、知識やノウハウが無かったので、今回の成長アシストコースを利用して良かったと思っています。
今ある課題を一つ一つ解決して、事業承継をスムーズにおこなえるように取り組んでいこうと思っています。
経営指導員の声
三鎮工業株式会社は、直近5期連続で最高売上げを更新し、継続して成長を続けています。ますます大きな会社に成長してほしいです。
社長の山田様も仰っているように、今後の課題はご子息への事業承継だと思います。社長は根っからの技術者なので、まだ従業員が社長の技術力に依存してしまっている部分があります。今後、社長の技術をどのように「見える化」をして伝えていくのか、一緒に考え、さらに会社を良くしていきたいと思っています。
(羽村市商工会:市川哲史氏)
企業情報
企業名 | 三鎮工業株式会社 |
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代表者 | 山田浩司 |
創業年 | 1955 |
業種 | 製造業(精密切削加工) |
所在地 | 東京都羽村市神明台4-10-10 |
事業PR | |
URL | http://www.sanshin-i.com/ |
中小企業診断士 内田喬也