変化する市場ニーズに対応する企業へ ~創業110年の老舗企業が生まれ変わる~
企業名:平紐工業株式会社 取材先ご担当者様:代表取締役社長 伊藤 直樹 様
競合企業がまだ少なかった高度経済成長期の名残もあり、伝統的に受け身の営業スタイルになっていた。高付加価値の包装資材を提供したり等、時代の変化に合わせて新たな取り組みも行ってはいるものの、それらの売上はまだ一部に留まるが……
企業概要
平紐工業株式会社(代表取締役:伊藤直樹社長)は、明治36年、現社長の曾祖父が東京市京橋区(現東京都中央区)に設立した、結束用の綿糸製平紐製造業を起源とする。その後、昭和6年に株式会社化し、現社長の祖父が社長に就任。以来、現在まで続いている。
昭和40年代には結束用テープの新しい素材として発泡延伸ポリプロピレンフィルムが登場し、生産力増強のため山梨県上野原市に工場を開設・増強した。平成8年には、それまで専務であった直樹氏が社長に就任。現在は、「伝統に培われた新しい技術で新たなニーズに対応する」をテーマとして、変化し続ける顧客ニーズの取り込みを図っている。
当社の強みは、原料から製品までの一貫生産体制と、小回りを効かせた小ロットかつ短納期対応である。その製品は、段ボール箱の開封を手だけで簡単に行える「段ボール・製袋開梱用粘着テープ」、洗剤箱の把手に用いる「カートン把手用バンド」など、誰もが一度は目にしたことのあるものに幅広く使われている。
企業の悩み
近年は包装簡素化の流れが顕著になっていることに加え、以前は海外で製造した商品を国内で梱包していた企業が、海外で梱包まで済ませて日本へ持ち込む動きも出てきていること等から、国内の包装用資材需要は縮小を続けている。当社がバブル期まで増設してきた工場の生産力が過剰となり、次第に採算性が低下してきていた。
当社はメーカー等との直接取引が主体であり、いわゆる下請け企業ではない。ただし、競合企業がまだ少なかった高度経済成長期の名残もあり、伝統的に受け身の営業スタイルになっていた。近年では雑貨店にパーソナルラッピング用のセットを提案・販売したり、製菓・製パン用に和の風合いを活かした高付加価値の包装資材を提供したり等、時代の変化に合わせて新たな取り組みも行ってはいるものの、それらの売上はまだ一部に留まる。
このような状況下にあって、商品戦略、販売戦略、従業員育成、2工場体制の効率化について専門家に相談したいという思いから、商工会議所を通じて当事業の企業診断を利用するに至った。
導き出された課題
中小企業診断士による企業診断の結果、長年の包装用平紐製造で培ったノウハウと川上指向の経営の良さが改めて確認された。その一方で、事業基盤に安住して環境変化に十分対応しきれていないという現状を踏まえて、市場ニーズの多様化に対応する「川下を指向した成長戦略の策定」と「それを支える管理システムによる『経営の可視化』」の両面の取り組みが必要であることが指摘された。
そのための具体的な取り組みとして、①経営理念の再定義(事業の定義を機能性から行い、事業領域を明確化。幹部会で議論を深める等し、全社的な命題として浸透させる)、②市場直結型組織への変更(これまで未設置であった営業部門の新設、中間管理職を育成して各リーダーへの権限移譲を進める)、③生産効率向上(単品管理による正確な採算性把握、本社工場と山梨工場の統合によるリードタイムの短縮・ロスの低減による収支改善)の3点が提案された。
提案した中小企業支援施策
中小企業診断士からは以下の支援施策の紹介を受けた。商工会議所の経営指導員と相談した結果、経営理念の見直しや組織の変更など、一筋縄にはいかない課題にじっくり取り組むため、定期的に専門家の派遣を受けて進捗状況を確認しながら進めていくことになった。
エキスパートバンク(専門家派遣) 東京商工会議所
年度内に3回まで無料で専門家の支援を得られる。当社の場合、本プロジェクトの企業診断を担当した中小企業診断士に、引き続きサポートを受けることとなった。
専門家派遣制度 東京都中小企業振興公社
中小企業の抱える経営課題について、公社に登録されている幅広い分野の登録専門家の中から、課題解決に適した専門家を派遣して支援する制度。1テーマにつき最大8回まで派遣可能。
その後の状況
当社では、中小企業診断士のアドバイスのもと、以前は社長以外1人もいなかった営業担当者を1名設置し、顧客のニーズや商品の流れを詳しく取材し始めた。「平紐工業はこういうものを作っている」という話をするのはなく、顧客企業の強み、当社製品の用途や評価、困っていることなどをヒアリングしたうえで、顧客の悩みを解決するための提案を行えるようになった。顧客ニーズがつかめてきたことで、今後の事業領域に関する話し合いも具体性を持って行えるようになってきた。新たな経営理念と中期経営計画がもうすぐ完成する見込みである。
『経営の可視化』については、汎用のパッケージを導入し、単品まで掘り下げた採算性管理ができるようにするとともに、ITを苦手とする高齢の従業員もいることを考慮して、紙ベースでの見える化も並行して行っている。あえて紙で見る習慣を付けるというワンクッションを挟んだうえ、慣れたらペーパーレス化する予定である。
また、当社は原材料から製品までの一貫生産を強みとしてきたが、その裏返しとしてノウハウが不足すると品質にバラつきを生じやすくなる。拠点を集約して稼働率を高め、ベテランが若手にノウハウを伝える機会を増やすことにより、単純なリードタイムの短縮に留まらない相乗効果が期待できる。そのため、向こう3年程度で2工場の統合を進めるべく、具体的な計画を作り始めている。
企業様の声
かつては当社の競合企業は数少なく、受け身の営業スタイルでもそれなりに受注してこられたが、市場規模が縮小する中で大手企業が当社の顧客層にまで降りてきて、競争は激化している。以前は有効だった2工場体制を現在では活かし切れず、収益性が低下していること等、問題は数多くあると気付いてはいても、好景気な時代の意識を完全に払拭できたわけではなかった。
今まで、東京都中小企業振興公社の「売れる製品開発道場」等に参加したことはあったが、商工会議所が窓口になっているサービスは、あまり活用したことがなかった。今回の企業診断では、当社の問題点とやるべきことを専門家に鋭く指摘していただき、とてもありがたかった。先々を見据えて、計画を立てる。そして、PDCAを回しながら実践していくことが大切だとよく分かった。解決するまでに時間の掛かる本質的な課題が複数あるので、本気で取り組んでいこうと決心した。
世の中に包装簡素化の流れは確かにあるものの、「包装」というものが全くなくなってしまうわけではないと思う。時代ごとに変わっていく顧客ニーズを素早く把握し、どういう付加価値を付けられるかを考え、それに見合った組織や管理体制で下支えしていきたいと考えている。
企業情報
企業名 | 平紐工業株式会社 |
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代表者 | 伊藤 直樹 |
創業年 | 明治36年 |
業種 | 製造業(結束・装飾・産業資材用テープ・リボン等) |
所在地 | 東京都八王子市美山町2161番地8 |
事業PR | |
URL | http://www.hirahimo.com/ |
平成25年11月19日
松林 栄一