香りを切り口にコモディティから脱出 -経営革新計画で販売戦略が明らかに-
企業名:株式会社メリ・テック 取材先ご担当者様:代表取締役 山口 祐治 様
マット等は、他社との際だった違いを出しづらい、いわば「コモディティ」製品である。そのため、どうしても価格競争を避けられず、当社の利幅は次第に低下していくが…
企業概要
株式会社メリ・テック(代表取締役:山口 祐治 社長)は、2006年5月に設立された。
山口氏はそれ以前、玄関・トイレ用のマット等の企画開発・販売・レンタルを業とする、従業員数約100名、年間売上約20億円の企業で、事業統括部長を務めていた。年数を重ね、業務の比重が徐々に管理分野に移るにつれ、仕事の面白さの感じ方が間接的になっていった。山口氏はこう語る。
「前職では、経営者との接触が多かったんです。『一国一城の主』である彼らが、熱い思いで事業に取り組む姿を見て、『自分はこのままでいいのか?』と思うようになりました。」
自分の力を試したい。本当にやりたいことをやりたい。そう強く欲する自分に気付いた山口氏は、前職企業を退職し、自分の会社を設立した。
まず、玄関・トイレ用のマット等を主に扱い始めた。前職で商材や売り先について熟知していたことから、始めからまずまずの売上を上げることはできた。しかし、マット等は、他社との際だった違いを出しづらい、いわば「コモディティ」製品である。そのため、どうしても価格競争を避けられず、当社の利幅は次第に低下していく。
「まだ売れているうちに、何か新しいことをやらねば。」山口氏はもともと、厳しい環境下で継続的に変わっていく必要性を認識してはいたが、最終的には2008年暮れのリーマンショックに背中を押されて、商品のみならず標的市場も変化させることを覚悟した。
山口氏が着目したのは、「香り」だ。人口香料を使った芳香剤等については、前職時代を含めてこれまでも取り扱ってきたが、近年個人市場で大きく伸びている天然香料を使って業務用のソリューションとして提供している事業者は、まだほとんどなかった。そこに大きな商機があると見込んだのである。市場としては、「競争が激しい中で差別化とファンの醸成を図りたい」というニーズが高そうな、パチンコホール業界に着眼した。
今回の記事で取り上げた経営革新計画の申請・承認を経て、山口氏は、営業と商品開発の両方における経験の豊富さを強みと改めて自覚し、新商品・新市場への思いを具体的な計画に落とし込んだうえで、計画を段階的に実施中である。
現在は、「天然香料を使ったアロマ関連製品を、手頃な値段でパチンコホール等の事業者向けに提供する」という事業モデルで、独自の地位を築きつつある。従業員数は4名とまだ少ないが、アロマ拡散器等のデザインや調香についてはプロに顧問になってもらい、専門的な知見を活かした経営を実践中である。
企業の悩み
新規市場への進出を考え始めた当時、山口氏は「自分だけで取り組むと偏った考えで進めてしまうのでは?」とリスクを感じていた。また、進出先として考えている業界の動向・将来予測や、有益な情報の所在や接触すべき適切な関係者等について、誰に尋ねればよいのか、見当もつかなかった。
2010年5月、山口氏は、取引のあった信用金庫の勧めで訪れた「としまビジネスサポートセンター」の相談員から、経営力向上TOKYOプロジェクトの話を聞き、商工会議所支部の窓口に相談を持ちかけたのである。
導き出された課題
経営指導員は、新商品開発・新市場開拓の経験が豊富な中小企業診断士とともに当社を訪れ、経営力向上TOKYOプロジェクトの経営診断を実施した。中小企業診断士による診断結果として、商品開発と営業の推進、運転資金対策等をセットにし、全体を計画的に進めていく必要性が改めて明らかにされた。そこで、経営指導員は、しっかりした計画を立てて取り組むという狙いに向いている点と、承認を受けることによる各種のメリットから、経営革新計画の作成を勧めることにした。
提案した中小企業支援施策
経営革新計画の申請に至るまでの支援態勢として、商工会議所のエキスパート(専門家派遣)が用意された。あわせて、新規事業に係る運転資金の増加について、経営改善貸付(マル経融資)の利用可能性があることも伝えられた。
- 専門家派遣(エキスパートバンク)
小規模事業者の皆さんがお持ちの経営課題に対応する登録エキスパート(専門家)を直接事業所に派遣し、具体的・実践的なアドバイスによって問題の解決に役立てていただくものです。 - 経営革新計画の承認
新たな事業活動を行う経営革新計画の承認を受けると、日本政策金融公庫の特別貸付制度など多様な支援を受けられます。
その後の状況
経営指導員と中小企業診断士が連携し、エキスパートでの3回の面談以外にも何度もやりとりをして、経営革新計画の申請までサポートを行った。経営革新計画は単なる数字合わせではなく、マーケティング、製品開発、販売までを含めた、総合的な中期経営計画である。計画作成プロセスの中で、経営者である山口氏は、進むべき道を具体的な言葉と数字に落としこんで整理することができ、2010年11月、無事に東京都の承認を得た。
創業して間もない当社にとって、知名度を高め、ブランドを確立することは極めて重要である。経営革新計画の承認を受けることにより、東京都のホームページで紹介される、プレスリリースがきっかけで当社が新聞に掲載される、普通なら会えない大企業の技術者に会える等のメリットがあった。さらに、計画作成の中で「自社の数字の管理のしかたはアバウトだった」等の気付きも得られたという。
その後、経営革新計画の初年度から、計画を上回る売上を達成することができ、商品自体の改良も順調に進んでいる。アロマ拡散器のボディは、最初は板金で10~30台を製造していたが、ロットが大きくなってきたため、今では金型を発注しての樹脂成形に切り替えて対応している。
今後は、パチンコホール以外の業種、例えば理美容業、高齢者介護施設、ディスカウントショップ等にも、アロマを使ったソリューションを提案していく計画である。山口氏は、全国各地から引き合いを得るためSEO対策として毎日更新しているブログなど、Webを活用した営業に加え、2011年に「展示会等出展支援助成事業」を活用して新作したカタログを使ってのリアル営業にも力を入れていきたいと考えている。
企業様の声
商工会議所について、その存在は前から知ってはいましたが、創業当初は仕事に集中していて余裕がなく、少し落ち着いたら行ってみようと思っていました。経営指導員の方には、経営革新計画の作成と承認のメリットを丁寧に説明していただき、承認までに何度もやりとりをして、疑問点に逐次答えていただきました。
現在、まだ公開はできませんが、既存商品よりもさらに手軽に使えるアロマ製品を企画中です。これからも、視覚や聴覚経由よりも無意識に脳に入ってくるという「嗅覚」の特長を活かし、ニッチなニーズを見つけて、それに『香り』の切り口で応える企業を目指していきます。
企業情報
企業名 | 株式会社メリ・テック |
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代表者 | 山口 祐治 |
創業年 | 2006年 |
業種 | 玄関マット等の衛生関連用品及びアロマ芳香器等関連用品の企画開発・販売・レンタル |
所在地 | (本社)東京都豊島区池袋2-33-14 (埼玉営業所)埼玉県さいたま市南区太田窪1941-47 |
事業PR | |
URL | http://meri-tech.jimdo.com/ |
平成24年5月22日
松林 栄一