経営者・幹部が研究開発、営業活動を率先垂範で行動している
人を動かすには、自ら動いて範を示す
人を動かそうと思うのなら、経営者が自ら動いて範を示すことが肝要です。経営のパラダイムが大きく変化してきました。安くてよい物を提供できれば売れるという「供給指向」の市場から、顧客が求める物をタイムリーに提供していかないと売れない「需要指向」の市場に大きく転換しています。そして、経済のサービス化、ソフト化などといわれますが、付加価値の源泉がノウハウや売り方などのソフト的な部分に移ってきています。そこで、顧客満足度を高めるには末端に至るまで一人ひとりの従業員の行動の質を高める必要があります。顧客から信頼される存在にならなければ継続的な取引、リピーターとしての信頼を勝ち取ることができません。そのため、最前線で顧客と直接対応する従業員には自分で考え、自分から率先して動き、採算性を考える企業家的な能力を発揮してもらわなくてはならない場面が増えています。そこでは幅広い職務領域をこなして、自律的に動いてくれる従業員であってほしいものです。このような人材は一朝一夕に育成できるものではありませんし、経営者や管理者に意識的に育てようとする意気込みがなければ育てることも難しいのです。経営者にも管理者にも、常に率先して範を示す行動が求められているということです。
人を動かそうとするなら、まず、範を示して、その意味を説明して納得してもらい、実際に体験をさせて、ほめてあげて(加点主義の評価)、自信を持たせなくては、人はなかなか納得して動きません。納得してくれなければ持続もしないものです。
ノウハウの移転で従業員を育てる
中小製造業における研究開発では、経営者が技術者でない場合でも、自らがあたかも研究開発のプロジェクト・マネージャーのような役割を担って引っ張らざるを得ない場面が多いものです(下図参照)。任せられる工場長や技術者が育っていれば別ですが、多くの場合は経営者が率先垂範でプロジェクトを引っ張っていかざるを得ません。
これは営業活動においても同様です。マーケティング、販売促進においては社長の人的ネットワークを契機に進める例が圧倒的に多いのが実態です。社長が方針を示して従業員に指示するだけでは、成果を出すことは難しいのが現実です。現在のような厳しい経済状況のもとでは、企画提案型の営業ができるかどうかが、業績に大きな影響を与えます。それを担える人材を育てるには、社長自ら営業活動の手本を見せることで、ノウハウの移転が進むことになり、従業員も育つのです。
Case Study
トップが時に最前線に立つことで企業に勢いがつく
JJ社の製品開発はテーマごとの担当者と社長の二人三脚で進める。途中、営業と開発の両部門間でのキャッチボールが始まり、先へ進まなくなることがある。その場合、自らも開発の最前線に立つ社長は「社長も従業員もスタートラインは同じ、後でいいとこ取りすればいい」と技術者のやる気を刺激する。そして開発がやりやすいように予算の自由度を高め、机上でアイディアが6~7割固まったら、すぐに試作してみろという。
(ケミカルポンプ製造・70人)
KK社の社長はもともと技術系だが、今は技術営業の第一線で頑張っている。とはいえ、いわゆるトップセールスとは異なる。社長も他の営業担当者と同様の販売目標があり、客先では営業部の名刺を持ち歩く。
(振動計測装置製造・23人)
全従業員の約3分の1に当たる35人が技術者というLL社は、技術部長を兼務する社長が技術者の指導に当たる。社長の毎朝は、技術者全員から提出されたレポートの添削で始まる。入念にチェックし、内線電話でもやり取りするため、まる1時間はかかる。
(めっき技術開発・92人)
Step Up
研究開発や営業活動でのトラブル対応に従業員を積極的に参画させている
従業員の育成では、OJTが最も効果があるということは改めていうまでもないでしょう。OJTをうまく機能させるには、「①上司や先輩との時間や空間をできるだけ共有すること」、「②やさしい仕事から難しい仕事へと仕事経験の階段を用意すること」、「③従業員自らが考えてさらに高度な勉強を自主的に進められるように、つないでいくこと」が重要です。とはいえ、仕事のなかでの修羅場経験が一皮むける体験となり、鍛えることになるのはいうまでもありません。そのような機会を有効に機能させることが、従業員を育てることになります。失敗が許されない現場で緊張感を持ちながらトラブルを解決する経験が自分を鍛え、その後の自分自身の能力開発への取り組みも大きく変質させるのです。