経営者が日常的に現場に出向いて直に意見を聞いている
「収益を生み出す現場」を知る
工場、工事現場、店舗など、企業には、いわゆる現場と呼ばれる場所があります。厳密な定義ではありませんが、総務や人事などのバックオフィスではなく、生産活動を行ったり、顧客と直接接触する部署を指していたりすることが多いようです。言い換えれば、企業の収益を生み出す中心となっている部門ともいえそうです。
小さな小売店や工場では、バックオフィスと現場が同じ場所か、すぐ近くにあって、そこでの状況は経営者にも比較的わかりやすいでしょうが、企業規模が大きくなればなるほど、経営者と現場との距離は離れていくことが多くなりがちです。
1-7(38ページ)でも説明したように、そうした現場の声が、本人から直接、あるいは他の従業員を通して経営者に届くような仕組みをつくることは重要です。しかし、それだけでは正確な情報を得ることはできないことがあります。整理整頓の状況など、実際に見なければわからないこともあります。また、従業員からはその人にとって不利な情報は伝わってきにくいですし、従業員が気づいていない重要な問題が隠れている可能性もあります。複数の従業員を介した情報は、なおさらそうした懸念が増大します。
経営者自ら現場を訪ねる
そうした課題を解決するためには、経営者自身が自ら現場に出向き、工場や店舗の状態を確認したり、従業員や顧客の様子を観察したりすることが必要です。そこで働いている従業員に経営者のほうから働きかけ、現場での課題、改善してほしい点などについて率直な意見を求めることは、正確な意思決定の重要な材料となり、自社の生産性を高め、顧客とのトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
実際、東京商工会議所のアンケートによると、「社長や経営幹部が現場をよく歩きまわり従業員に声をかけて話し合うことが多い」という質問に「該当する」と回答した企業の割合は、偏差値60以上の優良企業では74%で、中小製造業全体の54%を上回っています。企業の規模や業種によって求められる頻度は異なるでしょうが、少なくとも時々思いついたように訪問するのではなく、ある程度日常的に現場を回る習慣を経営者自身が身に付けるべきではないでしょうか。
Case Study
トップの聞く姿勢に従業員は応える
CC社の社長は、機械の展示会に従業員50人とともに足を運ぶ。参加は自由だが、見学した従業員からは新しい工具や設備の提案があがってくる。そこで、設備の導入などの判断を現場に任せると従業員たちは自ら勉強し、結果として生産性の向上を実現させる。トップの権限を管理職や現場に下ろすことで、従業員のやる気を引き出すことにつながった。
(精密歯車製造・50人)
DD社では、社内で月1回、全従業員が参加し、アイディア会を開いている。社長は、「街の中や家庭の中に、いろいろなヒントがころがっている。身の回りにあるちょっとしたアイディアが思いがけない新商品を生み出す」ことから、全従業員によるアイディア会に大きな期待をかけている。既に従業員提案で、具体的な商品が誕生するなど、アイディア会の成果も徐々に出てきている。製品化した物に対しては、売上の数パーセントを報奨金として支払っている。インセンティブを与えることで、商品開発に対する意欲はかなり高まっているという。
(電器機械器具製造・22人)
Step Up
(1)経営者と従業員との懇談会を定期的に開いている
従業員にとって、経営者はどうしても一線を引いてしまう存在です。仕事上の不満や不安があっても中間管理職を通してでは、真の意見を吸い上げることは難しいものです。
例えば、年に2回、社長がすべての従業員と面接をしている中小機械メーカーがあります。そこでは、仕事の進め方、新しくチャレンジしたいこと、仕事や企業への不満など、さまざまな問題について率直に意見交換をしています。当初はあまり話が弾まないこともあったそうですが、継続していくうちに本音をしゃべってくれるようになったといいます。このような面接や懇談会などコミュニケーションの機会を意図的につくっていくことが求められているのです。
(2)一方的に命令するだけではなく、従業員一人ひとりの意見をくみ上げるようにしている
社長が相手では、普段から考えていることでも、緊張して思うようにいえない従業員も少なくありません。真の情報を得ようと思えば、社長とはいえ、従業員のいうことに傾聴ができることが重要です。何人かの従業員を集めて話を聞く場合には、社長はむしろ進行役に徹して盛り上げる側に回ることで、フランクな意見を聞くことができるものです。
とはいえ、企業は学校ではありません。仕事を進めるなかで、「ほうれんそう(報告、連絡、相談)」を手際よくするようにしつけることも大事です。若者は、本人が一生懸命にやっているつもりでも、「ほうれんそう」が不十分なために、ミスが起こったり、カバーするのが遅れたりということが頻発します。結局それはしつけ教育で解決するしかないのです。