メニューと屋号を刷新し、顧客の再選定と客単価・利益率の向上に成功
企業名:有限会社寿司初 取材先ご担当者様:取締役:鹿野亮氏
先代が築き上げた看板を尊重するあまり、メニュー改定や料金変更がしづらい。燃料費高騰等の影響で鮮魚の価格が上昇する中、見直しを迫られる時期となっていたが…
企業概要
有限会社寿司初(取締役:鹿野亮氏)は江戸川区一之江にてお鮨を提供する飲食店である。当社は1970年に先代の鹿野安男氏が「すし初」として誕生させ、地域の方々へ本格的な江戸前寿司を提供してきた。現在、2代目として亮氏が引き継いで 13年目を向かえてい
る。
2018 年6 月には屋号を「鮨かの」に変更し、「三つの約束」(穴子へのこだわり、最良の素材のみを提供する仕入れへのこだわり、料理と相性のよい日本酒の提案)を特色として、地元で愛されている存在だ。
企業の悩み
「すし初」時代には、顧客指向を強く意識して経営を続けてきたが、顧客のニーズに合わせた結果、年々薄利多売の傾向が強まっていた。それは、価格の高い握り寿司ではなく、安価なつまみ等の一品料理が注文されることが多くなったためである。当店自慢の「握り寿司」の登場回数が減ることで、本格的な江戸前寿司を提供できる強みが希薄になり、多品種少量販売でオペレーションが煩雑になって仕事に追われる、という悪循環に陥っていた。
また、先代が築き上げた看板を尊重するあまり、メニュー改定や料金変更がしづらい点も悩ましかった。握り寿司における並・上・特上の3種類という設定や価格については、創業当時からほぼ変更していなかったが、燃料費高騰等の影響で鮮魚の価格が上昇する中、見直しを迫られる時期となっていた。
鹿野氏は、これらの悩みについて誰かに相談したいとずっと考えていたが、日中は仕込み、夜は店舗運営を夫婦でおこなっているため、実際にはじっくりと相談する機会をなかなか持てずにいた。このような状況下、信用金庫からの勧めで東京商工会議所へ相談に行き、本プロジェクトの紹介を受けて、経営診断を利用するに至った。
導き出された課題
経営診断の結果、主な課題として、①メインとなる顧客の見直し、②仕入れの適正化、③メニューの刷新の3 点が抽出された。
①に関しては、とりあえず席を埋めることを優先した結果、寿司を食べることよりもお酒を飲むことを目的とした顧客が多くなっていたため、当社の方針や強みにマッチした顧客にシフトする必要が挙げられた。
②に関しては、「産直day」と称して小田原の新鮮な魚を用意するイベントを実施していたのだが、当日まで仕入れの種類や量が不明な上に、仕入れが仲買人の判断でおこなわれてしまうため、採算が取れないケースも多かった。
そして、鹿野氏が最も重要視した点が③であった。メニューを刷新し、強みである握り寿司を訴求することは、①(メインとなる顧客の見直し)と②(仕入れの適正化)を円滑に進め、客単価と利益率の両方を向上させることにつながる。
提案した中小企業支援施策
当社の希望により、本プロジェクトの成長アシストコースを利用して、専門家から具体的なアドバイスを受けながら、上記の課題解決に向けて取り組んでいくことになった。
まず、専門家の助言により、競合他社を知るため、自分たちが目指したい飲食店を食べ歩いた。その中で、顧客の満足と同時に自分たちの満足も大事であること、そして人気のお店では、顧客が店側の提案を受け入れ、合わせてくれていることに気づいた。例えば、コース料理は、料理の順番や内容をお店が提案し、そこに顧客が合わせてくれているわけである。コース料理が中心になれば、仕入れや仕込みを調整することもできるし、少ない人員でも適切なタイミングで料理を提供できるようになる。
そこで、品質指向の顧客をメインターゲットとして握り寿司中心にメニューを刷新し、あわせて長年据え置いていた価格も引き上げることとした。強みである握り寿司に真心を込めて、より高いライブ感で提供するため、お客様にはなるべくカウンターに座っていただくように工夫した。
また、専門家からのアドバイスを受けて、ブログやSNS等のインターネットを活用したプロモーションも開始した。最初は効果が実感できず、辛い作業だった。しかし、ブログを書き続けることで自らの変化を知ることを動機づけにして、今日まで続けており、着実にアクセス数が増えて注目度は高まっている。
その後の状況
鹿野氏が最も実感しているのは、経営スタンスの変化だ。以前は顧客の満足度だけを考える顧客至上主義的な考えだった。特に強く印象に残った専門家の言葉は、「顧客とお店は対等であるべきだ、お店もプライドを持って営業しなければいけない」である。顧客の満足度とともに、自分達の満足度も向上させる必要があると気づいた点は大きい。
これまで競合店の調査等は行ったこともなかったが、自分らが目指したいお店へ行き、「一体何が顧客の心を掴んでいるのか。どのようなプライドを持っているのか」を考えるようになり、自分たちのスタンスも大きく変わっていった。
そして、支援開始から1年半で、屋号を「すし初」から「鮨かの」に変更した。当社のこだわりである握り寿司を強調するため、特に江戸前の握りを指す漢字である「鮨」に変更したのである。今では、客単価向上により安定的な売上を維持することができるようになり、食にこだわりのある顧客が遠方からも集まってくるお店へと変貌を遂げている。
企業様の声
今回の支援を受けて、本当によかったと思っています。他に相談相手がいない中、一緒に事業計画を作成していただけて非常に助かりました。
当店の売りは「私たち」です。正直、美味しいお鮨を提供するお店はたくさんあります。もちろん、お鮨の品質向上は今後も目指していくつもりです。しかし、他の競合店と最も差別化できるものは「自分たちの存在」だと思っています。ブログ等で定期的に発信を行いながら、握り鮨を一貫ずつ手渡しで提供し、自分たちの成長をお客様に見ていただきたいと考えています。
屋号の変更後、利益率が向上し、運営体制も大きく改善することができています。次の目標は「ミシュランガイドへの掲載」です!
経営指導員の声
鹿野様ご夫婦のお話をお伺いし、ターゲット・客単価の見直しやブログ・SNSでの積極的な情報発信等、成長アシストコースの支援を通じての専門家のアドバイスを、手間を惜しまずに行動に移されていることが、現在の成果につながっていると感じる次第です。
特に、ターゲット・客単価の見直しは非常に決断を迫られることだったかと思います。東京商工会議所としても引き続き、鮨かの様が末永く、江戸川区の寿司店として燦然と輝けるよう、微力ながらお手伝いできれば幸いです。
(東京商工会議所 松下周平氏)
企業情報
企業名 | 有限会社寿司初 |
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代表者 | 鹿野亮 |
創業年 | 1970 |
業種 | 飲食業(鮨店) |
所在地 | 東京都江戸川区江戸川4-25-7 |
事業PR | |
URL | https://sushikano.jp/ |
中小企業診断士 坂本敦史