認知度向上で新たな柱が確立の兆し -経営革新計画で新規事業が動き出す-
企業名:マイクロコム株式会社 取材先ご担当者様:代表取締役 清水 繁邦 様
顧客の困っていることを察知し、自社の技術を活かして解決策を提案することについては自信があったものの、販売先の開拓については、独力で効果的に行うのは難しいが…
企業概要
マイクロコム株式会社(代表取締役 清水 繁邦氏)は、1989年4月に設立された。清水氏はそれまで、学校時代の同級生と立ち上げた会社を共同経営していたが、そちらの事業に目処が立ったため、自分のやりたいことに集中すべく、独立することにした。1993年、社長の息子であり、他社でハードの製造・開発に携わっていた清水合期氏が入社。その後、親子で力を合わせて企画・開発に取り組んでいる。
初期の当社は、主に各種無線モジュールの企画・製作を行っていたが、時代の流れとともに、モジュール単体の引き合いが少なくなっていった。そこで当社は、東京都の新製品・新技術開発助成などを活用して、あるソリューションを開発した。それは、プリント基板に部品を固定する際に用いる「リフロー炉」のリアルタイム温度計測・解析システムである。
当社のシステムは、センサーと無線モジュールを使って「リフロー炉」の内部温度を正確に取り出し、グラフ等でビジュアル化できて便利なことから、大手メーカーを含む多数の顧客に採用されている。
「リフロー炉」のリアルタイム温度計測・解析システムは、10年以上にわたって売れ続けているが、これ一本に頼り続けるのはやはりリスクが高い。当社は、5~6年前から、別の事業の柱を作るべく、府中市工業技術情報センターなど複数の機関を相談と情報収集に活用し、準備を進めてきた。さらに、今回の記事で紹介する、商工会議所の支援を受けての経営革新計画への取り組みによって、企画・開発から販売先開拓までを含めた事業計画を明確にしたうえ、一歩ずつ前進を図っている。
当社の新製品の代表例として、「BGA用残留はんだ除去装置」(特許出願中)が挙げられる。BGAとは、平面の樹脂のパッケージから小さいボール状の電極が出ているICチップのことである。チップの不良時は、外して別のチップを付けるが、その前に一度、はんだの痕跡を手作業でクリーニングするのが普通である。当社の装置を用いることで、クリーニングの作業が飛躍的に効率化できるため、不良即廃棄とはいかない高価な基盤を扱う業界にとって、コスト削減のメリットが大きい。
今後は、個別の顧客のニーズに応える一品ものの受注をしつつ、定評ある「リフロー炉」のリアルタイム温度計測・解析システムについてはさらなるバージョン・アップを図り、さらに「BGA用残留はんだ除去装置」のように幅広い業界のニーズに応える汎用的な装置やシステムの開発・販売を推進することによって、経営基盤をいっそう強化していこうとしている。
企業の悩み
上述のように、事業の柱が一本では将来が不安だと考えた清水氏は、事業の間口を広げてもう一本の柱を作るべく、新製品の開発に取り組み始めた。顧客の困っていることを察知し、自社の技術を活かして解決策を提案することについては自信があったものの、販売先の開拓については、独力で効果的に行うのは難しいと感じていた。
ちょうどその頃、以前から何かと気にかけてくれていた、商工会議所の経営指導員の訪問を受け、心境を打ち明けた。経営指導員は、新製品について話を聞き、「非常に良いもので、良さを分かってもらえれば売れる」と直感した。当社製品の良さを世の中に知ってもらうためには一歩踏み出す必要があり、その方向性を明確化すべく、経営力向上TOKYOプロジェクトの企業診断を勧めた。2011年4月のことである。
導き出された課題
さっそく、経営指導員と中小企業診断士が訪れ、当社の診断を行った。診断結果の中では、新製品に取り組むにあたって、①競合に勝つための戦略を立てること、②消耗品の提供により安定的に利益が得られるようにすること、③売上高や利益など経営の具体的な目標や行動計画を設定すること、の3点の課題が指摘された。
提案した中小企業支援施策
これらの課題に取り組む際の効果的なアプローチとして、経営指導員と中小企業診断士は、当社に経営革新計画の承認を受けるよう勧めることにした。経営革新計画とは、マーケティング、製品開発、販売までを含めた、総合的な中期経営計画である。その作成の中で、自社の考えと進むべき方向性を、客観的に伝わりやすい形に整理し、経営の指針とすることができる。経営革新計画の承認には、企業の信用度が向上し、政府系金融機関の低利融資、信用保証の特例、特許関係料金特例減免制度の適用など、各種の施策を活用できる利点もある。この経営革新計画の取得を支援するため、専門家派遣の体制が準備された。
- 専門家派遣(エキスパートバンク)
小規模事業者の皆さんがお持ちの経営課題に対応する登録エキスパート(専門家)を直接事業所に派遣し、具体的・実践的なアドバイスによって問題の解決に役立てていただくものです。 - 経営革新計画の承認
新たな事業活動を行う経営革新計画の承認を受けると、日本政策金融公庫の特別貸付制度など多様な支援を受けられます。
その後の状況
経営指導員は、販路開拓に詳しい中小企業診断士を選定し、一緒に何度も当社を訪れた。他にも、清水氏に商工会議所主催の経営革新セミナーを案内する等、親身なサポートを行った。当社にとって、通常の仕事を回しつつ経営革新計画を作成するのは、やや荷が重いことに思われた。しかし、経営指導員と中小企業診断士の熱心な支援により、計画書の文章や数字はより明確でリアルなものにブラッシュアップされていき、2011年9月、東京都の承認を得ることができた。
その後は、「BGA用残留はんだ除去装置」をはじめとする新製品について、業界紙への広告出稿や当社ホームページ等を通じて知名度アップを図っている。また、大手メーカーの工場等へ赴き、製品デモや期間限定の貸し出しも行っている。今後は、経営革新計画承認企業の特典である「市場開拓助成事業」や、取引マッチングの機会なども活用し、より積極的な展開を図っていく予定である。
また、提案された施策のうち、「展示会等出展支援助成事業」については、東京都の助成金と同年度に併給できない府中市の助成金を用いて業界紙に広告出稿したため、まだ活用していないが、今年度はカタログ作成等にぜひ活用したいと考えている。
企業様の声
担当の経営指導員の方は、当社をいつも気にかけ、訪問してくださるので、心強い存在です。また、経営革新計画の承認をお手伝いいただいた中小企業診断士の先生は、仕事がスピーディーなのに加え、業界知識が豊富でアドバイスも実践的でしたので、とても助かりました。
当社は小規模な企業ですので一度に多くのことはできませんが、支援施策などを活用しながら、できることを着実にやっていき、小粒でピリリと辛いユニークな企業であり続けたいと思います。
要望としては、知的財産権に関する支援が拡充されるとよいと思います。ものづくりの基本である研究開発の促進のためには、特許の活用が有効ですが、特許の出願・審査請求など、取得するまでには多額の費用が必要です。外国特許のみならず国内特許についても、助成などの措置があると嬉しいですね。
企業情報
企業名 | マイクロコム株式会社 |
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代表者 | 清水 繁邦 |
創業年 | 1989年 |
業種 | 高温炉内通過型温度計測・解析システム、BGA用残留ハンダ除去装置、アナログ計測機器等の開発・製造 |
所在地 | 東京都府中市若松町2-37-2 |
事業PR | |
URL | http://www.micro-com.co.jp/ |
平成24年5月25日
松林 栄一