「着たい」と「期待」に応える着物体験、地域密着の呉服店
企業名:株式会社大松 取材先ご担当者様:代表:藤井博行氏
新型コロナ感染が拡大し、お茶会や外出等の着物を着る機会が減り、また外商・催事販売が難しくなったため、当社の売上が大きく減少した。社長はこのままの経営でいいのかという迷いがあったが…
企業概要
株式会社大松(代表取締役:藤井博行氏、以下社長という)は月島駅から徒歩4分、東河岸通りに面する呉服店である。
月島の和裁教室から生まれた当社は、創業当初から茶道家向けの着物を、外商や催事販売を通じて提供している。茶道の場では、畳の上で立つ、座るという動作が多く、また座ったままで膝を使って移動する、「にじる」という所作がある。そのため、茶道の着物は「作業着」と呼ばれるほど、作業性と耐久性が必要となる。
当社では、和裁の技術を生かし、お客様一人ひとりの寸法を測り、所作に応じて縫い目の間隔を調整し、作業性を確保している。生地に用いられるシルク生糸は、当社の指導のもと、ミャンマーのシルク工房で丁寧に紡がれた当社オリジナルのものであり、ハンドメイド特有のふんわりと柔らかく軽い風合いを持つ。お茶室の「わび・さび」という世界観への調和を追求した染めである「さびえ好」は、当社オリジナルの1点ものとして提供している。
作業性・耐久性・デザイン性に優れる当社の着物は、茶道の師範をはじめとする多くの茶道家に愛用されている。
企業の悩み
日本の茶道人口は、近年の趣味の多様化に伴い減少しており、市場は縮小傾向にある。また、和裁ができる人・興味がある人が減ったため、従業員の新規採用が難しく、和裁技術者の世代交代が進んでいなかった。
そのような中、新型コロナ感染が拡大し、お茶会や外出等の着物を着る機会が減り、また外商・催事販売が難しくなったため、当社の売上が大きく減少した。対策として、まず事務所がある建物の1階に、来店を予約制にし、消毒・検温設備等のコロナ対策を施した新店舗をオープンした。次に、自社の強みの1つであるミャンマーで紡がれたシルク糸を使ったミトンやラグ等のシルク製品の開発を行い、Hpa-An Silk Factory(パアンシルクファクトリー)ブランドを立ち上げ、新事業への展開を図った。
このような対策を実行しつつも、社長はこのままの経営でいいのかという迷いと、マーケティングや組織運営の方向性に不安を感じていた。考えをまとめるために、東京商工会議所の講演会を受講した。そこで、専門家による経営分析やその後の事業計画書の作成支援を受けることができる本プロジェクトを知り、今後3年間程度の会社の方向性を定めるため、支援を受けることを決心した。
導き出された課題
経営分析で指摘された課題は、①経営理念の明確化、②戦略的プロモーションの実施、③従業員の高齢化対策の3点である。
Withコロナ等の新しい環境で、事業の維持・拡大を図るには、事業計画策定等事業の方向性の見える化が重要である。そのため、まず計画の前提・指針となる経営理念の明確化に取り組むことが必要とされた。
また、コロナ禍により外商等従来の販売ルートを活用しにくい状況であるため、既存事業(着物)と新規事業(シルク製品)それぞれに対して、新たなプロモーション戦略の立案と実行が必要という助言を受けた。さらに、従業員の高齢化への取組も課題であった。社長は、これらの課題を解決するため、本プロジェクトのアシストコースを受けることにした。
提案された解決策
アシストコースを利用して、専門家から具体的なアドバイスを受けながら、課題解決に向けて取り組んだ。
「経営理念の明確化」では、お客様・従業員・会社・社会とのかかわり、の4つの視点から、「着たいという期待に応える」「努力が報われる会社」「伝統文化の継承」「社会に必要とされる会社」という理念を導き出した。
「既存事業のマーケティング」では、自社製品や歴史の紹介等の記載を充実させた自社WEBサイトの活用を強化した。また、当社店舗がある勝どき・豊洲等のタワーマンションに住む富裕層が多い地域性に着目し、茶道や着物等の伝統文化に興味を持っていただく取組を開始した。具体的には、親子連れ等をターゲットにした生糸作り体験会等を始めた。
「新規事業のマーケティング」では、当社シルク製品の強みである肌触り・耐久性を、高くても良いものを使いたいこだわりのある女性に対して訴求することとした。既存事業の顧客である茶道愛好家が、新事業のターゲット顧客層と重なるため、着物展示会等に来場される女性茶道愛好家に、新製品をモニターとして使っていただくこととした。
「社員の高齢化対策」については、関係があった和裁学校の卒業生に声をかけ、和裁技術者の後継者育成に着手した。
提案した中小企業支援施策
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その後の状況
社長がもっとも実感しているのは、経営スタンスに迷いがなくなったことだ。明確になった理念を拠り所に、自信をもって経営を進められると感じている。今後は、企業理念や行動指針を成文化し、従業員に浸透させ、各人が迷うことなく業務に取り組める体制を整える予定である。
既存事業については、社長がお茶会で知り合った茶道を始めたばかりの方から相談を受け、当社WEBサイト経由で来店を予約いただき、店舗で採寸・お見立てし、お買い上げいただいた。店舗とWEBサイトを活用した新しい営業スタイルに、手応えを感じている。店舗で実施した体験会や工作教室は好評で、地域に当社を認知してもらうきっかけとなった。これらは「伝統文化の継承」という当社理念に基づく取組であり、月島周辺の市場開拓の一環として継続する。
新規事業については、東京キモノショーやroomsPARK等の展示会への出展の効果もあり、繊研新聞(2022年11月2日号)等に取り上げられた。また、インスタグラムのフォロワー数も順調に増えている。本格販売に向けて、自社ECサイトの構築や代理店との契約等の準備を進めている。
従業員の高齢化対策については、当社が声がけした和裁学校の卒業生1名の応募があり、週数回出社していただき、研修を行っている。
企業様の声
今回の支援で、漠然としていた経営理念が明確となり、今後は自信を持って経営ができると思います。新店舗を活用した着物の市場開拓を着実に行うとともに、Hpa-An Silk Factoryブランドのマーケティングを強化し、新規事業の売上を当社全体の10%まで拡大することを目指します。組織面では、技術継承を進めながら、営業の効率化を着実に進めていきたいと思います。これからも商工会議所や専門家の方々の支援を受けながら、当社従業員と一体となって、お客様の「期待」に応えていきたいと思います。
(代表取締役:藤井博行氏)
支援者の声
経営理念の明確化という経営の根本のところから腰を据えて支援させていただくことができました。With コロナという新しい環境の中では、販路開拓・組織改革といった課題を従来のやり方にこだわらず、一つひとつ解決していく必要があると思います。従業員を巻き込んで、粘り強く取り組むためには、軸となる経営理念とその共有化が必要です。今回のご支援のように、経営理念の見つめ直しから始める支援を広げていきたいと考えています。
(東京商工会議所:越川翔太氏)
企業情報
企業名 | 株式会社大松 |
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代表者 | 代表:藤井博行氏 |
創業年 | 2011 |
業種 | 小売業(呉服・和装小物の販売) |
所在地 | 東京都中央区月島4-8-10-101 |
事業PR | |
URL | https://kimonodaimatsu.co.jp/ |
中小企業診断士 大池俊輔