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058Chapter1Business Methods取引先を集中させるメリット、デメリット 取引先を集中させることは、企業にとって一定のメリットがあります。ロットの大きい取引をすることで、生産や流通の段階でのコストダウンを図ることができるからです。密接な取引関係のもとでは、商品開発や情報のやり取りなどの面での連携も、より容易になります。下請分業体制や特約店制度は、取引先集中のメリットを生かしたものといえます。 一方、取引先の集中にはデメリットもあります。まず第1に、取引先を失った際のダメージが大きくなることです。販売先が海外や地方に移転したり、仕入方針を転換したりといった理由で、大口の売上が急減したり、ゼロになったりするかもしれません。廃業や倒産だけではなく、自然災害や事故による影響もあり得ます。最悪の場合、連鎖倒産にもつながりかねません。仕入先も同様です。右図のケース1は1社に依存する極端なケースですが、この場合、仕入先が倒産して原材料がストップすれば、しばらく操業停止に見舞われる可能性が高くなります。一方、ケース2のように仕入先が分散していれば、他の仕入先からの支援で、ある程度ダメージを軽減できるでしょう。 第2には、価格競争力の問題です。取引先に対する依存度が高いということは相手にもわかっていますから、価格交渉の場ではおのずと強気に出てきます。売上高の割には利益にならない場合も出てきます。下請企業が単価を定期的に下げられるというのはよくいわれることですが、中小企業庁の調査でも、企業間取引においては取引先が多いほうが価格決定力は高まるという結果が出ています。 第3に、新しい取引先を確保するインセンティブの低下です。取引先が存続している限り、特に担当者レベルでは、大口取引先に集中するほうが楽に仕事ができます。品質や価格面でより条件のよい取引先候補があっても、既存の取引先を優先してしまい、新たな取引の可能性を失ってしまう懸念があります。過度の集中を避け、意図的に分散を このように、取引先の集中を考える際には、メリットとデメリットのバランスを常に考慮する必要があります。特に、ごく少数の取引先への過度の集中は、企業にとって大きなリスクとなりますから、ある程度意図的に分散を図っていくことも、経営の選択肢のひとつとして重要でしょう。特定の販売先や仕入先に依存しないよう、取引先の分散を図っている1-17

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