116Chapter3Business Methods職務基準と職能要件基準を示して指導、評価を 日本の賃金体系は年功序列賃金といわれてきましたが、実際の運用はかなり能力主義的になされてきました。つまり、短期間の評価ではなく時間をかけて個人を格付評価する慣行が色濃かったのです。グローバル化が一層進んだ90年代半ば以降は、能力を重視する点では変わらないのですが、社会の変化に柔軟かつ迅速に対応する必要性から、潜在的能力を重視し時間をかけて評価するかたちから、顕在的な能力を重視するかたちへと移行してきました。 このような状況を鑑みると、人材育成においては、本人が身に付けた技能や知識を見える化して、客観的に評価し、それによって昇進・昇格、昇給を決めていくことが重要です。さらには、新たな技能や知識を身に付ける機会、教育を受ける機会の提供もこれと対応させていくことが重要でしょう。経営者や管理者には、従業員の特徴や能力を把握して、人材育成の機会を提供していくことが求められます。 人事考課では、「❶各人にどのような職務活動が期待され要求されているのか」といった職務基準と、「❷従業員として必要な能力とはどのようなものであるか」といった職能要件基準を明確にすることが前提になります。その職務基準と職能要件基準に照らして、各人の職務活動や能力を分析、評価したうえで人事考課に結び付けるのです。将来の目標やキャリアモデルを示して動機づけを 人材育成では、このような各人の技能や知識の見える化による評価に加え、将来の目標について具体的に提示することも重要です。 若者が辞めてしまうのは、賃金や労働時間の問題だけではありません。むしろ、自分がこの企業で働き続けた時にどのようなキャリア(職業経験)展望があるのか、ということを見通せないことに不安を感じて、辞めてしまうケースが圧倒的に多いのです。 経営者は将来このように育ってくれればと夢を描いているはずですが、若者本人にそれがうまく伝わっていないことが多いのです。同期の若者同士で固まってしまい、仲間内の限られた情報だけで、先輩や上司に素直に相談をしないで誤解したまま辞めてしまうのです。 若者に対しては、入社3年で一人前、5年で後輩指導ができる水準、10年でやっと本格的な中核的な従業員になるといったキャリアモデルを明示することが重要です。このようなキャリア展望を与えることが、本人にとっても大きなインセンティブ(動機づけ)になるわけです。 日本の企業は一生懸命仕事をして成果を上げると、給与やボーナスに反映させるよりも、よりチャレンジングな仕事を担当させることが多いです。「仕事のご褒美は仕事」ということですが、本人にとっては説明を受けないと、「一生懸命にやったのにかえってきつい仕事をやらされている」と、その意味が理解できないものです。 チャレンジングな難しい仕事を担当することで自分自身が成長すること、成長して皆が認めれば昇進・昇格を通して給料も高くなるということを、機経営者(または管理者)は、社員の特徴や能力を把握し、具体的な目標を本人に提示している3-9
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